Netflixオリジナルドラマ『アッシャー家の崩壊』ep3小ネタ解説
(以外、小説、ドラマのネタバレを含みます。)
この文章を書いているのはケビン・ベーコン出演のドラマ『The Following』を見てポーの小説を読みあさったただのオタクですのでお手柔らかに。
見ました。『アッシャー家の崩壊』ep3: モルグ(死体保管所)の殺人。え?残り時間少ないけどちゃんと死にます?と思った展開だったが死に方はちゃんと『モルグ街の殺人』だった。むしろそのぐらいしか『モルグ街の殺人』さはなかった。ポー要素もあまりなかったのでep1、ep2よりは語ることがない(と思う)。
まず『モルグ街の殺人』の話をする前にep3の冒頭の感想を述べたい。
「モレラ逃げ遅れとったんかい!!!!!」
なんと残念な。むしろ死んだ方がマシな状態だぞ、あれ。レノーアも可哀想に、トラウマもんだぞ。そう考えるとep2はやっぱり"赤死病"より酷い気がする。"赤死病"は致死率100%なので。そして、あの状態でよくあれがモレラと分かったな。他の客の身元も確認取れてたし。あと、アーサー・ピムに「何も触るなよ!」って何回も警察が言ってたけどもちろん触るし、証拠品も持って行くに決まってるじゃんかよ〜そして「生存者がいるぞーー!」と、てこてこ出てきたのはすまん可愛かった。その生存者がモレラだとは思わんかったが。
さて、『モルグ街の殺人』の話をしよう。そんなに話すことないけど。
以前に述べたようにポーの代表作の一つである『モルグ街の殺人』は世界で最初のミステリー小説とされている。主役はC・オギュースト・デュパン(ドラマではアッシャー家を罪を追求する検事の名前になっている)と彼の頭の良さに驚かされているばかりの語り手。シャーロックとジョンかな?逆だけどね。だが本当に彼らのような関係。語り手「どうして分かったんだい?!」ジョン「どうして分かったんだ?」こう。同棲もしている。基本的に引きこもり生活をしていて訪れる者もいない二人きりの生活をしているので、シャーロックとジョンよりやばい(?)かもしれない。語り手がジョンと違うところといえば、デュパンが瞑想に耽ってる間、彼も一緒に瞑想に耽るところだろうか。因みに舞台はフランスであり、『マリー・ロジェの謎』『盗まれた手紙』と3作ある。
ドラマのデュパンは正義感が強い人物なのだが、原作のデュパンは、まぁ想像通りそうでもない。事件が自分の興味を引くか否かだ。語り手と実験のために家に引きこもって来訪者も断り、熱中のあまり新聞すら読まずに1ヶ月経過してたこともある。てか語り手も相当変人だぞ。それに、彼は事件の解決依頼をしてきた警視総監(レストレードみたいな感じだな)の長い(7,8時間)事件への見解話を聞いてるふりをしながら爆睡してたこともある。ドラマのデュパンはそんなことしなさそうだし、彼ならそんな長い(彼にとってどうでもいい)話など途中でズバズバ遮りそうだ。
『モルグ街の殺人』のあらすじとしては、
新聞: 殺人事件が起きたよ。
デュパン: 興味湧くなぁ。現場行こう。解けたよ。簡単じゃん。
語り手: え?!
