女神の前髪 7 「機械を売ってみませんか」

    自動機械メーカーの工場長が、遠路はるばる私に会いに来ました。
東海地方の浜松から北関東の奥の工場まで、よく来てくれました。
納期遅れの謝罪と挨拶のためにです。
この会社に機械をお願いしたのはその時が初めてではありませんでした。
私の入社より十年近くも前から、ある工程を自動化する計画がありました。
機械メーカー数社が挑戦しましたが、どの会社も失敗した曰く付きのものでした。入社した私の最初のミッションともいえるものがこの機械製作の解決でした。

下町をほっつき歩いていて、一軒の工具屋さんのガラス戸に目が留まりました。私は戸を開けて入り、この貼ってある広告の写真は何ですか。
「ああそれはね、○○○と言うものだよ」                 何をするもんですかと、問いました。
「詳しく知りたければ、△△△社に電話してみなさいと」
翌日私は電話してすぐにその機械装置の東京本社の担当者を訪ねました。
「この工程の自動化に使えますか」
「これを使ってこの作業をする自動機械を作れますか」
結局これで今まで長い間解決しなかった案件が解決したのです。

「工具屋さんのガラス戸に目が行った」ことが「プチ幸運の女神」と言えるかもしれません。今であれば、専門業界の展示会やネットですぐに調べることが出来ますね。
話を戻します。
世界的機械メーカーの工場長が私に言いました。
「これまで作ったような機械を売ってみませんか、協力しますよ」
このメーカーは量産した機械装置を殆ど単発で販売していました。
つまりその機械装置を付加して作る機械屋さんがお得意さまでした。
装置を活用した特注品を手掛けることまで、手が回らなかったのだろうと思います。
もう少し噛み砕いていえば、こう言うことだと思います。
「うちの技術と工場を使ってあなたの市場分野にあなたのエンジニアリングした自動機械を売ってみませんか、協力しますよ」と。
もう少し後の私ならチャンスを理解できたと思います。
その頃は誰かに相談する発想もありませんでした。               

社長である父にも相談しなかったし、そのことは父が亡くなるまで話すことはありませんでした。

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