『錦糸町のトコちゃん こぼれ話-タケルがくさいにおいになる』
『錦糸町のトコちゃん』に書ききれなかったエピソードをこれから少しずつ書いていきます。今回の話は昭和46年ごろ。トコちゃんが、みどりようちえんに入ったころのお話し。3さい下のおとうと、タケルは2さい。
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タケルは、ミルクのような、いいにおいがするので、わたしはいつもタケルのにおいをかいだり、チューをしたりしていた。
けれど、このまえ、タケルのかおから、どぶのような、くさいにおいがした。
おかあさんに、そういったら、おかあさんも、タケルの、においをかいで、
「あらほんとだわ、なんかくさいにおいがする」
といった。
でも、どうしてなのか、わからなかった。
きのうは、にちようびで、おとうさんがタケルをだっこして「たかいたかい」をしていた。
するとおとうさんは
「タケルの、はなの中に、ひかるものがはいっているぞ」
といった。
おかあさんもびっくりして、タケルの、はなのあなをみた。
「ほんとだわ、はいってる、なんだろう、ピンクいろでひかってる。タケルがくさいのは、これのせいかしら。
といって、はなから出そうとしてみたけれど、おくに入ってしまってとれなかった。
そしてきょう、おかあさんはタケルをびょういんにつれていった。わたしもいっしょについていった。
せんせいは、タケルのはなのあなをみて、
「うーん、なにか入っていますね。では、とりだすので、タケルくんを、じっと、おさえていてください」
といった。
タケルはおかあさんの、ひざの上にたって、じっとしていた。
でも、せんせいがタケルのはなのあなにピンセットを入れると、タケルはイヤそうなかおをして、もぞもぞしたので、せんせいは、おかあさんのひざをギュっとおさえた。
すぐに、タケルのはなの中から、小さなまるいものがポロンとでてきた。
「あっ、これはトウコのおもちゃのネックレスのしんじゅだわ」
と、おかあさんはいった。
わたしもびっくりして、それをみてみると、もともとはピンクいろなのに、はんぶんくらいがまっ白になっていた。
そういえば、このまえ、ネックレスのいとがきれてしまって、しんじゅがバラバラになったのをおもいだした。
「きっと、ずいぶんながく、はなに入っていて、くさってしまって、くさいにおいがしていたのね。それにしてもなんで、こんなものをはなに入れてしまうのかしら」
おかあさんがあきれていると、せんせいが
「こどもには、よくあることなんですよ」
といった。
おかあさんは、びょういんからかえるとき、
「きのうは、しんぱいで、よくねむれなかったわ。もうタケルにはいつもしんぱいさせられっぱなし。おとこのこはたいへんだわ」
と、ひとりごとをいっていた。
わたしはちょっと(わたしのせいかなぁ、わたしのしんじゅだから)って思ったけれど、おかあさんはわたしに、なにもいわなかった。