終わり。
さて、ep2で死ぬカミーユ、カミーユ・レスパレーネは『モルグ街の殺人』での被害者(母親と共に)である。因みに登場した時から死んでいるので、どのような性格だったのかはわからない。この文章の初めで"死に方は『モルグ街の殺人』だった" と言ったように、彼女はサルに殺される—ただし原作ではチンパンジーでなくオラウータンに。流石にシナリオ上、オラウータンは難しかったのだろうな。小説では絞殺された後に煙突部分に押し込まれるなど、まぁ可哀想に、もちろん傷跡もひどい。実はそれより酷いのが母親で、オラウータンが手にたまたまカミソリ持っていたせいで首が落ちてしまった。あら...。なのでドラマでも同様に惨殺されるのは予測できたのだが、きちんと映像化してくれてその点においては満足できた。
カミーユの殺され方以外にもう一点あった『モルグ街の殺人』要素は、警備員に姿を変えていたヴェルナの名前である。ちらっと映るそれを見ると「ル・ボン(LE BON)」と書いてある。これは小説の中でデュパンの知り合いであり、一度殺人の容疑がかけられ逮捕された人物の名前である。フランス語で「善良な人」という意味の彼は、小説では無実でデュパンの説明によって釈放されたが、ドラマでは果たして「善良な人」なのか。
そういえばドラマでは日本の題名が『モルグ"(死体保管所)"の殺人』となっており、小説の『モルグ"街"の殺人』と異なっているが、英語では"Murder in the Rue Morgue "(ドラマ)と"The Murders in the Rue Morgue "(小説)であり、字面だけではカミーユ・レスパレーネのみが死ぬか(murder)、レスパレーネ親子が死ぬか(murders)のみの違いになっている。上手くできてるな〜。因みにrueはフランス語で通り(街)の意。上手くできてるな〜!
さてさて今回もep3における『モルグ街の殺人』以外のポー要素を見ていこう。
過去の回想シーンにおけるロデリックとマデラインの会話: レンガを積む、これはもしかしたら『アモンティリヤードの酒樽』のフラグかもしれない。会社名自体フォーチュナート(酷い目に遭う人)なのだから、グリスウォルドもフォーチュナートみたいな目に遭うのを期待したい。(ひどい)
ロデリックがアナベルに朗読していた詩は、もちろん『アナベル・リイ』。いちゃいちゃしてんな。
ロデリックの子どもたち、フレデリックが長男で次がタマレーンか。死ぬ順がプロスペロー(末っ子)→カミーユ...→タマレーン→フレデリックだから、ワンチャン下から死んでいるな?(カミーユ、レオ、ヴィクトリーヌの歳の順が定かではないが。)
そして、ep3ではヴィクトリーヌとタマレーンの元にヴェルナが現れ死亡フラグが立ったが、レオにも完璧に死亡フラグが立った。レオは『黒猫』で死ぬことが分かっているが、今回で既にレオは小説通り黒猫プルートーを殺してしまう。『黒猫』についてはep4を見たあとに詳しく話したいが、とにかく彼が死ぬ準備(フラグ)は整った。まさかep3の時点で猫ちゃん殺すとは思わなかったが。「前回はいつ戻ってきたっけ」「3日」(やっべ〜3日以内になんとかしないと)のレオの顔最高だった。『黒猫』では語り手(=レオ)が死なないので、ドラマではどのように死に至るのか楽しみだ。
因みにヴィクトリーヌの前に現れたヴェルナの運転免許証を見てみると、名前はパメラ・クレム。ポーの妻であるVirginia Eliza Clemm Poeかららしい。へーーーーー。そしてReynolds StreetのReynoldsはポーが死ぬ間際に繰り返した名前らしい。へーーーーーーー。ポーの最期の言葉といえば"Lord, help my poor soul. "も有名なので、ドラマにも出てくると良いな。
そういえばカミーユの助手のトビー、ちゃんと(?)『悪魔に首を賭けるな』に出てくる人物の名前でした。よかった。一人ぐらい周りにポーの作品から取った名前のキャラいてくれと思ってたんだよ。あと、リゴドーンを作ったメッツァーは『メッツェンガーシュタイン』の略でいいのかな?プロスペローをペリーというぐらいだし。
さてさて、いつもよりポーについては語ることがなかったep3ですが、カミーユの死に様に結構満足している私です。あとグリスウォルドが『アモンティリヤードの酒樽』になってほしすぎる。
ep4はこれまたポーの代表作『黒猫』。楽しみだね。
『モルグ街の殺人』、読んでね。
アディオス
参考
エドガー・アラン・ポー、巽孝之訳(第七刷2016年)『モルグ街の殺人・黄金虫—ポー短編集Ⅱミステリ編—』新潮文庫
エドガー・アラン・ポー、鴻巣友季子・桜庭一樹編、2016年『ポケットマスターピース09 E・A・ポー』集英社文章ヘリテージシリーズ
エドガー・アラン・ポー、阿部保訳、(第54版2012年)『ポー詩集』新潮文庫