漫画紹介「妖こそ怪異戸籍課へ」
こんにちは、ペッタ~です。
皆様、もう2021年も12月になりますね。年の瀬が近づいてきたので年末調整やらもう少し先になると確定申告の話題が出てくる頃なのかなと思います。
私自身も親元を離れて結構経つのでこういった社会的な書類やら手続きやらを自分で行っていますが、これがまた結構めんどくさい...最近だとマイナンバーカードの更新を区役所まで行ってきたんですけど、受け取り手続きでカードを渡されて終わりと思いきや順番待ちの整理券を発行して小一時間経つと最初にパスワードやらの書類を書いてさらに10分ほど待ってようやく新しいカードを貰いました。
どんだけ時間かかってるんだよ!と思いつつも一方で膨大な人数の様々な情報を管理するのってやっぱり大変なんだなぁとか思ったりもします。
今回紹介する「妖こそ怪異戸籍課へ」はそんなお役所仕事というテーマをちょっと変わった切り口で描いている作品です。
丁度去年くらいに書いた記事でも少し触れていましたが、連載1話から凄い注目していた作品で、満を持して単行本1巻が発売されたのでより掘り下げて語って行きたいと思います!
あらすじ:伝記と現実の溶け合う世界
最近ニコニコ静画で単行本になっていない、若くて力のある作品を無料公開する「きららベース」というコーナーでも一部公開されているので是非読んでみてください。
「妖こそ怪異戸籍課へ」は「まんがタイムきららMAX」で笠間裕之先生の原作と柴朗先生の作画による分業制で連載されている作品です。あらすじは
一万人以上の無戸籍者が存在すると言われる現代日本に、「妖怪」の無戸籍者を手助けをする、怪異戸籍課という役所があった。そこで働く主人公の睦子は、一人でも多くの妖怪を助けるために、今日も街を奔走するー…!
となっています。妖怪といえば古来より信仰の対象であったり、逆に否定的に捉えられた現象に対する原因と見なされる怪訝の対象であったり、現代においては「妖怪ウォッチ」に代表されるようにより一つのキャラクタージャンルとしてサブカルチャーに組み込まれてたりします。
当作品は妖怪という伝記的でファンタジーな存在に対して無戸籍者という極めて現実的・現代的な解釈を当てはめて描いている点が読んでいて斬新と言えるでしょう。妖怪たちはただでさえも人間とは違う特徴をを持っており、人間の為に最適化された現代社会で暮らしていくためには苦労や誤解を生みやすいのですが、そこに基本的な社会保障が与えられていないというよりシビアな設定を持たせることで、「困窮している市井」という設定を自然に接続出来ていると思います。
『妖こそ怪異戸籍課へ』(著:笠間裕之・柴朗)第1巻7ページより
このnoteでも何回か取り上げていますが、昨今の「まんがタイムきらら」は牧歌的パブリックイメージからの脱却を図り、日常の解釈を拡張して様々な視点の「日常」を描いています。当作で描かれるテーマは異種間交流の難しさとそれを社会制度的立場から支援する者たちの「日常」を描いた作品であると言えるのではないかと思います。
登場人物
登場キャラクターは主に3つの派閥に分類できます。先に述べたように無戸籍の妖怪に戸籍を与え就職や福祉の享受を支援する「怪異戸籍課」の職員、悪い妖怪を取り締まる警視庁の極秘部署「妖異対策課」の職員、そして街で生活している個性豊かな「妖怪たち」です。
物語の主人公である山本睦子はおっちょこちょいな部分が玉に瑕ですが、戸籍課の職員としてその使命に燃える明るい少女です。妖怪たちの中には過去に受けた扱いがトラウマになっておりネガティブに考えるキャラも少なくないのですが、役職上直接妖怪たちとコンタクトを取ることも多く、持ち前のガッツとポジティブな姿勢で出会った妖怪たちの心を開いていきます。また彼女は霊剣の骨食を携えています。この剣、850年以上の時を生き(?)喋るのでまるで魔法少女作品における世界観を説明してくれるマスコットみたいなポジションに収まっておりこの作品の伝記要素を強調するのに一役買っています。
『妖こそ怪異戸籍課へ』(著:笠間裕之・柴朗)第1巻14ページより
物部綾子は多少強引で暴力的な側面はあるのものの職務を全うする部下想いの戸籍課みんなの上司にあたります。
『妖こそ怪異戸籍課へ』(著:笠間裕之・柴朗)第1巻14ページより
