マンション・アパートでの「共用部分問題」
廊下、階段、ゴミ置き場…。集合住宅での『共用部分問題』
玄関先で自転車が邪魔になる、ゴミの指定日を守らないなどの苦情が、居住者間のトラブルに発展するケースは少なくありません。マンションオーナーとしては、このようなトラブルを未然に防ぎ、入居者の満足度を高めることが重要です。
ゴミ出しのルールを守らない迷惑入居者
ゴミの分別ルールを守らない、ゴミの回収時間のルールを守らない、共用部に自転車などを放置する迷惑入居者は、管理会社にとって頭の痛い問題です。しかし、このような迷惑行為に対して、法的な請求、すなわち退去や損害賠償を行うことは困難です。
ゴミの問題については、そもそも誰が捨てたのか、自分で目撃しない限り、監視カメラなどもなければ、調べようがないのです。このご時世、勝手にゴミを開けると、探していた人がプライバシーの侵害で訴えられる、などということもある。
また、廊下に勝手に置いているものも他人の物ですから勝手に処分することはできません。勝手に物を捨てると、管理会社や大家さんが窃盗や横領で訴えられる可能性があります。また、張り紙をして注意することもプライバシーの侵害とみなされることがあります
共用部分に物を置いていたということではありませんが、滞納家賃1か月分の督促をする張り紙をし、大家さんが慰謝料を支払わされた事例があります(東京地裁平成26年9月11日、Westlaw Japan)。
物で封鎖され完全に通行できないほどであれば別ですが、入居者が単に物を置いて邪魔になる程度であれば、張り紙などの注意をすることで大家さんが責任を負うことになる場合もあります。このように、共有スペースのルール違反は、法律では解決が難しい問題であり、頭を悩ませることが多いのです。
迷惑行為をした人を特定するための監視カメラは違法か?
監視カメラの取り扱いをめぐる最近の裁判例を紹介します(東京地裁平成19年11月5日判決、判例タイムズ1425号318頁)。
これは、マンションの区分所有者が、近隣のマンションの区分所有者の出入りを管理できる監視カメラを設置したものであり、管理組合、管理会社、家主などの管理責任者が設置したものではないケースです。
監視カメラを設置した者は、防犯目的等で設置の必要性が高い者ではなく、単なる住民であるという特殊性がありましたが、監視カメラの設置は違法であると判断され、監視カメラの撤去と1人当たり10万円の賠償が認められました。
裁判のポイントは、録画の範囲、録画の対象、録画の対象の利用、カメラの設置目的(防犯か監視か)、録画映像の保存状況などです。そして、他に犯罪を防止する手段がないかなどの諸事情を考慮し、最終的に「監視カメラの設置・撮影によるプライバシー侵害が、社会生活上許容されるべき限度を超えているかどうか」を判断することになります。
つまり、撮影の現実的な目的や態様、撮影の代替手段の有無など、撮影が実質的に必要だったか、過剰だったかについて、裁判所はケースバイケースで判断しているといえるでしょう。
今回のケースでは、マンションの所有者でも管理会社でもなく、住人の一人に過ぎない者が、他の区分所有者の出入りを追跡できるような形で撮影していたことから、プライバシー侵害の程度は相当であると評価されたのです。監視カメラの映像によって、自分の部屋にいるのかいないのか、常に隣人に知られているとしたら、不気味な感じを与えるのも無理はないでしょう。
監視カメラ設置は違法?合法?
例えば、管理会社が防犯のためにゴミ置き場に監視カメラを設置することは、多くの場合、合法とされています。
共有スペースであるため、個人の特定や監視が目的とは言い切れませんし、ゴミが放火される可能性もあるため、防犯目的でカメラを設置する必要性は高いと考えられます。
ここでも、録画時にどの程度映り込みが発生するのかに注意が必要です。ゴミ箱の入り口付近しか映らないカメラであれば問題ありませんが、部屋をまとめて撮影し、特定の部屋の出入りを常に監視しているような場合は、プライバシーの侵害に問われる可能性があります。廊下に監視カメラを設置するのは、ちょっと微妙なところです。部屋の出入りを記録することは避けられないので、プライバシーの侵害という問題が出てきます。
一方で、勝手にゴミを捨てたり、通路に物を置いたりしている人を特定するためには、監視カメラを設置する必要性があります。
このような場合、防犯カメラが(1)発生した具体的な問題に対して、(2)それを解決するために一定期間だけ設置され、(3)具体的なマンションが映るだけでなく通路が一望できるように設置されていれば、特定人のプライバシー侵害とは言い難くなると思われますので、このような配慮が必要となってきます。
しかし、近年はプライバシーや個人情報保護が重要視されています。大家さんや管理会社さんは、慎重に進めるべきでしょう。また、プライバシー侵害はケースバイケースで判断されることが多いので、できれば専門家にも相談した上で、慎重に進めるとよいでしょう。