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漫画紹介「はなまるスキップ」~キュートな悪童共は今日もぽかぽか暮らす〜

イントロダクション:「きらら」ってどんなイメージ?

こんにちは、ペッタ~です。

突然ですが、みなさんは「まんがタイムきらら」は好きでしょうか?いわゆる萌え4コマ漫画を専門に掲載している漫画雑誌で「ひだまりスケッチ」「ご注文はうさぎですか?」「ゆるキャン△」「まちカドまぞく」など...名前を知っている、あるいはTVアニメだけなら観たことがあるという方も多いかもしれません。

しかし一方でアニメ等の気に入った原作ならともかく、雑誌そのものを熱心に購読している人という条件を付け加えると、そんなに数はいないと思います。

もし雑誌を購読するほどの熱量は持ってないあなたが今この記事を読んでいるならば、一つこんな質問をしたいと思います。

「まんがタイムきらら」にどんなイメージを持っていますか?

「可愛くデフォルメされたキャラが多い」「牧歌的な雰囲気で癒される」「日常系」...もっとあけすけだと「紋切り型」などと思う方もいるかもしれません。

「いやいや、『うらら迷路町』や『恋する小惑星』は明確な目標に向かって努力してる作品だったし、『はるかなレシーブ』とか『球詠』は結構ガチスポーツなの知ってるぞー!流石にこっちの認識を甘く見積もって決めつけてない?」と思った方も、もちろんいると思います。

さて、こういった作品の中でも大きく共通してる事項しては、日常風景を切り取る関係上そもそも観測したいような人物像でキャラクターをデザインする必要があるのではないかと思います。有り体に言えば「いい子」が多くを占めていることが暗黙の必要条件ではないでしょうか。

ぱっと思い浮かべても「ごちうさ」の保登心愛は対外的で明るい女の子だし、「ゆるキャン△」の各務原なでしこは高校生の身分相応なキャンプを楽しもうとする活発さがありますよね。

「きららの全部が全部牧歌的じゃないのはなんとなく分かるよ」って方も「いい子が多い」という点に関しては大筋同意していただけるのではないでしょうか。

参考までに述べておくと編集側は「『きららといえば日常系』のイメージを持っている人が多い」という認識のようです。

ただ、最初に『ひだまりスケッチ』がアニメ化し、『けいおん!』、『GA 芸術家アートデザインクラス』と続いていって、きららといえは女子高生4・5人の学園ものという印象が我々の想像以上に強くなってしまった。もっと4コマに多様性を見出そうと思って企画したきららが、いつの間にか多様性のなさの象徴みたいになってしまっていたんですね。

これは個人的な推測ですが、歴史を紐解いていくと、2010年代前半に「ゆゆ式」「きんいろモザイク」「ご注文はうさぎですか?」のアニメ化を皮切りに、視聴することで癒しを得ることが出来る作品を恒常的に求めるムーブメント、所謂「難民」の概念がオタク界隈にトレンドを形成したと同時に「きらら」もそういった作品を多く抱えるレーベルとして認知度を再向上させた要因が大きいのではないかと思います。(それ自体は現在も一つの面で真実だと思います。私も癒される作品を求めてきららに入門したクチです。)

閑話休題

「きららに出てくる女の子はみんないい子」――このようなパブリックイメージをうっすら持っている人にこそ読んで欲しい「きらら漫画」が今回紹介するはなまるスキップです。

登場人物:萌えキャラ?いえ、悪童です

これが「はなまるスキップ」第一巻の表紙です。Instagramの投稿をオマージュしたなんともシャレオツな表紙にいかにも「きららナイズ」されたキュートなキャラクターたちが写っていますね。そして右上のパネルの抱えながらマイクパフォーマンスしている少女、彼女が後述するピクニック同好会のリーダーを務める星見はるです。

星見はるは基本的に刹那的な欲望に従って生きるキャラクターです。

ぽかぽか日向ぼっこをすることが好きで、学校の授業には参加せずに校内で昼寝をするのは日常茶飯事。1年生の4月中旬にして(教室まで顔を出していないので)不登校扱いになっています。彼女の場合、学校に行くのが嫌だとか対人関係が奥手とかそのような深刻な悩みゆえに授業をボイコットしているのではなくて、ぽかぽかしたいからぽかぽかするという禅問答のような行動原理でありなんとも唯我独尊なキャラクターです。