丸目伊織は妖怪”手の目”ながらも戸籍課のアルバイト職員として資料整理や買い出しなどの業務を共に行っていく仲間です。物部綾子を憧れの人物と思い、同居しておりプライベートが意外とだらしない彼女を家事を行ったりして支えています。
『妖こそ怪異戸籍課へ』(著:笠間裕之・柴朗)第1巻8ページより
一方で妖怪という存在を妖異——人間社会の秩序を脅かす存在とみなし折り合いよりも排除することを主体に行動する価値観やキャラクターも存在し、藤原夏生は妖怪対策課の刑事として物語に参加します。物語の当初こそ主人公とは異なる信念を掲げて結構孤高な感じに描かれていて、話のジャンルが違うならば中盤までライバルとして仲間にならなさそうな感じの人ですが、物語が進むにつれて(善良と感じた妖怪に対しては)軟化した態度を取ったり、飯を奢ってくれたりと根は優しさを感じて結構人間臭いキャラクターかなと思います。彼女の存在によって妖怪を拒絶する排他的価値観自体はこの世界に存在すると示しつつも、個人としては相互理解の可能性が開かれていくといった具合に物語は中庸なバランスを保てているのかなと思います。
『妖こそ怪異戸籍課へ』(著:笠間裕之・柴朗)第1巻13ページより
妖異対策課は危害を加える妖怪を逮捕する使命を持っている。
そして物語の核となる個性豊かな妖怪たち。ぬらりひょんやフランケンシュタインのような定番からペナンガランというマレー半島の吸血鬼や人虎などマイナーな妖怪たちが原典の特徴を反映しつつもきららの掲げるビジュアルコミックスらしく可愛らしいデザインでストーリーを彩ります。極端な擬人化やグロテスクに振り切れていないバランスの良いデフォルメされたキャラクターデザインは毎回作品に彩りを添えてくれます。
またキャラクター化に際しての原典からの要素の抽出が俊逸で、例えばぬらりひょんは「妖怪の親玉」という要素は排除して人の家に勝ってに居座って飲み食いする要素をデフォルメして、食いしん坊で人に奢りや無料サービスを度々要求する図々しいキャラながらも美味しそうに食べることで商店街の広告塔として不思議な愛嬌を兼ね備えた俵藤饗子という女子高生として再構築されています。他には熱さに弱いつらら女からは冷やし○○系の料理に拘りをもつ蕎麦屋の住み込み店員氷雨氷柱など、新しい妖怪が登場するたびに現代社会に合うような読み替えや解釈に唸らされます。ここではあえてすべてを紹介しないので、是非作品を手に取って貰ってお気に入りの妖怪を見つけて欲しいと思います。
『妖こそ怪異戸籍課へ』(著:笠間裕之・柴朗)第1巻38ページより
美味しそうに食べる響子ちゃんは商店街の広告塔です。
『妖こそ怪異戸籍課へ』(著:笠間裕之・柴朗)第1巻18ページより
氷柱さんは蕎麦屋に住み込みで働いている。
特長1:1話完結型の高いクオリティ
個人的にこの漫画が凄いな~と思う強みがとにかく単話の構成力が恐ろしく高い点だと思っています。
おおよそフォーマットとしてはメインとなる妖怪についての問題や話題が発生→それを戸籍課なり対策課なりのキャラと関わっていく中で解決の光が見える→人間の社会と相互理解が前進する といった具合で進行していくのですが、その起承転結のすべてに手落ちに感じるような要素が無く、過不足の無い構成は毎話がっちりと額縁に飾られたジグソーパズルのような心地よい読後感があります。
そして基本的に次回に続く!のようなフックを持たせるような話の作りではないのですが、一方で毎話少しずつ話を跨ぐような大きな伏線も撒いておき1巻の終盤ではそれが明らかになる点において縦軸に関しても隙が無い作品だと思います。
特長2:妖異を通じて描く相互理解の難しさ、楽しさ
この作品は上でも述べた通り妖怪という人間と異なる存在が社会の中で折り合いを付けながら生きていく異種間交流のストーリーを、戸籍付与というより生活に根差した社会福祉の切り口から描いている点が斬新で面白さに直結した部分であると言えます。
例えば、人相の見分けが付かないために他人からの目線について屈折した考えを持っているのっぺらぼうさんであったり、その見た目や怪力から迫害された過去を持つフランケンさんなど、彼女たちは人間とは違った体質や過去を持つ故にその生活に踏み込んでいくためには一層の配慮が必要です。
『妖こそ怪異戸籍課へ』(著:笠間裕之・柴朗)第1巻16ページより
妖怪の社会支援をサポートするのは一筋縄ではいかない。
『妖こそ怪異戸籍課へ』(著:笠間裕之・柴朗)第1巻47ページより
悠久の時を生きた妖怪は時に苦い過去も...
