愛が呼ぶほうへ導かれた話
「あそこの5個並んどるうちの真ん中の2つがのう、ポルノがライブしよった時に写真撮影で使っとった席なんよ。」
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しまなみ映画館が終わり土生に向かって戻る時の道中にあった市民会館に「ベンチ撮るか〜」と軽く寄ったら、奥のほうから現地のスタッフのおじちゃんが出てきて
「こんな暑いんやから、中お入り」
と建物ロビーまで案内してくれた。
(ぶっちゃけ中もかなり暑かったけど笑)
自分らはこのあと写真館に行く予定があったから時間に余裕があるとはいえあまりに長居するつもりはなかったのだけど、
奥からおじちゃんが手招きして「おいで」と言っていたのでもしかしてと思い向かったら、ご厚意で因島の里帰りライブのときに実際にポルノが使っていたステージにあがらせてくださった。。。
向こうも正直時間はないと言ってたけど、ここのキャパだとか、ここは近くのほかのホールよりもずっと大きいんだって誇らしげに話してくださったりとか、
むしろこっちが遠慮する暇もなく数十分くらいおじちゃんのマシンガントークを聞いてた😂
「2人はどういう関係?どっから来たん?あぁ親子か、へぇ〜子供のほうから好きになるなんてやっぱあの人らも魅力があるんやな、
新幹線止まったんか!ほー台風か、こっちは雨なかなかふらんよ〜。あ、せっかくじゃけ写真も撮るか?」
こんな具合で。
これだけでもじゅうぶん幸せだったのに、そのあとおじちゃんの口から飛び出した言葉に硬直した。
「あそこの5個並んどるうちの真ん中の2つがのう、ポルノがライブしよった時に写真撮影で使っとった席なんよ。
座りんさい、写真撮ったる」
…………え!?いまなんて!?!?と思いながら手荷物を置いて恐る恐るステージを降りて客席のほうへ行ってみる。
すげえ。。。
19年前とはいえ、たしかに2人の存在とたくさんの因島の子供たちのあたたかい空気を感じた。
あのとき、あの会場で、どれだけの人があの歌に背中を押されたのだろうと思いながら、愛が呼ぶほうへのメロディが脳内で何度も再生される。
するとおじちゃんが今度は
「おう、ほんなら特別になんか音楽かけたるわ。一曲だけな?」
「ここの音響はええんよ〜、この機械全部わしが管理しとるけぇ」
と楽しげに話しながら舞台袖へ向かう。
その背中を目で追いながら「さすがにポルノの曲は流れないよな〜」
とあらぬ期待を寄せ自分でそれをかき消したのは良いものの、そのあと目の前の大きなスピーカーから響きだす最初の一音で確信した。
流れたのはまさに「愛が呼ぶほうへ」だった。
地元の人が「因島の誇りだ」と語るこの大きなホールに今いるのは、歌に耳を傾ける自分と母、そしてひとりの音響係だけ。
そんな場所に響く愛が呼ぶほうへは、CD音源とはいえまさに自分たちの為だけに演奏されているように感じられた。
2時間前に見たしまなみの愛が呼ぶほうへのMCで昭仁さんが語っていた、
「ファンの皆さんに愛され育ち、どんどん大きくなっていった曲です」
という言葉が思い出される。
綺麗な雨水、吹きつづける潮風。特に海ぞいを自転車でずっと走っていくことなんかは自分にとっては初めての体験で心が躍っていた。
スマホのスピーカーなんかでは聴けない最後の音の長い余韻。それが静かに消えたあとの自分たちの拍手までもが大きな音で会場に響き渡る。
ポルノグラフィティはたしかにそこにいた。
そして因島という名の「愛が呼ぶほう」へ導かれ、今日こうして二度とはできないであろう素敵な経験をさせてもらった。
その後も会話は続き、やっと一段落したところで母が「そろそろ行こうか」と切り出す。
「気ーつけてな、おう、ありがとう」
おじちゃんはそう言いながら再び舞台袖へ姿を消していった。
さっきまではあれほど楽しそうにおしゃべりをしていた視線は、それとは打って変わって別れ際にはどことなく寂しそうな雰囲気が漂っている。
そしていまは3日間滞在する予定の尾道市内のホテル(※追記:帰りの新幹線運休の影響で市内の別の宿に1日延泊しました)
でこの文章を書いている。一日の工程が終わり、宿へ向けて因島北ICから島を出る時はいつも後ろを振りむく。
きょうは自分のそばにずっと幸せがいた。
潮風に吹かれながら土生港から海ぞいの道を自転車で走り、映画館で手が痛くなるほどの手拍子をして、余韻に浸りつつのんびり休憩をしていたらあっという間に閉店間際となったミツイシヤに駆け込み、ふたりの青春の音を感じた。
そのあとは市民会館で一生に一度となる素敵な経験をして、夕暮れと共にほぼ貸切状態の写真館とアミューズメントエリアを堪能してから、観光協会で昭仁さんの写真を両手にまた一枚。
あとで開封しようと楽しみに思いながらポケットに突っ込んだ2枚のポみくじのうちの片方が輝くシールの晴吉であったことをそのときは知る由もなく、寄せ書きを書いたあともう既に誰も人が残らない写真館の閉館を見届けて満足気に建物を出た。
この為だけにわざわざ大切に持ってきたロマエゴと土生港のツーショを撮ったあと、なんだか急に帰るのが名残惜しくなった。
そこで少しでも長く島の空気を味わっていようとシャッターがあちこちに降りているお盆の土生商店街を歩いていると、ふと大事な場所に寄っていくのを忘れていたことを思い出した。
慌ててその大事な場所を写真に収めたあと、バス待ちの間にお腹をすかせて入ったコンビニのイートインスペースでまたも島の人に話しかけられる。(地元の人みんなおしゃべり好きだった😂)
ポルノファンをまばらに乗せ海ぞいを走る尾道駅行のバスの中でJazz upを聴きながら夕暮れを眺めていると、内陸のほうへ曲がったところでなんだか言葉にできない寂しさを感じた。
潮風がだんだんと遠くなる。
昼に見たしまなみのライブ映像を思い出しながらAokageを聴きつつバスに揺られていると、早くもそこにはこの2日間でまるで地元のもののようにすっかり見慣れた重井のローソンが建っている。
その道を右折したあと、ふんわりと風になびく横断幕を見送ってICのほうへしばらく走るとやがて大きな橋が見えてくる。
因島大橋とそれを取り囲む瀬戸内の海は、夜の姿でさえもどこにも負けない美しさを放っていた。
ポルノのふたりがあんなにも地元を誇り大切にしている理由がわかった気がする。
あんな風に自分のふるさとをたくさんの人の前で自信を持って紹介するようなことは、自分には到底できるはずないだろう。
瀬戸内に生まれ、この美しい海に触れて育った人たちを心の底から羨ましく思った。(海無し県の人間ということもあり。。。)
そして、この地で自分たちを包んでくれたものすべてに「ありがとう」と伝えたい。
「そう 永遠で一瞬で 君にとってのすべてだ」
めんそーれ、因島!