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『はなまるスキップ』(著:みくるん)第1巻22ページより


一方で以外にも多才な一面があり、真面目に学校に行っている生徒をあざ笑うかの如く一晩教科書を読み込んだだけで定期テストにおいて全教科満点を叩き出す、人を扇動する演説能力に長けるなど主人公にしてこの作品のアジテーターポジションを担っています。

そしてそんな星見はると同級生の小川めぐりが出会う(激突する)ところから「はなまるスキップ」の物語は始まります。
小川めぐりは入学早々病欠で1週間の欠席をしており、早くみんなと合流してみんなと同じ普通の花のJK生活を始めたいと思う等身大の女子高生...

と思いきや第三者に対してめちゃくちゃ辛辣。おまけに家はプライベートクルーザーを所有するというレベルの超金持ち設定まで兼ね備えており、他人に対する物言いにとにかく棘を混ぜないと我慢できない性格のようです。

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『はなまるスキップ』(著:みくるん)第1巻30ページより
友達を励ます時に言う言葉ではない

そして誰かと一緒にぽかぽかしたいはる高校生活のスタートダッシュに出遅れてとりあえず友達が欲しいめぐりの利害が一致して結成した光合成会(a.k.a ピクニック同好会)になし崩し的に合流するのがシェフ子です。

女子高生にして既にインターネット上では料理系人気インフルエンサーの地位にある彼女(シェフ子とはSNS上での彼女のハンドルネームで何故か現実世界でも自称他称共にシェフ子として定着しています)は、その料理の才能に目を付けれた同好会の二人にお料理要因にするべく半ば強引に引き入れられます。

なので同好会の中では相対的に一番まともなのですが、料理以外の才能は特に目立ったものが無く、テストは100点満点中32点、運動も苦手で、挙句の果てにはメンタルが弱く直ぐに幼児退行するといった短所を主にはるとめぐりに弄られながら過ごしています。

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『はなまるスキップ』(著:みくるん)第1巻47ページより
突如物理的に幼児退行するシェフ子(何回も登場する)

そしてそんな学校に対する反体制を張るピクニック同好会に対し常識的立場として介入をするのが藤原あやめです。この作品最大の良心と言っても過言ではない彼女は、休日もボランティアに参加したり自身の経験から人を支える立場を志してクラスの委員長を務めたりしています。

『はなまるスキップ』(著:みくるん)第1巻16ページより
この作品最大の良心

更には生徒会長に立候補するなど、先ほど述べたよう優しくていい子を全身に纏ったような善性のキャラクターです。

しかし相手にしているのは、極悪のピクニック同好会なので、真面目に授業に参加していても天才の星見はるにはテストで負けるし、悪口を言われたり、無許可で等身大パネルを作成されては破損させられていたりします。悲しいですね。はやく転校した方が良いと思う。

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当時の雑誌に掲載された時のオチの煽り文。あまりにも無慈悲。
(出典:まんがタイムきらら2020年7月号)

そしてそんな優しいあやめにお熱な女の子が赤井るあです。あやめの熱心なファンである赤井るあは、ピクニック同好会の存在を彼女に仇なすものとして、シェフ子のSNSにアンチコメントを連投し同好会を解体しようとします。

『はなまるスキップ』(著:みくるん)第1巻45ページより
委員長大好きなるあはピクニック同好会を解体させようと物語に登場します

しかしというか、やはりというかピクニック同好会の搦め手に嵌り「ピクニック同好会に入ればあやめと距離を縮められる」という意味不明な説得に言いくるめられ研究生としてピクニック同好会に参加することになってしまいます。

研究生とは、言いくるめられた際に即席で作られた地位なのですが、正規メンバーではないので活動には参加できません。ピクニック同好会とは...?