そして戸籍課の仕事は個人的な慈善事業ではなく、公的な社会福祉の支援なのでそういったデリケートな部分はなぁなぁにせずに真正面から受け止め皆が平等に社会で生きてくように取り組んでいかなければいけません。
漫画の要素としてはファンタジーを描きつつ、根幹にあるメッセージは現実の社会福祉の目指す理想型としても通じる部分があるように感じられる点も面白いなと感じます。
またそういった相互理解の難しさ、デリケートさをシビアに描きつつも同時に明るい側面もしっかりと描いている点も見逃せません。
現状は周囲に馴染んでいたり、戸籍を取得する前は孤独を感じていた者が充実感を得ていたりと、時に真っ直ぐな救済を、時に人間と異なる部分をギャグとして昇華させながらユーモラスに描いていて作品全体に「みんな違ってみんないい」的なやさしさを感じることが出来ます。
『妖こそ怪異戸籍課へ』(著:笠間裕之・柴朗)第1巻11ページより
戸籍を取得して学生生活を送っている妖怪も
『妖こそ怪異戸籍課へ』(著:笠間裕之・柴朗)第1巻70ページより
手の目にもブルーライト対策は必須...!?
一方、人間に危害を加える妖怪の存在も明確に描かれていたり、また友和を目指す妖怪であってもで現状は正体を隠している者も多く彼らが最終的に正体を明かしたうえで受け入れられるのか?すべての妖怪は救済の対象なのか?という問いかけや緊張感も混在しており、やさしい世界観とシビアな世界観といった相対する雰囲気を常に同居させながら作品が進行してます。
『妖こそ怪異戸籍課へ』(著:笠間裕之・柴朗)第1巻66ページより
いつか真に互いの素性を受け入れる日は来るのだろうか...
同じきらら作品の中では「まちカドまぞく」が結構似た要素を描いていると思います。「まぞく」もせいいき桜ヶ丘という一つの結界の中に守られた土地に人間が住み、まぞくが住み、その中でゆるやかに共存する一方外の世界では過酷な世界観が広がっているという「やさしさ」と「シビア」な空気を抱えながら進んでいく作品なので、まちカドまぞくのそういった部分が好きな方には自信をもって勧められると思います。
おわりに
前回の「はなまるスキップ」でもきらら作品の生存競争の過酷さを説明させていただきましたが、例によってこの作品も是非伸びて欲しいと思うので気になった方は「きららベース」で試し読みしてみてもしくは単行本を手に取って欲しいなと思います。
さて、まんがタイムきららに載っている作品群たちは日夜誌面で人気を競い合っていますが、その多くは2巻でその運命を終えてしまうことが非常に多いです。ましてやアニメ化になるような作品は本当に一握りです。
(中略)電子版の売り上げが考慮されて3巻目に到達したという例があります。なのでこの記事を読んで少しでも興味を持っていただけたならどのような媒体でもいいので是非手にしていただきたいと思い筆を取った次第です。
令和時代ももう4年目に突入しそうですが、2002年に創刊した「まんがタイムきらら」は来年20周年を迎えます。次なる20年へ踏み出すこの歴史的瞬間に送り出される現代ご町内ファンタジー日常を描いた「妖こそ怪異戸籍課へ」を是非よろしくお願いします。