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日本最大級の研究機関、産総研に行ってみた

日本の三大研究所のひとつ、産業技術総合研究所(産総研)の一般公開イベントに行ってきた。

私が参加したのは「体験ブース」という企画。体験ブースでは、実際に研究成果を体験しながら、研究者と話ができる。

予約不要でサクッと体験できる、模擬店スタイルの研究紹介ブース。巡るだけで産総研の多彩さが大体わかる、全24コマが出展します。相手が研究者だからって臆することなかれ。
冷やかし歓迎、素人質問も大歓迎!「研究者カード」ももらえますよ。

イベントHPの体験ブースの説明

面白い研究はたくさんあったが、その全てを紹介するのは難しい。今回は特に印象的だった2つの研究を取り上げる(2743字)。


AIソムリエ

AIソムリエを相手に「利きコーヒー」の対決をした。4種のコーヒーを飲んで銘柄を当てるのだが、私は4問中2問正解だったのに対し、AIソムリエは全問正解だった

その正体は、電子舌

AIソムリエの正体は、センサーでキャッチした溶液の情報を機械学習で解析するシステム。たった1滴のコーヒーに手のひらサイズの「電子舌センサー」を1分浸すと、それぞれのコーヒーに対応した4つのグラフが表示される。

ぱっと見では全て同じグラフに見えた。しかし、よくよく見ると、一部が微妙にズレており、AIはこの微妙なズレをもとに判別しているようだ。ズレを判別する機械学習もすごいが、微妙な違いを読み取るセンサーもすごい。

センサーにダイヤモンドを用いると…

この研究の肝は、センサー電極にダイヤモンドを用いた点にある。センサーの役目は、溶液に電圧をかけたときの電流値を読み取ること。この電流値をもとにAIが判別をする。ただ、高い電圧をかけると電極自体が溶け出し、溶出した成分がノイズとなって正確な電流を測定できない。

そこで、センサー電極の「自己溶出問題」を解決したのがダイヤモンド。ダイヤモンドは非常に安定した物質なので、高電圧下でも溶出しない。ダイヤモンドを使うことで、より広い範囲(電位幅)で、より高感度な測定ができるようになったのだ。

ダイヤモンドって高いんじゃ?

ダイヤモンドといえば、お高いイメージがある。いくら高性能なセンサーでも、コストが高いと実用化は難しい。この研究の背景には、ダイヤモンドを安価に合成できる技術(熱フィラメントCVD法)があった。

驚くべきことに、AIソムリエのダイヤ製センサーは使い捨て。従来のセンサーは測定前後に洗浄したり、信号強度を補正したりする手間があったが、使い捨てなら誰でも簡単に使える。

ダイヤモンドの合成技術の研究から派生し、電子舌への応用研究に至ったと思うと、より凄みを感じる。この技術は嗜好品の品質保証や真贋判定にとどまらず、血液や尿を用いたヘルスケア、河川の水質モニタリングを通じた防災など、あらゆる分野に応用できる可能性を秘めている。

活断層の調査

「動きやすい断層とは何か」をテーマとしたブースがあった。ここでは、断層の姿勢が地震に与える影響をPCで計算することができた。断層型地震は、陸側のプレート内部での断層運動により生じる。大きな地震ほど、破壊してずれ動く断層の面積も大きくなる。

断層が動いた時の断層面の面積は、地震の規模を表すマグニチュード(M)と併せて考えるとイメージしやすい。M2では小学校の校庭、M4では東京駅の敷地、M6では成田空港の敷地、M8では東京都の面積に相当する断層面が動いているそう。

そして、断層の動きやすさは「断層面の姿勢の情報」と「地下の力の情報」をもとに計算できる。実際に計算ソフトを用いて、とある活断層の傾斜を60度から30度に変えて計算してみると、揺れやすさを示す値(slip-tendency)が爆増した。「断層面の姿勢の情報」と「地下の力の情報」がわかれば、地震予知も夢ではなさそうだ。しかし、これらの情報を知るのは容易いことではない。

断層の姿勢を調べる

陸上の活断層の姿勢は、中学理科で習った「ボーリング調査」や、比較的浅い部分(深さ5mほど)を掘り起こす「トレンチ調査」で調べられる。しかし、活断層は海底にもある。海底の活断層は、海底に向かって音波を発する船を走らせ、海底から反射してきた音波を解析する方法がある。ものすごく大変そうだ。

地下の力を調べる

また、地下の力を把握するには、過去の地震に伴う断層の変形から、その変形の原因となった力を推定する手法(応力逆解析)が用いられるそう。私はこの手法について詳しく知らないが、誰もが簡単にできる計算でないことは確かだ。

そんな面倒な計算をせずに地下の力を直接測ればいいじゃないか、とも思えてくる。実際、地下にセンサーを埋め込む手法もあり、この手法ならばリアルタイムで情報を把握できる。しかし、一つのセンサーを設置するのに約10億円を要するらしい。地下にセンサーを埋め込み、リアルタイムで情報を把握するのは、まだ先の話になりそうだ。

産総研は、断層面の姿勢や地下の力に関する情報を地道に調べている。地震を研究してくれる人がいるのは、日本国民にとって非常にありがたい。オリンピックに税金を使うくらいなら、こうした研究に使って欲しい。

他にも面白い研究は多数

地震のメカニズムを体感

地震とは、地下の岩石が壊れる際に発生する波が地表を揺らす現象。このブースでは、岩石を圧縮していき破壊に至るまでの過程を観察できた。岩石の破壊形態を観察できただけでなく、破壊時の音と衝撃波も確認できた。

ソフトロボット

ロボットといえば、硬くてゴツいやつを想像しがち。このブースでは、ゴムや薄いフィルムで作られた柔らかいロボットを紹介していた。曲がりくねった配管内をミミズの如く伸び縮みしながら進む「配管ロボット」や、うねうねと地面を這い回る「薄膜製のロボット」を観察できた。

素材としてのダイヤモンド

氷を切る実験を通じてダイヤモンドの特性を体感できた。まず、普通のガラス板で氷を切ろうとしたが、全然切れない。予想通りだ。次に、ダイヤモンド基板を氷に当ててみると、スッと氷に食い込み、いとも簡単に切れてしまった。ダイヤモンドは熱を伝える能力(熱伝導性)が非常に高く、手の体温がダイヤモンドを介して一瞬で氷に伝わるそう。

あとがき

産総研の敷地に入れただけでもすごいが、第一線の研究者の話を間近で聞けたのはもっとすごい。研究者たちが、一般人のレベルに合わせて話をしてくれるし、素人質問をぶつけても真面目に答えてくれる。しかも、無料。

参加者としては最高のイベントだったが、果たして産総研の側に何かメリットがあるのだろうか、と要らぬ心配を抱いてしまった。どうやら毎年のように開催しているようだ。2025年も開催されるかもしれないので、興味のある人は是非。


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