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おと奥様ストーリー④
「じゃ、お先帰ります」
皆が仕事している中、俺は十八時、定時で会社を出た。
それには理由がある。
普段は、メール対応や日報制作で二時間ほど残業をするのだが、今日は“天使”と会う予定があるからだ。
天使を崇拝する宗教でも、地下アイドルの二つ名でもなく、仕事で疲れた俺を癒してくれる若くて綺麗な女のことである。まあ、俺が心の中で勝手に呼んでいるだけだが。
俺は駅を降り、待ち合わせの場所に立つ。
約束の時間ぴったりに、俺の天使“おと”が向こう側からやって来た。
おとは白いレースの長袖ロングワンピースをひらひらとなびかせ、カツカツと白いヒールの音を立てながら小走りで俺の元へやってきた。
「おとちゃん」
「えっと……、待ちました?」
「ううん、俺も今着いたとこ」
「そっか」
のんびりとした口調がまたいい。
会社のサバサバした同僚の女や、猫なで声でわめく事務の女で疲れているから、おっとりとしてちょっと天然なおとに会うと、俺の疲れた心が癒されてゆく。
「じゃあ、行きましょ!」
おとは俺の腕を引っ張り、駅の出口へ歩いて行く。
始めはぐいぐいと俺を引っ張っていたが、出口の前でぴたっと歩が止まった。
おとは困り顔で俺の顔をじっと見た後。
「……ホテルどこでしたっけ?」
小首をかしげて俺に予約したホテルの場所を訊ねてきた。