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7月27日(土)~31日(水) 冷たい石

7月27日(土)

なんとなく一日余裕を持って香川に来たのだけど、何をしようかなと思っていた。島に行くのがいいのかな、直島でも行こうかな、と昨日なタ書の藤井さんに行ったら、直島は混んでるから豊島のほうがいいのでは、と言われたので、豊島に行くことにした。なんか美術館があるらしい、というくらいの情報しか知らないままで。

高松港からフェリーで40分ほど。
とりあえず徒歩で港の近くの大竹伸朗と横尾忠則の作品を回る。
通りすがりにあった「てしまのまど」というカフェに寄ってパンを食べたら、好きなマンガ『私のアルバイト放浪記』のZINEがあったので買った。こんなの出てたんだ。

店の人と話すと、西荻窪のFALLで作品の展示をしているらしく、東京に戻ったら行こうと思った。

パン

豊島美術館までは距離があるのでバスに乗るか電動自転車を借りるかだ。自転車を借りてみた。自転車だと30分ほどらしい。
結構アップダウンがあるのでこれは電動じゃないとキツそうだ。猛暑の日だったけど、そんなにキツくなかった。島は風があって、湿気が溜まってないからだろうか。気持ちいい暑さだった。

坂を登っていったら一気に景色が開けて海が見えたので、自転車を止めて一休みする。

進んでいく
バッタ

休んだ場所からすぐあとに美術館があった。

豊島美術館には、作品が一つしかない。内藤礼さんの。
何の前情報もなく来たんだけど、めちゃくちゃ好みの場所だった……。

白くて大きくて、なめらかな建築物の中に、靴を脱いで入る。静かでひんやりとしている。多くの人が座ったりしてくつろいでいる。
冷たいものを踏んでしまって、床を見ると、ところどころから水が湧いてきている。水は流れを作って、一箇所に集まって泉を作る。
大きく開いた開口部からは、光と空気が入ってくる。自然とつながっている空間なので、春夏秋冬それぞれ違う良さがある作品なのだろうけど、真夏のこの空間はかなりいいぞ、と思った。涼しくて、蝉の声が聞こえてきて。
しばらくぼーっと座ったり、寝転んだりしていた。戻ってきた、と思った。ライブハウスに行ったときと同じような感じだ。こういう空間にずっといたかったのだ。社会や人間から切り離されて。
そういえば、海を見たときも、戻ってきた、と思った。もっとちょくちょく戻らないといけないな。
人間の世界に帰りたくなくなってしまった。生きているといいものが見れるな。

自転車で港まで戻ってフェリーで高松へ。エリーツメンバーと合流して、居酒屋。カツオの塩たたきとカレイの唐揚げが美味しかった。

カレイ

そのあと、どこかに入ろうかと思ったけど適当なところがなかったので、交番裏の広場で少し喋ってから解散。ホテルに戻って眠った。


7月28日(日)

高松駅すぐ

文フリ香川、それほど会場自体は大きくないのだけど、異常に盛況だった。香川は文化的ポテンシャルがあるんだな。瀬戸内のアートとかもあるしな。高松だと、四国の他の地域とか、岡山からも来るみたいだし。
時間の半分くらいで僕の持ってきた本は売り切れてしまった。もっと持ってくればよかったな。
意図的な配置だろうけど、向かいのブースに森見登美彦さんや円居挽さんがいて、作家の密度が高かった。

途中で抜け出して、藤井さんと喫煙所で話す。ごはんを食べる場所のおすすめを聞いたら、フェリー待合ターミナルがゆっくりできていいのでは、と言われたので行ってみた。うどんは品切れだったので牛丼を頼んだ。

優雅な時間

閉会後、喫茶店でちょっと話したあと、ホテルに一旦戻って露天風呂に入る。そのあと本屋ルヌガンガへ。佐々木典士さんとのトークイベントだ。

ルヌガンガ

ルヌガンガ、かなり理想的な本屋だった。いい本が揃っているのはまあ当たり前なのだけど、圧がない感じで、好きに見ることができる(勉強しなきゃだめな気にさせられるとか、尖ったセンスを誇っているような圧のある本屋はときどきある)。
本棚の高さが高くなくて、店内がゆったりしているせいもあるだろう。こういう空間の使い方は東京ではできないよな、と思う。

トークイベントは『パーティーが終わって、中年が始まる』の話をしなきゃいけないのだけど、この高松での3日間が楽しすぎて、パーティーが始まってる感じになってしまった。
佐々木典士さんがいろいろ話す項目をたくさん考えてくれてて、それをルーレットアプリみたいなのでランダムに話していく感じに。中年の哀愁や、中年の良さについてとか。
中年ならではの曖昧な良さというのもあると思う。スズキナオさんの『家から5分の旅館に泊まる』とかは、中年の疲れた感じが出た旅エッセイでとてもよかった。
あと、豊島で見た横尾忠則が『時々、死んだふり』で、80代とかになると細かいものは見えないし描けないので、大雑把にやるしかないので、むしろ絵の生産スピードは上がった、と書いていたのもよかった。若い頃は理屈とか理論で作りがちだけど、年を取るとそういうのめんどくさくなって感性のままにやれるような。

質疑応答で気になった質問。

坂口恭平さんとかも同時期だ。あと、ノマドブームみたいなのもあった。
就職氷河期やリーマンショックを経て、既存の正社員じゃない新しい生き方を探る動きが生まれ、日本は低成長かもしれないがもう無闇に成長を求めるのではなく質素で地に足のついたライフスタイルを目指そう、みたいな空気感だったと思う。
今思うと、そういうことを言ってた当時はまだいろいろ余裕があったよな、という気分になる。低成長ってそんなにのんびりしたものではなく、わりと本気でキツい、ということが浸透してきた二十年だったかもしれない……。
昔は貧乏というものに何かロマンがあったりしたのだけど、今はそういうのは全くなくなった。

終わったあと、屋台寿司で打ち上げ。おじさんがお互いにかわいいと言い合おうみたいな話とか、女が感情の話が得意だとしたら、男のほうが得意なのは人事の話、とかがよかった。


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