『ジェダイの帰還』でダース・ベイダーは本当に善の心を取り戻したのか?
『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』の最新予告動画が公開されましたね。
12月の公開に向けて、過去作の復習に勤しむここ数日。
改めて再確認。『スター・ウォーズ』の1作目から6作目までは、アナキン・スカイウォーカーが悪の道に堕ち、最後に善の心を取り戻すというお話でした。
・・・ちょっと待てよ。そんなお話じゃ無いぞこれ。
これって本当に善と悪の闘いの話なんですかね?主人公は本当に善悪の間で揺れ動いていたんでしょうか?
観ているうちに湧いてきたこのもやもやした気持ち。新作の公開前に解消してしまいたいと思います。
『ジェダイの帰還』でダース・ベイダーは善の心を取り戻す
シリーズ第3作目、時系列では6番目に位置する『スター・ウォーズ ジェダイの帰還』のクライマックス。ダース・ベイダー(=アナキン・スカイウォーカー)は決断を迫られます。
闇の力に屈しないことを宣言した息子ルーク。その言葉を聞いた皇帝は彼を死に至らしめようとします。
皇帝への忠誠を貫くか、息子であるルークの命を救うべきか。その葛藤の中、息子の助けを求める声がベイダーの心を動かします。彼は皇帝を倒し、息子を救い、銀河に平和をもたらします。
息子への愛が、悪しき心を打ち消し、彼に正しい心を取り戻させたのでした。
そして彼は最後にこう言います。
「お前は正しかった。私にはまだ善の心が残っていた。」
"You were right. You were right about me."
もう悪の道から引き返せないと思っていたアナキン。しかしルークの献身が彼を闇の底から引きずり出してくれたのでした。
『シスの復習』でアナキン・スカイウォーカーは悪の道に手を染める
『ジェダイの帰還』の前日譚にあたり、ジョージ・ルーカスが監督した最後の映画である『スター・ウォーズ エピソード3 シスの復讐』。
この作品では、アナキンがダース・ベイダーになる顛末が描かれます。
戦争の裏で暗躍していたダース・シディアス。その存在を特定したメイス・ウィンドウ率いるジェダイ騎士団はシディアスと対峙します。その対決を見守るアナキン。その最中、彼は板挟みになっていました。
【アナキンの葛藤】アナキンは妻であるパドメが死に至る予知夢に悩まされており、そんな中でダークサイドの力は人を死から救うことができると知ります。同時に最後の暗黒卿であるダース・シディアスが死ねば、人を死から救う叡智が永遠に失われてしまうことも認識します。
ジェダイ騎士団としてシスを許してはならないという気持ちと、愛する妻のためにダークサイドの知恵を得たいという葛藤。その末にアナキンはメイスを裏切り、死に追いやります。
自分のしたことを悔やむアナキン。しかしシディアスはそんな彼を諭し、ダース・ベイダーとして生きる道を提示したのです。
そして彼は『ジェダイの帰還』でルークに救われるまでの間、恐ろしい悪行を重ねていくことになります。
『ジェダイの帰還』と『シスの復讐』の対比
ここまでみると、やはりアナキンが悪の道に堕ち、そこから善の心を取り戻す話という流れで間違いなさそうです。
では、少し細かく見てみます。
この2つの場面は見た目には異なりますが展開は全く同じものとなっています。つまり、アナキン(=ベイダー)が善と悪のどちらかの選択を迫られるという場面です。
前者ではルークを救うという善行を成してライトサイドへ帰還し、後者ではシディアスを庇って悪の道へ踏み込んだこととなっています。
ここで忘れては行けないのは後者、シディアスを救ったのはあくまでも愛する妻パドメを救うためだということです。
よって本質的には彼は悪人を救ったのではなく、妻を救おうとしたということになります。
つまり前者では息子ルークを救い、後者では妻パドメを救おうとした。
比較してみると彼の行動は変わっていないことがわかります。彼は常に自分の愛する家族を救おうと行動しており、その対象の立場が善悪で異なっていたというだけです。
ただ家族を守りたかった 悲しい男の物語
エピソード1からエピソード3に至るアナキンの過去の物語は後付が多分に含まれています。オリジナルの三部作と並べると辻褄の合わないところも多く、あちこちに継ぎを当てたような粗が見えます。
しかし時系列通りに『ファントム・メナス』から『ジェダイの帰還』を通してみると、6作品を貫くしっかりした芯が見えます。
エピソード1で砂漠の惑星タトゥイーンから旅立つとき、アナキンは別れる母に向かってこう誓います。
「僕が戻ってママを自由にするよ。約束する。」
"I will come back and free you, Mom. I promise."
広い銀河へ旅立つ彼の初めての決意は、奴隷である母を救うことでした。
しかし、続編のエピソード2にて彼は再び故郷に戻り、そこで母の最期を目の当たりにします。彼は愛する母を救うことができませんでした。
そしてエピソード3。妻の死の予知夢を見た彼は、母の時のことは繰り返さない、必ず愛する妻を救うと決めて悪魔と契約を結びます。そして結果的に妻を失うことになってしまいます。
家族を失い、皇帝に仕えるだけの20年を過ごした彼は、エピソード4からエピソード5にかけて実の息子であるルークを見出します。
そして最後の最後にようやく愛する家族である息子を救うことができた彼は、やすらかな表情で息を引き取るのです。
このような視点で見ると、善人だったアナキンが悪人に変わってしまった物語という解釈が誤りだとわかります。彼は善から悪に変わったりはしておらず、一貫して家族を救うために生きてきたのです。
『スター・ウォーズ』とは、世界の情勢や善悪の価値観に翻弄されながら、一人の男が家族への愛を貫き通そうとする物語だったと言えるのではないでしょうか。
『ジェダイの帰還』でオビ=ワンが口にした言葉が別の意味を持って思い起こされます。
「真実は多面的なものだ。自身の見方で変化する。」
"Luke, you’re going to find that many of the truths we cling to depend greatly on our own point of view."
最後の『スター・ウォーズ』に向けて
エピソード1からエピソード3にかけてのプリクエル・トリロジーは駄作であるという評価がネット界隈を中心に広がっているという印象があります。
確かに、オリジナル・トリロジーと比べて退屈だったり、練り込み不足な部分も多数あるでしょう。
しかしその中心にぶれることのないしっかりとした芯が通っています。最近見返してみて、改めてそれを感じました。
では『フォースの覚醒』以降の、シークエル・トリロジーにはどんな芯があるのでしょうか。
まだわかりません。
結局このような連作は最後まで観なければ、製作者の真の意図も、物語の軸も完全には見えてきません。
アナキン・スカイウォーカーが家族のために駆け抜けてきた物語。その最後はどのような結末を迎えるのか。
レイ、フィン、ポー、そしてカイロ・レンがどのようにこの物語を締めくくるのか。
12月20日が近づくにつれ、私の中の興奮はどんどん高まってきています。
※最後に余談ですが、引用したアナキンの母への誓いの言葉はディズニーが開催した「スター・ウォーズ名言投票」の1位~263位までにランクインしていませんでした。そんなことってありますかね(汗)。とっても良い、大切なセリフだと思うんだけどな…