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病気コラムvol.10《外耳炎》

今回の病気コラムは、
耳の病気の代表格、「外耳炎」についてご紹介していきます。


①外耳炎とは…?


外耳炎は頻度が多く、動物病院では毎日のように遭遇しています。
具体的に外耳炎になってしまうと、下記のような症状を示します。

・耳をかく
・頭を振る
・頭をかたむける
・耳が赤い・腫れている・熱をもっている
・耳を痛がる
・耳垢が増える
・耳のにおいが強くなる
・耳だれ

症状は様々ですが、ほとんどが耳の症状では?
と思える分かりやすい症状が多いといえます。
これらの症状がある場合は、外耳炎を疑います。


②外耳炎の原因


では次に、外耳炎に関与する4つの因子について見ていきましょう。

1.       主因


主因とは、「これだけで外耳炎を発症する因子」を意味します。

・異物:植物の種子、被毛、土・砂など
・外部寄生虫:ミミヒゼンダニ、ニキビダニ、ツツガムシなど

顕微鏡で検出されたミミヒゼンダニ


・アレルギー:アトピー性皮膚炎、食物有害反応、ノミアレルギー、
接触性アレルギーなど

・免疫介在性疾患:落葉状天疱瘡、エリテマトーデス、水疱性疾患、多形紅斑、血管炎・血管障害、薬疹など

・内分泌疾患:副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能低下症、性ホルモン異常

・角化異常:原発性特発性脂漏症、脂腺異常、ビタミンA反応性皮膚症、亜鉛反応性皮膚症

・腺組織の異常:分泌物の変化、皮脂腺の過形成や形成不全

・その他:耳道内の腫瘤性変化(腫瘍、ポリープ)、耳軟骨炎、好酸球性肉芽腫群、若年性蜂窩織炎、猫の増殖性穿孔性中耳炎


2.       副因


副因とは、
「外耳炎の発症に強く関わっているものの、
これだけでは外耳炎を発症しない因子」
を意味します。

・細菌:ブドウ球菌、レンサ球菌、双球菌、緑膿菌、大腸菌、放線菌など
・酵母:マラセチア属、カンジダ属など
・医原性:局所刺激物、外傷

副因は主因と比較するとシンプルです。

微生物が増殖する原因は主因に由来することが多いので、
そもそもの原因を分析して対策することが
外耳炎治療では重要なポイントでしょう。


3.       永続因子


永続因子とは、
「発生した外耳炎を治りにくくしている因子」を意味します。

・上皮:壊死細胞片の過剰、上皮移動の障害
・外耳道:紅斑、浮腫、増殖性変化、狭窄、石灰化
・鼓膜:肥厚、伸展、憩室、破裂
・腺組織:アポクリン腺閉塞/拡張、皮脂腺過形成
・中耳:中耳炎


外耳のイラスト


副因と同じように、永続因子単独では外耳炎を生じません。

また、永続因子は、
「耳の機能や構造の変化に由来する因子」
と言い換えることもできます。

慢性化した外耳炎では、
永続因子が折り重なって、
速やかな治癒が難しいことも少なくありません。


4.       素因


素因とは、「外耳炎を発生させやすくする因子」を意味します。

・形態/構造:耳道内の過剰な被毛、耳介内側の被毛、垂れ耳、耳道狭窄
・過度の湿気:環境(高温多湿)、水(グルーミング、水泳)
・全身性疾患:衰弱、免疫抑制、異化亢進状態
・医原性:正常細菌叢の変化、耳そうじによる外傷、過剰な耳そうじ

外耳炎が起こりやすい垂れ耳のわんちゃん

永続因子と同じように、
素因だけが存在しても外耳炎は発症しません。

暑い時期に外耳炎が起こりやすいのは、
まさに高温多湿という素因が原因です。


実際、外耳炎になってしまった場合は、
原因となるそれぞれの因子を解決しながら治療をすすめていきます。
ひとたび外耳炎になってしまったら、
治療薬なしに治癒することは難しいでしょう。


③外耳炎の治療


STEP1.


すぐに解決すべき因子に対する治療を開始します。

具体的には、
細菌や酵母(いずれも副因)に対して、抗生剤や抗菌剤を投与します。
点耳薬での治療をスタートすることが多いでしょう。

外耳道に腫れや痛み(いずれも永続因子)が起きている場合は、
ステロイド治療も必要になるでしょう。

耳の穴や外耳道が腫れて狭くなっている重度な外耳炎は、
点耳薬だけでは不十分かも…と判断する場合が多く、
内服薬が追加されることもあります。

治療については、
ご自宅での点耳薬の投与をお願いすることが多いですが、
点耳薬が難しい子には、
動物病院で投与できる長期作用型の点耳薬を使用すると良いでしょう。

動物病院で使用される主な点耳薬

STEP2.


初期治療である程度改善が認められた後は、
基礎疾患となる主因の治療が中心となっていきます。

もちろん、初期治療と同時に治療していくこともあります。
細菌や酵母に対しては、治療薬をひたすら続けるというよりも、
耳道洗浄を行うことで、
細菌や酵母が異常増殖しにくい環境の維持を目標とします。

耳道洗浄を行うと、上皮や鼓膜の変化(永続因子)の改善も期待できます。

一方で、耳道の増殖性変化や腺組織の変化は、
ステロイドの作用を利用しないことには改善が期待できません。
内服薬でステロイドを長期使用することは推奨されませんので、
点耳薬を使用します。


また、耳道やその周囲の被毛が素因として考えられる場合は、
被毛の処理を検討しますが、抜毛は毛穴に損傷を与え、
痛みを生じるため、切る方が良いとされています。


STEP3.


治療が成功しても、定期的に耳道入り口の観察、
においのチェック、耳垢のチェックをすると良いでしょう。
悪化の様子があれば、動物病院での洗浄や治療をしましょう。


また、主因が十分に管理できない場合や、
素因がある場合には再発する可能性がどうしても残ってしまいます。

このような場合は、症状がみられない状態でも
限定した治療を継続して、
再発を予防するプロアクティブ療法の実施を検討することがあります。


④ご自宅でのお手入れ


まず、一番大切なことは「棒状のものを耳に入れない」です。

耳道には、上皮移動という自浄作用が備わっており、
綿棒や耳かきなどを耳に入れると、耳垢が奥に押し込まれてしまいます。
耳からしたら「せっかく耳垢出そうとしていたのに…」と
いうことになります。


お手入れをする場合は、
耳の洗浄液や綺麗なお水で濡らしたコットンで、
耳の穴周辺(見える範囲のみ)を掃除すると良いでしょう。

その際に、見た目、におい、
耳垢の変化をチェックしましょう。

耳の穴に指を突っ込みたくなりますが…やめておきましょう。


赤くなっていないか?においはどうか?など、チェックしましょう。
お手入れは、コットンで耳の手前をやさしく拭います。

耳の洗浄液を耳の中に直接入れてケアをすることもありますが、
できるだけ動物病院にご相談ください。
獣医師の指導の上、ご自宅でできそうであれば、
お願いすることがあります。


外耳炎は様々な要素が絡み合って、様々な状態で発見されます。
いずれにしても「早期発見早期治療、その後の予防」が
外耳炎治療にとってもっとも効果的な方法です。

耳が怪しい…と思ったら迷わずご相談下さい。

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