男性不妊症の遺伝的原因を探るためのエクソーム解析
論文
背景
男性の10%が罹患している不妊症は、主な原因は精子形成障害(SPGF)です(射精あたりの精子総数が3900万未満)。遺伝的要因がSPGFの主要な病因と考えられているものの、SPGFを持つ患者の50%以上が原因不明です。染色体異常、Y染色体の微細欠失、CFTR遺伝子検査では、男性不妊の10%程しか原因を明らかにできません。本研究では、全エキソーム(WES)解析により、SPGFの原因遺伝子の同定を試みました。
方法
エストニアの男性不妊症患者521人と正常精子形成を示す323人の男性からなるコホートを用いて、WESを行いました。男性不妊の638個の候補遺伝子を解析し、遺伝子変異からLP; Likely Pathogenic Variantsと、P; Pathogenic Variants遺伝子変異を抽出しました。
解析する遺伝子リスト
男性不妊に関連することが知られている156個の遺伝子(量的精子形成に関与する遺伝子が80個、精子形成の質に関与する遺伝子が37個、性器発達に関与する遺伝子が39個)
男性不妊を引き起こす変異の報告がある330個の遺伝子
男性不妊との関連に関わらず視床下部-下垂体-性腺に関連する73個の遺伝子
早発卵巣不全に関連する79個の遺伝子
結果
原因不明のSPGFを持つ521名のうち、64名(12.3%)で原因となりうる遺伝子変異を同定しました。638個の候補遺伝子から、39個の遺伝子(6%)で、Pathogenic かLikely Pathogenicの遺伝子変異が特定されました。遺伝子リストの内訳は、男性不妊遺伝子が24/486個(5%)、視床下部-下垂体-性腺に関連する遺伝子が14/73個(19%)、P早発卵巣不全関連遺伝子が1/79個でした。
遺伝子変異を検出したリスト
男性不妊を引き起こす変異の報告がある遺伝子、もしくは早発卵巣不全に関連する遺伝子からは、ACTRT1, ASZ1, BNC1, GLUD2, GREB1L, LEO1, RBM5, ROS1, TGIF2LY
男性不妊との関連に関わらず視床下部-下垂体-性腺に関連する遺伝子からは、CHD7, HESX1, FGF8, GLI2, KLB, NSMF, OTX2, NR5A1, PROK2, KMT2D, PROK2, FANCM, SEMA3A, SMCHD1, TCF12, TUBB3
男性不妊に関連することが知られている遺伝子からは、DMRT1, ESX1, FANCM, GATA4, HUWE1, DHX37, DYRK1A, M1AP, MCMDC2, TEX14
まとめ
これまで男性不妊の遺伝子検査は、染色体異常、Y染色体の微細欠失、CFTR遺伝子検査が行われてきましたが、それらの検査の診断率は10%程でした。本研究ではWES解析により、上記の遺伝子変異に該当しない、由来不明の男性不妊患者の、12.3%で遺伝子変異を同定することができました。これらを合わせますと、実に20%以上の患者で、診断がつくことになります。診断がついても治療につながるかは別問題になりますが、今後、男性不妊の遺伝的要因に基づく治療法の開発が期待されます。