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『はなまるスキップ』(著:みくるん)第1巻78ページより
活動には参加できないけど雑用は押し付けられるのが研究生である。

そしてシェフ子の実姉兼みんなの担任の先生兼ピクニック同好会顧問の橋倉まどか先生が加わります。基本的には先生然としていてまとも寄りなのですが(教師だから当たり前だろ)ピクニック同好会の実績作りとしてボディビル選手権を勧めてきたり、ハンドルを握ると性格が豹変してスピード狂になるなどどこか抜けた一面があります。

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『はなまるスキップ』(著:みくるん)第1巻28ページより
急に一人で頭文字Dを始める先生

「はなまるスキップ」の物語は主に上記の人物を中心にして展開します。ピクニック同好会と言いつつほとんどピクニックをしていません。ここまでのキャラ紹介でなんとなく察してる人もいると思いますが、この作品の面白さは何といっても欲望のままに生きるキャラの無法さでしょう。己のぽかぽかする目的を達成するためならば、不正・買収・扇動なんでもありです。

だからこそきららに対して「基本的には善性な人物のスケッチコメディ」のようなパブリックイメージを持っている人にこそこの作品を手に取って読んで欲しいと熱烈に勧めたいわけです。あまりのギャップの落差に笑わせられること間違いなしでしょう。

特色①:無法系萌え、フットワークの軽さ

上記の通りはなまるスキップの大きな特徴は「萌えキャラ」が「無法」を働くギャグでしょう。念のため言っておきますが、当記事は作品のミスリーディングをネタバレしていません。公式の宣伝にも全面的にこのギャップを作品のメインとなる核として取り扱っています。

帯に堂々と「かわいいキャラに騙されるな!!」と書いてある
きららが贈るゆるふわピクニック4コマ…だと思いましたか?残念でした!
かわいいキャラが日常系の皮を被って大暴れ!
ゆるふわな見た目に騙されるな!ピクニック同好会(ほぼピクニックしません)がお贈りする新感覚ギャグ4コマ開幕!

「無法系萌え」という新ジャンルは各所に意識されています。例えばオチとなるコマで急に劇画調になるなどの漫画的な崩しはこの作品はほとんどありません。終始きららが培ってきた様々な「萌え」の記号を纏いながら漫画が進行していきます。

ずっと「この漫画は萌え萌えで可愛いですよ」と演出上では強調されているために、働かれる無法がきららに掲載されているという事実と合わさることで、ギャグを最大限まで機能させているわけですね。

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『はなまるスキップ』(著:みくるん)第1巻62ページより
2頭身、省略された手足、配置されたお花のような
伝統的な記号いっぱいのキャラから放たれる暴言

物語の構造に目を向けてみても例えばキャラクターたちは、天然、金持ち、ツンデレ、真面目と往年の「お約束」を踏襲した差別化がなされています。お約束を意図して忠実に行うからこそ邪悪なパロディとしての側面が浮き彫りになっているわけです。

さらにこの作品は盤外戦術にも長けています。2020年8月の時点で新型コロナウイルスによる日常生活の変容を、具体的にはマスクとフェイスシールドを作品に登場させたり、毎度全く作品を説明していないフリーダムでウェットな柱、何故か同じ掲載作とネタが連続で被るなど、ここまでくると天運までも味方につけているとすら思えます。

こうした盤外戦術ってバランスを欠くと途端に寒くなってしまう諸刃の剣となりがちですが、「はなまるスキップ」は作品の内容自体の無法さと相まって、このフットワークの軽さに異様な説得力というか嫌味の無さが発揮されているんですよね。

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『はなまるスキップ』(著:みくるん)第1巻51ページより
いち早く登場する新しい生活様式

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『はなまるスキップ』(著:みくるん)第1巻52ページより
あらすじ紹介でアニメ版「NEWGAME!」のキャッチコピーを急にパロディにする
バードウオッチングを題材に描いた同雑誌の連載作、「しあわせ鳥見んぐ」と両者のカラーページで同時に出現するトンビ(2021年3月)
周りから高校浪人したことを周囲に隠しながら進んでいく学園コメディ「スロウスタート」と何故か探偵ネタで被る(2021年2月)

特色②:悪友としての「日常」

じゃあ結局この作品はある種のきらら的な要素に対するメタ張りのみが売りなのかと言われれば私はそうは考えていません。信じられないような暴虐で笑いが先行してしまいがちなのですが意外と友情を描いているのでは、と私は思います。

