アッパーミドルビジネスマン
約8ヶ月ぶりのチェンナイに到着した。
昨日のオールドドバイの喧騒では太刀打ちできない、 「流石・タミルインディア」 そんな喧騒に眩暈を起こしそうになっていた俺だった。
「MR・進道。お待ちしてました。随分痩せられましたね」
目の奥は笑わなかったシャンカールなのだが、俺の変わり具合に驚きで瞳が収縮を繰り返していた。初めての運び出しが無事終了となる歓喜も、その収縮に反映されてるのかもしれない。
空港を出た俺達は、そのままシャンカールの事務所へ向かいドバイでの行程と全く同じように、アタッシュケースから金を取り出し、その30分後に買取商が現れ、17.000$(約180万円)を受け取り
「次回もよろしくお願いします」とシャンカールと俺に深々と頭を下げで出て行った。
「シャンカール、確かにビジネスクラスは快適だったし、この風体であれば 疑念を抱かれる事はないが、俺が今清算してくれた2000$(約25万円)を取ってしまえば 残金なんて200万円を切っているんじゃないか?」
「MR・進道、イマノワからも随分MR・進道が経費に関して心配していると連絡入っています。私やアナンダン、イマノワも銘々ビジネスを持っています。MR・進道にはあの村に専従で暮らしてもらって居る。一年に2回位の贅沢だと思って気軽に楽しんで下さいよ!。金の先物は底入りを終えて、ここから随時価格が上がっていくので心配は無用です。私は、イマノワを含めた村人のコミッション運用も行っています。自信がなければ、先行投資なんてしませんから」
妙に説得力のある説明に切り返す言葉が見つからなかった。
「旅は快適に限るしな!分かったよ。俺のコミッションはアナンダンとの口座に振りこんで置いてくれれば良い」
半年分の労働賃金で換算すれば 4000$(約50万円)だと 年収は100万円だ。昔の俺なら絶対やらない仕事だった。 しかし、この3人達の結束力も然り、何よりあの「名も無き村」の生活を 随分気に入りだしていたのが、全く日本の事を忘れさせていたのかも知れない。
目先の利ばかりを追いかけてきた、今までの俺と「信じて賭す」今の俺ならば、過去の俺も未来の俺も、現在を選択するだろう。