ハンモック
もう二度と出逢えないかもしれない、その景色に目を釘付けにして、脳裏に焼き付けようとする。永遠には見ることのできないその刹那を、少し恨めしく思いながら。
でも、視覚的記憶は、ときおり時間の経過がより美しくしてくれることがある。だから、辛く思うことはない。
小さな青い花がたくさん咲いていた。それは波打つように風に揺れて、遠くの海とひとつづきになっていた。甘い潮風が頬を撫でて、ゆっくりと時間は空へ伸びてゆく。
帰りの車の中で、群青に染まってゆく空に、ふんわりした黄色いカステラが浮かぶのを見た。口に入れたばかりの、塩キャラメルと相性は抜群。甘美な時間は山道へ伸びてゆく。
ふと流れる昔聴いていた音楽に、当時の自分をみる。懐かしさに、胸を締め付けられながら。
でも、思い出は、ときおり自分で熟成させて、美しすぎに残すことがある。だから、苦しく思うことはない。
いつでも、これからのことや、これまでのことに、エネルギーは費やさなくていい。それは、必要なときに力を貸してくれるし、欲しいと思ったときに与えられる。だから、過去や未来については、何も心配しなくていい。
今この瞬間に、ゆったり体を沈ませて、身を委ねていたい。きっと、それでいい。