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書評:中島らも『頭の中がカユいんだ』

2017年6月、共同通信の「本の森」というコーナーに寄稿した文章です。なんでも好きな本を紹介してくれみたいな感じだったので、僕の原点の一つである中島らも『頭の中がカユいんだ』を挙げました。

この本、僕が一番好きな小説かもしれないけど、小説としていい小説かというとそうでもない気がする。構成がすごいわけでもないし、ひたすらだらだらふらふらしているだけとも言える。街をふらつき、よくわからない仕事をし、コントを書き、くだらない会話をし、女の子と遊び、揉め事に首を突っ込む。そのどれもが大したことがないけど、よい。そういうアウトローぽい雰囲気の大人に僕は憧れたのだ。

中編くらいの長さで読みやすい。睡眠薬とかキメまくった状態で3日くらいで一気に書かれたとか。僕が小説をそのうち書くならこんなのを書いてみたいなあ(こんな感じのなら書けるのでは?)とか思うのだけど、そんな日は来るのかな。

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 高校生の頃、将来が不安だった。ずっと学校という制度に馴染めなくてつらかったので、大人になっても社会に適応して会社で普通に働いたりできる気が全くしなかった。この先自分はどう生きていったらいいのか分からなかった。

 そんなときに出会ったのが中島らもの本だった。そこにはダメな大人や真っ当な世界に嵌まれない大人が書かれているような気がして、十代の僕は彼のエッセイや小説に没頭していった。

 僕が一番好きな『頭の中がカユイんだ』は、中島らもの最初の著作で、彼自身の生活を元にした小説だ。作中ではただひたすら、夜の街をふらついて酒を飲み、広告関係の怪しい仕事をしながら、友人とくだらない話をする、といった光景が繰り広げられる。大したストーリーはないのだけど、そこに溢れている感傷やニヒリズムが好きだった。こんな大人になるにはどうすればいいんだろう、と思った。

 今僕は38歳なのだけど、定職に就かず低収入でふらふらとした生活を送っている。昔望んでいたことが叶ったのかもしれない。しかし、最近は文章を書く仕事をすることが増えてきたのだけど、文章を読む側から書く側に回って思ったのは、「らもさん仕事し過ぎ」ということだ。

 あの人は自分をダメ人間のように書いていたけど、いや、実際そういう面はあるのだろうけれど、仕事量はとても多い働き者で膨大な著作を残している。怠惰で疲れやすい僕にはとてもあんなには書けない、と思った。

 ただ、彼はそんなに頑張りすぎる人だったから、アルコール依存症になってしまったり、階段から落ちて早死にしてしまったのではないかと思ったりもする。僕はお酒も人付き合いもあまり好きじゃないし無理しすぎない性格なので、中島らものようにはなれないけれど、中島らもより長生きするんじゃないかと思う。多分。

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