生児獲得に必要な受精卵数
The age-related required number of zygotes estimated from prior clinical studies of preimplantation genetic testing for aneuploidy (PGT-A)
参考論文
要旨
ART治療を行ううえで生児出産するまでに必要な受精卵数を知ることは、治療方針を決定するうえで重要になります。治療は、採卵、受精、培養、移植、妊娠、出産までの工程がありますが、出産に至るまでに、いくつかの受精卵は脱落していきます。工程の中で、培養の胚盤胞到達率、そして染色体異常率、移植後の妊娠率が母体年齢に大きく影響します。つまり母体年齢が高いほど、脱落する受精卵数が多くなる傾向にあるため、生児出産するまでに必要な卵子が多くなります。本論文では、先行研究とデータベースのメタ解析を行い、母体年齢で層別した、生児出産するまでにに必要な最適受精卵数量を推定しています。
方法
この論文では、PGT-Aに関連する先行する3つの大規模研究(Franasiak et al. 2014, Reig et al. 2020, Sainte-Rose et al. 2021)から計算パラメータを導出しています。胚盤胞に発育する受精卵の率(Sainte-Rose et al. 2021)、PGT-Aによる染色体正常率(Franasiak et al. 2014)、染色体正常胚移植後の生児獲得率(Reig et al. 2020)を用いてを計算しました。
結果
母体年齢の上昇に伴い、1つの受精卵あたりの生児獲得率が著しく低下していることがわかります。Table1を見てますと、母体年齢30歳では、15.8%(PGT-Aなし)、19.9%(PGT-Aあり)になります。この結果から、50%以上の確率で生児獲得するには5個(PGT-Aなし)、4個(PGT-Aあり)以上の受精卵が必要となり、80%以上の確率で生児獲得するには10個(PGT-Aなし)、8個(PGT-Aあり)以上の受精卵が必要となります。母体年齢35歳では、12.9%(PGT-Aなし)、15.3%(PGT-Aあり)になります。この結果から、50%以上の確率で生児獲得するには6個(PGT-Aなし)、5個(PGT-Aあり)以上の受精卵が必要となり、80%以上の確率で生児獲得するには12個(PGT-Aなし)、10個(PGT-Aあり)以上の受精卵が必要となります。母体年齢40歳では、7.3%(PGT-Aなし)、9.0%(PGT-Aあり)になります。この結果から、50%以上の確率で生児獲得するには10個(PGT-Aなし)、8個(PGT-Aあり)以上の受精卵が必要となり、80%以上の確率で生児獲得するには22個(PGT-Aなし)、18個(PGT-Aあり)以上の受精卵が必要となります。
考察
このように母体年齢が高くなると、生児獲得に必要な受精卵数が多くなり、その結果、治療期間が長くなり、治療コストが高くなります。PGT-Aは胚移植あたりの生児獲得率を改善し、流産率を減少させることが知られています。PGT-Aにより妊娠しない or 流産になる不要な移植を避けることで、女性はより早く生児を得ることができ、あるいは限られた生殖期間を無駄にすることを避けることができるかもしれません。この事からPGT-Aの効果は、染色体異常の頻度が高い高齢の患者に対してより大きな効果を持つことを示しています。
不妊治療を受ける患者はできるだけ早く生児を得たいと考えています。流産率の低下、妊娠中絶のリスクの低減、妊娠成立までの時間の短縮が、PGT-Aを受ける決断の主な動機となり、今回の受精卵あたりの生児獲得率に関する結果は、PGT-Aを含むART治療の遺伝カウンセリングで提供できる重要な情報になります。