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夕暮れの羽根
毎夏毎夏、私は、誰に言われることもなく、蝉が鳴き始めていることに気づいていた。今年はあの子の言った「蝉、鳴き始めたね」という何気ない言葉に、始めて蝉が鳴いているのに気づいた。
私は私を取り巻いている世界について、鈍くなっているかもしれないし、これは年齢を重ねたことの正しい反応かもしれない。よくない変化なのかもしれない。
別段、何も示唆していないのかも。
蝉が鳴いているなんて、夏が本格的に始まったということしか示していない。
今年の夏はいきなり40度とか、ふざけるなって言いたくなるような温度設定で、皮膚が苦しいといっている。
頭がふらふらするのが、貧血なのか、暑さのせいなのかわからない。
クーラーを消して寝ることに、タバコと同じくらい、緩やかな自殺の匂いを感じているのかも。それはそれでいい夏かもしれない。
死を近くに感じるということは、それだけ生命力も強く持たざるを得ないということだから。
空を見ることが好きなのだけど、夏の空も冬の空もいい。綺麗。
夕暮れの雲は、羽根みたいに見えるよ。白の絵の具を落として、ざっと引っ掻いたのかもしれない。
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