友情と言っても距離感の足踏みが揃った繋がりではなく、もっと緩く、やや反体制的でアウトローな結束と言う意味での友情、端的に言えば「悪友」がぴったりの言葉なのではないかと思います。

というのも自分の学生時代を思い出してみると、日々仲のいい友達グループの中でとデリケートな話題を弄るような小突き合いのようなことを言っていて、でもそれって別に本気で貶めようとかそういう意図じゃなくて平たく言えば内輪にしか分からないノリの様なものが存在していたんですよね。

あえてデリケートな話題で相手を刺激して、何らかの反応を引き出そうとしているのは間違いないです。しかしそれはコミュニティから追い出すことを目的にした「攻撃」ではなくて、むしろ外部からは理解が困難なルールでお互いの共犯関係を緩やかに結び付けている「儀式」の様なものでした。

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『はなまるスキップ』(著:みくるん)第1巻27ページより
人を加工厨呼ばわりした次にめぐり自身のぼっちが弄られる。
小突き合いが彼女たちを結び付けている「儀式」ではないだろうか。

フランクを通り越してデリケートな話題を小突き合いながら覚束なく進んでいく、そしてその内輪のルールが外部に向けられた時ナイフの如く攻撃性を帯びてしまう――そんなピクニック同好会という繋がりは、例えば同じきらら作品の中でも留年生の内面的悩みを描いている「またぞろ。」の様な深刻な悩みを共有している強い繋がりとは全く異なるものです。

↑おすすめの参考記事
「またぞろ。」もとても面白いので読んでね。

しかし、爪弾き者というほどの深刻さではないにしろ、様々な要因でマジョリティになれなかった人間達のうっすらとした、持ちつ持たれつな繋がりが存在しています。世間一般の体制に反逆してでも自分たちの理念を貫くことを選択し、内輪に縮こまった時に過激とも言えるやりとりの中に彼女たちなりの「日常」というものが確かに存在しているのです。

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『はなまるスキップ』(著:みくるん)第1巻36ページより
ピクニック同好会は大衆から心霊研究会と勘違いされている。
メンバーは全員それぞれの理由でマジョリティになれなかった。

まんがタイムきららは「日常」の解釈を今日までに拡張して様々な作品を輩出してきました。必ずしも常に物理的に一緒にいなくてもテクノロジーの進歩で非同期に繋がれるという気付きが「ゆるキャン△」にはありますし、伝記的世界の中でも人々が生きていて、そこには避けられぬ日々の営みがあると提示している「まちカドまぞく」など様々な「日常」の解釈が生まれています。

そんな中で独自のルールで内輪に結束し、外部に対してはその反動で攻撃性を剥き出しにしてしまうアウトロー的繋がりとしての「日常」を標榜しているのがこの「はなまるスキップ」なのではないかと思います。

おわりに

さて、まんがタイムきららに載っている作品群たちは日夜誌面で人気を競い合っていますが、その多くは2巻でその運命を終えてしまうことが非常に多いです。ましてやアニメ化になるような作品は本当に一握りです。私は一端のきらら読みの立場からこの作品を次世代のきららを担う作品として猛烈に支援したいのですが、世の中は緊急事態宣言で依然商業的状況は厳しいでしょう。

幸いにも最近は電子版の売り上げも以前より考慮されるようになり、例を挙げると去年の緊急事態宣言で街がゴーストタウンになってしまった直後に発売された「ななどなどなど」という作品は世間的な情勢が苦境だったにも関わらず、電子版の売り上げが考慮されて3巻目に到達したという例があります。なのでこの記事を読んで少しでも興味を持っていただけたならどのような媒体でもいいので是非手にしていただきたいと思い筆を取った次第です。

↑「ななどなどなど」作者:宇崎うそ先生の証言
↑「ななどなどなど」のおススメの紹介記事

更に、更に内容が気になるので試し読みしてみたいという方になんとニコニコ静画内で第7話まで無料掲載しています!キュートな悪童の無法を是非味わってみてください!

以上で本記事は終わります。この記事を読んでもらって一人でも「はなまるスキップ」のファンが増えてくれて、こんな時だからこそ笑ってもらえたら頑張って書いた筆者としては嬉しいなと思います。


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