日本産科婦人科学会によるPGT-AとPGT-SR全国調査の概要

参照論文

Iwasa T et al. Preimplantation genetic testing for aneuploidy and chromosomal structural rearrangement: A summary of a nationwide study by the Japan Society of Obstetrics and Gynecology. Reprod Med Biol. 2023 May 31;22(1):e12518.

要旨

本論文では、日本産科婦人科学会(JSOG)が行なっていましたPGT-A/SRの特別臨床研究の結果が報告しています。PGT-Aの効果については様々な意見がありますが、おおよそ言われているのは、PGT-Aは、「累積出生率は改善しない」が、「胚移植あたりの妊娠率の改善」と「流産率の減少」が見られることは共通認識であると思います。またPGT-Aは母体年齢が高いほど、効果があると言われています。JSOG主催のPGT-A/SR特別臨床研究の結果を紹介したいと思います。

方法

リクルート患者
国内のART施設200施設から患者を集め、国内17カ所の検査施設で検査を行う多施設共同臨床試験を実施しました。患者の募集期間は、2019年12月1日から2022年8月31日までとし、臨床結果フォローアップ期間は、2022年11月30日に終了しました。
着床不全(RIF; Recurrent Implantation Failure):IVF-ET治療後に2回以上連続して着床不全が発生した患者
習慣流産(RPL; Recurrent Pregnancy Loss):IVF-ETの有無にかかわらず、2回以上の流産歴のある患者
均衡型染色体構造異常保因者(CR; Chromosomal Structural Rearrangements):妊娠・流産の既往の有無にかかわらず、IVF-ETで均衡型の染色体構造異常保因者の患者

PGT-A/SRの判定基準
PGT-A/SRは胚盤胞期に生検した細胞を鋳型にして、aCGHやNGSで診断をしています。各検査会社ごとに診断方法は異なります。判定基準は下記の通り。
A:染色体正常胚
B:染色体正常でモザイクの疑い
C:異数体、もしくは染色体異常
D:診断不能。
1個以上の胚盤胞がA群またはB群に分類された患者は、凍結融解した単一ETを実施しました。A群、B群の胚盤胞が得られない場合は、ETを行いませんでした。性染色体に関する情報は、性染色体異常のある症例を除き、開示されませんでしたた。


研究成果の指標
1. 胚移植あたりの妊娠継続率(ongoing pregnancy rate):妊娠12週に判定
2. 胚移植あたりの臨床妊娠率(clinical pregnancy rate):胎嚢形成の有無
3. 胚移植あたりの流産率(miscarriage rate):妊娠12週以前に胎児が消失した症例

結果

患者年齢
合計10,602周期(母体年齢28-50歳)が登録されました。このうちRIFが7,099周期、RPLが2,993周期、CRが510周期です。PGT-A/SRを受けた患者の平均年齢は39.1歳であり、2020年に日本でARTを受けた患者の平均年齢(37.8歳)よりやや高くなりました。本研究でPGT-A/SRを受けた患者さんの母体年齢が高いのは、治療歴が長いためと考えられます。

PGT-A結果
合計42,529個の胚盤胞を生検しました。全体で25.5%の胚が染色体正常(A判定)と判定されました。異数性胚(C判定)の割合は母体年齢とともに増加し、37歳を境に正常胚の割合が減少し、43歳以上では15%未満となりました。この傾向は、26-30歳までが正常胚の割合が最も高く、43歳まで減少し横ばいになります。この傾向はこれまでの研究でと同様です。また、胚生検を行った採卵周期の38.3%で少なくとも1個の染色体正常胚が得られたが、胚生検を行った採卵周期の61.7%では染色体正常胚ではなく、異数体および/またはモザイク胚しか得られませんでした。つまり、約60-70%の患者さんは、PGT-A/SRを実施しても、1個の正常胚も得ることができず、その採卵周期ではETすることができません。この結果は、パイロット研究で得られた結果と同様ですが、他国で行われた研究と比較するとかなり低い値です。本研究では、モザイクの疑いのある胚をA判定とは別にB判定と定義しましたが、モザイクの定義の違いや、またモザイクと判定しない研究などがあるためと考えられます。

ET結果
本研究では、6080個のETが実施されました。
RIF: ETあたりの臨床妊娠率は65.5%、継続妊娠率は53.9%、妊娠あたりの流産率は9.9%
RPL: ETあたりの臨床妊娠率は74.7%、継続妊娠率は60.7%、妊娠あたりの流産率は11.1%
CR: ETあたりの臨床妊娠率は80.7%、継続妊娠率は66.1%、妊娠あたりの流産率11.8%

全カテゴリー、全母体年齢においてモザイク胚移植(B)では、正常胚移植(A)に比べて着床率が低く、流産率が高い結果でした。
全体でETあたりの臨床妊娠率は約68.8%、妊娠あたりの流産率は約10.4%となり、これらの妊娠率や流産率は母体年齢が高くなっても継続して見られることがわかりました。一方、2020年に日本でARTを実施した患者では、ETあたりの妊娠率は33.9%、妊娠あたりの流産率は24.9%であり、これらの率は年齢とともに悪化することが報告されています。先行研究でも述べたように、今回の研究で検討した集団、特に母体年齢の高い患者では、PGT-A/SRによりETあたりの妊娠成績が改善することが考えられます。

まとめ

今回の研究はRCTではないため、Non PGT-A群を設けることができず、そのため比較検討によるPGT-Aの効果を見ることができません。論文でも、PGT-Aの効果を見るために、一般的なART治療を行っている患者との比較を少し記載しているのみです。本論文では、PGT-Aの効果を知るための指標が、胚移植あたりの妊娠率と流産率だけでしたが、クリニックごとに治療方法や費用が異なるので難しいとは思いますが、生児獲得までにかかった費用や期間なども検証して欲しかったです。またこれだけのART施設が参加してるのでしたら、卵巣刺激の影響なども見れるのではないでしょうか?もっと検証できることはあるのでは?と思いました。

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