漫画紹介「きたない君がいちばんかわいい」
こんにちは、ペッタ~です。
突然ですが、みなさん百合は好きでしょうか。
一口に百合と言ってもほのかに香るソフトなものから、がっつり恋愛や情愛のニュアンスまで踏み込んだものまでいろいろあると思います。
そこで今日は、令和の世に彗星の如く現れた強烈な百合漫画「きたない君がいちばんかわいい」を紹介したいと思います。
※以下がっつりネタバレを含みます
登場人物、あらすじ
まずは試し読み一話を読んでみてください
この漫画は現在「百合姫」でまにお先生が連載されている作品です。あらすじを引用すると...
瀬崎愛吏と花邑ひなこ。クラスではグループもカーストも違う彼女たちには、人には言えない秘密がある。放課後に化学実験室で行われる、目を塞ぎたくなるような情事。それは、愛と打算と性癖に満ち溢れた二人だけの儀式だった…
なんかもう第一話でフルスロットルな感じですが、本作はそれ以降もアクセル全開でとどまることを知りません。第1巻だけでも嘔吐、経血匂わせ、ピアス、失禁と陽キャグループの優等生瀬崎愛吏(黒髪の方)が陰キャグループの目立たない女の子花邑ひなこ(白髪の方)を秘密のプレイの名のもとに滅茶苦茶にしていくわけです。
最悪なルーレット
ただ、放課後に学校施設でヤるというスリル優先の情事はいつまでもバレない訳が無く、たまたま居合わせたひなこコミュニティ側の人間松下好美に目撃されてしまい彼女の一方的な“天誅”のもと盛大にクラスに情事がバレて、そして人物相関図がひっくり返るのがこの作品の見せどころ。
これが
こうなる
嗜虐している方である瀬崎愛吏はとにかく自己愛が強くて、そもそも花邑ひなこと絡み出したのも顔がかわいい子とつるんでいれば第三者から見て自分の青春が華やかに見えるだろうからその為のアクセサリーとして選んだに過ぎないという実に邪な動機なわけです。
『きたない君がいちばんかわいい』(著:まにお)第1巻42ページより
あまりにも身もふたもない動機
そんなカースト上位街道を邁進することに余念がない女が秘密が暴露されたことによって全てが終わる。
ただ単に性癖を開陳して並べていくニッチな漫画などではなく実際のところ人間関係の模様や陰の感情描写が非常に丁寧で読みごたえがあります。
『きたない君がいちばんかわいい』(著:まにお)第2巻88ページより
今まで人生ヨユーって感じの人間が一気に危機にさらされて迫真の動揺
まぁ、ここまで読んでも「なんだか良くありそうなスカッと的フォーマットを百合と性癖に託してやってるだけでは...」と思うかもしれません。
泥臭く、人間臭い、しかし美しい人間賛歌の話
実は本編を読むと分かるんですが、吐瀉物だったり血液などに対しての形容詞は一貫して「汚い」と漢字表記なんですよ。だからタイトルのひらがな表記の「きたない」は別の対象を指しているんですね。じゃあそれが何かと言うと物理的な汚さよりもさらに広義的な「人間的な負の側面」と私は解釈しています。
個人的に百合って憧れの相手をリスペクトする感情から物語がスタートしたり、相手を好きになろうとして理由として足りえる良い面を探したり、あるいは険悪な仲でスタートしたら意外と相手にもいい面もあるじゃん...みたいなギャップの発見で感情が動き出したりと――例外はもちろんありますが、基本的には綺麗で華やかな美しさであったり尊さを描いている(あるいは探究している)ジャンルだと思うんですよ。
一方でこの作品のアプローチはその真逆で、作品に登場するキャラクターのほとんどは、卑屈さだったり傲慢、虚飾といった人間臭さが一貫して存在しています。他人の情事は断罪する割に自分の劣欲はきれいな欲と棚上げしたり、本当は高校生でニチアサ観てテンション上げるオタクなのにプライドが邪魔して無理やり陽キャ集団に入り込んだり、いよいよ状況が悪くなったら同情を誘うためにリスカしてみたり(本当はそんな勇気すらもないので包帯巻いてるだけ)そんな本来ならば隠しスパイス程度に加えるような人間の陰の描写が激辛カップラーメンのあとがけ唐辛子粉末の如くドカ盛りに入ってるわけです。そしてそういったどうしようもなく身勝手なキャラたちの拗れた生き様が逆説的にですがリアルな人間賛歌として実に「美しい」わけです。
『きたない君がいちばんかわいい』(著:まにお)第3巻61ページより
リスカする度胸もない瀬崎愛吏
上で述べた愛吏がひなことつるみ始めた動機だって、現実の私たちの「こいつは友達として楽しい奴(だからずっとつるんでいられる)」といった感情とどれ程の距離が空いてるのだろうか。実は自分だって無意識に"友達しがい"を推し量っていないのだろうか。私は因果応報に壊れていった愛吏を眺めながら「あぁ、なんか分かる気がするわぁ」と思わずにはいられないわけです。決して現実を生きる私たちと断絶された異次元のエイリアンを描いているんじゃなくて(出力は極端ではあるけども)卑近で性悪な人間なんですよ愛吏たちは。
『きたない君がいちばんかわいい』(著:まにお)第3巻86ページより
土壇場に来ても自分がこうなったのはひなの嘔吐を見て嗜虐に目覚めてしまったからと第三者に理解されるはずもない言い訳を見苦しくもする
だから私はこの作品を読むと「美しい」と感じずにはいられないんです。
こう考えると『「きたない君」が「いちばんかわいい」』というタイトルの意味がひなこから愛吏に向けられた感情だと腑に落ちるわけです。
そして不登校になり、メンタルが壊れてしまった愛吏はひなこに依存を求め今度は学校ではなく愛吏の部屋で淫蕩な関係性を再び始めます。第二ラウンドの開始ですね。
こうなってしまったらもうひなこは無敵の存在です。だって「きたない」部分もひっくるめて全肯定で愛吏を受け入れているのでいくら説得しても無駄です。
愛吏のプレイはひなこからの「奉仕」とか、あるいはこんなことも命じることが私は出来るんだという「支配」に過ぎなくて、欲望の主体も自分自身なんだけど、ひなこのプレイは本物の愛なので欲望の主体は淫乱赤ちゃんになった愛吏にあるわけなんですね。(淫乱赤ちゃんって何...??)
マシンガンの如く繰り出される性癖、鮮やかな関係の逆転を描き切る構成力、そして泥臭くも人間臭い強い輪郭を持って読者に迫るキャラたち。
マジで今が最高に面白い漫画なんで、この記事で少しでも気になったら「きたない君がいちばんかわいい」を読んでください。(2021年5月18日現在半額還元セールをやってるらしいので是非)
それから最新4巻は7月16日に発売するらしいです。
ではまた。
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