患者対応・薬情の限界と副作用の訴え
「ねぇ最近こんな症状があるんだけど薬の副作用かしら?だって説明用紙に書いてあるし、あの薬のせいじゃないかしら?」
っていう患者に薬剤師なら誰もがあたったことがあるのではないでしょうか。
そしてそこで必ず「薬情なんて一部の副作用しか書いてないし何をうのみにしてるんだ」などと思ったことがある薬剤師も少なくないはずです。
でもそれは患者さんは悪くないです。
だって患者さんからすれば、薬情が全てですから。
ちなみにうちの薬局は薬情は担当者の裁量でどの副作用を載せるかが決まってしまいます。
ダウンロードしたテンプレ文章を使う場合もありますが、それでも全ての副作用を網羅する薬情を作ることは不可能です。
だから例えばメトトレキサート2mgの薬情であれば、重大な副作用といえば鬼のようにありますしそれ以外にも注意すべき項目はあるというのに感染症の注意喚起と間質性肺炎の初期症状の記載にとどまってしまう、といったことになっています。
メーカーリーフを今はだいたい配りますが、配りもれた人などはメトトレキサートの副作用は感染症と肺炎だけだと思い込んでしまいます。
しかし残念ながらこれが薬情の限界なのかもしれません…
薬情に収まりきらない副作用や注意事項は薬剤師の初回指導と毎回の特定薬剤管理指導で補って患者の理解を深めていく必要があります。
最初の話になりますが、患者自身が副作用を疑ってわざわざ申し出てくれた場合、それを頭ごなしにちげーよクククとあしらうのは違います。
よく薬情の記載のまんま患者さんが訴えてくるものの上位にはスタチン系の横紋筋融解症があります。
メーカーリーフには絶対ありますし、薬情でも採用される場合が多いからです。
ただの筋肉痛じゃねぇの?と思っても、横紋筋融解症は血液検査と尿検査である程度当たりをつけることができることは伝える必要があります。横紋筋融解症は自覚症状がなくても調べてみたらCK2000!血中ミオグロビン高値!みたいなことがあるので、自覚症状がある人は可能性はないとは言いきれません。
またスタチンにはその他の副作用の項にも筋肉痛があります。これが横紋筋融解症が起こるかもしれないと思ってそんな気持ちになった結果上がってきた副作用なのか、それとも横紋筋融解症に発展する前に報告された副作用なのか、添付文書を見ただけではわかりません。
まだ高脂血症治療薬の主流はスタチンですが、以前と違い他の選択肢も出てきてはいます。スタチンが嫌なら、他も選択できる可能性があります。
なので、受診を促していい訴えだと思っています。
(ちなみにうちの会社では横紋筋融解症は2年に1度くらいはお目にかかる副作用で、スタチン以外でも見たことがあります。)
メトトレキサートの話ですが、副作用の訴えが割と多い薬剤だと思います。
重大な副作用に直結しそうな訴えの場合は相談を受けた段階ですぐに病院に繋げるのが正しい対応です。骨髄抑制や肝機能障害は受診時に発覚しますので、一般の血液検査でわからない空咳やリンパの腫れ等ですね。
我々がすぐさま病院に行かんでいいだろうと思う副作用を訴えられた時が困るのではないでしょうか。
①口内炎
……これはできると思う。MTXなら口内炎できるだろ。んなもんあたりめーだろ。
とは思わないようにしましょう。口内炎、命に直ちに関わる副作用ではないですが、口内炎がいくつもできた口内を想像してください。辛いです。
予約日まで日がある場合は受診をすすめるのもいいですが、OTCの塗り薬やうがい薬で乗りきってもらうというのも手です。
②悪心
……あると思う。MTX飲んだその日だけ胃が痛いだの吐き気するだの言う患者さんもいるけど、1日我慢すればいいわけでしょ?そんなんで中止とかは違わない?耐えろよ。
とは思わないようにしましょう。MTX開始直後は増量の検討の関係もあり、そんなに長い期間あけずに受診となりますので、そういったマイナートラブルは頓服薬によって解消できる可能性があるため薬手帳に記載するなどして次回確実に医師に伝わるようにしてもらいましょう。こちらから情報提供用紙を用いて報告もできます。頓服薬の処方検討の他にも、用法の分割や減量等の提案もできそうですね。
③脱毛
……これは長期服用の、しかもそれなりの年齢の女性から多くあがる訴えです。年齢的なものだろ…と一瞬思いますし、多くの患者が医師に相談していますが「年齢的なものでしょう気にしないように」と言われて落ち込んで薬局にやってきます。
患者さんの気持ちに寄り添ってあげることがまず必要でしょう。だって脱毛なんてショックじゃんね。一応添付文書にもありますし、可能性がないわけではない。脱毛に関しては薬情に採用される確率は限りなく低く、悩みに悩んだ結果ネットで調べたら副作用項目にあった!これだ!と思い込んで来局される方も多いのです。
その方の気持ちに合わせるのもいいとは思います。メトトレキサートは今もなおリウマチ治療の最前線であり、更にコントロール良好な場合マイナートラブルで中止するには惜しい薬剤ですが、近年メトトレキサートが副作用により使えなかったり肺疾患や肝疾患で使えなかったりする方も、他の薬でうまくコントロールしている場合が多い。ベネフィットを最大限アピールして、それでも飲みたくないこいつのせいで禿げる!と思うのであれば他を選択してもらうという道もあります。
ただ現在はかつらの進歩も著しく、とても素敵なかつらが数多く発売されていますので、それで気持ちが楽になるならそのほうがいい。
つまり薬局で何をすべきかというと、気持ちに寄り添って辛い思いを受け止めるのと、続けた場合のメリットの説明、かつらの存在、年齢的に髪が薄くなるのは誰もがそうであるということの説明、やめた場合にどんな選択肢があるのか、をさらっと説明する程度でしょうか。脱毛の副作用報告をあげることにはよっぽどでなければ固執しないほうがいいですね。
副作用の多い薬剤の薬情は本当に難しいです。全ての副作用はスペース的に無理だし、効能効果に比べてボリュームが増大になり怖い薬に見えてしまう。
それを補うだけの薬剤師の説明が必要です。
よくわからん薬を出すとき、よくわからんまま投薬口に行って薬情をただ読んで終わりにする薬剤師がたまにいますが、それじゃ全然足りないのです。
せめて重大な副作用と初期症状とそれが出た場合どうすればいいか、あと高頻度のマイナー副作用くらいは説明しましょう。初回で足りない分は、フォローアップTELがいいかもしれませんね。
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