油水分配係数o/wが1より大きかったら、水に溶けない?本当?
物質が脂溶性か水溶性かは、臨床上の判断材料として使うことは実は少なくない。
まず、腎排泄型か肝代謝型の目安として利用されることが多い。でも、後述する数値から読み取れる ”クセ” を分かっていないと判断を誤る原因になる。
また、何らかの事情で食事が摂れない場合などに、空腹状態で服用したら消化管吸収率はどうなるか、有効性・副作用などに影響は出そうか、などの目安にもなる。
そこでの指標となるのが、油水分配係数なのだが、「o/w」と表記されることが多く、その数値が「1より大きければ脂溶性、1より小さければ水溶性」と認知されている。
しかしこれ、当たり前のことかもしれないが、1より大きいからといって完全脂溶性というわけではない。
例えばo/w=5.5の物質があったとして、これは「油層への溶けやすさが水層の5.5倍」という意味であり、「どちらかといえば油の方に溶けやすい」というだけの話なので、水にもある程度は溶ける両親媒性と捉えた方がいいこともある。
この辺の「忖度」みたいな部分を理解しておかないと判断を誤る。
さて、実際にインタビューフォームに記載されている様々な分配係数を比較してみる。
まずはアムロジピン錠。
次はファモチジン。通常はオクタノール層の方で考える。どのpHでも水溶性の傾向を示している。
次はロキソプロフェン。胃では脂溶性、小腸では水溶性になるようなイメージ。
グリメピリドは以下のような感じ。
お次はカンデサルタン。どのpHでも1,000以上ある。
最後にダビガトラン。log標記なので分かりにくいが、o/wに換算すると約6,000くらい。非常に脂溶性が高い。
こんな風に医薬品ごとに、またpHによってもo/wは大きく変化する。
アムロジピンの「26.1」という数字は確かに1よりは大きく「油層への溶けやすさが水層の26倍」という意味だが、薬剤によっては数百も数千にもなるものもあり、それらと比べるとそれほどべらぼうに脂溶性が高いわけではないと判断すべき数値。
アムロジピンくらいのo/wなら両親媒性と判断してもいいのではないかと思うくらい。
o/wが3桁以上なら脂溶性、1~2桁なら両親媒性、1以下なら水溶性と捉えておけばいいのではないかと思う。 → 参考:logP(logD)は1~3を推奨。
代謝排泄過程の判断の指標にする場合、例えば「アムロジピンはo/wが26あるから、脂溶性なので肝代謝型」としてしまうのは正しいとは言えない!
まぁ、他のデータなども加味して総合的に判断しなければならないが、アムロジピンの添付文書には以下のような記載もあり、腎臓からの排泄はゼロでなく、腎機能の低下した症例では過降圧のリスクが想定できる(アムロジピンは腎血流量を低下させるという背景からもCKD患者への投与は望ましくないのだが)。
油水分配係数を理解できていれば、こういうことの判断にも使える。
さて、このo/wと食事との関係だが、ざっくりと「食事=油脂」として考えるのがいいだろう。
つまり、脂溶性の高い物質は食後に服用したら吸収が良くなるが、空腹で服用したら吸収が低下するという考え方。水溶性の高い物質はその逆。
両親媒性のものは、食事の影響は受けにくいと考えていいと思う。
上の例でいうと、カンデサルタンを空腹時服用した場合、十分な効果が得られない可能性がある。
ファモチジンは空腹時の方がいいのかも・・・「夕食後」の用法が近年追加されたが、当初通り寝る前服用の方がいいのかも。また水溶性が非常に高いので、CKD症例では減量しなければならないのはうなずけるだろう。
ロキソプロフェンは「何か食べてから飲んでください」と指導する薬剤師もいるだろうが、胃障害防止目的だけではなくて、効果の面でもその方が妥当なのかも。
アムロジピンはどっちでもいいwww。
グリメピリドはこういう概念関係なく、空腹時で飲んだら低血糖誘発のリスクがあるから食事の直前or直後で(笑)。
pHとの関係性から、消化管のどの辺から吸収されやすいかも、これらのデータから読み取れる。
再記述になるが、例えばロキソプロフェンは低pHでは脂溶性、高pHでは水溶性なので、胃から吸収されやすいのだろう。速攻性を期待する薬なので、その方が都合がいいとも解釈できる。
※インタビューフォーム内情報では、「胃、十二指腸、空腸、回腸間に吸収性の差はみられない」との記述はあるが・・・。
ダビガトランはちょっと特殊で、o/wが6,000というのは脂溶性が高すぎて消化管からは吸収されにくいとされている。なので「pKa」の概念を利用して製剤に工夫がされているのだが、それはまた別稿で。