アッパーミドルビジネスマン
アクラ市内に入り、真っ先に向かった先は美容院だった。
伸ばすに任せていた髪をさっぱり刈り込み、髭も落としてもらった。
美容師からは 「野人からジャパニーズ・ビジネスマンに変身」と囃したてられ店を後にした。 イマノワの事務所にその足で出向き、日本から着てきたスーツを 着てみたのだが、「名も無き村」で、余分な贅肉は全て削ぎ落とされた身体になり2サイズほど緩くて不恰好なスーツ姿となっていた。
鏡の前で苦笑する俺に「MR・進道、シャンカールから渡航費を含め少し余裕のある諸経費が振り込まれてます。スーツは新調しましょう。この国は元英国領です、腕の良い仕立て屋も居ますから」
そう言うイマノワと市内の紳士服店に出向いていった。
如何にも・・と言う感じのダークブルーとグレーの良質な生地を
イマノワと選び、仕立てを頼んだ。
翌日、出来上がったスーツに袖を通して見ると確かに何処から見ても少し
アッパーミドル風のビジネスマンの風体となっていた。
「どうだイマノワ?どうせ中身なんて問わねぇ世の中だ 。見た目だけならこれで充分だろ?」
俺の言葉に、わざと直立不動になり「YES.Sir」とおどけるイマノワだった。
初の運び出し工程は、アクラからドバイ1泊を経てチェンナイ入り。
驚いた事に渡されたチケットはビジネスクラスの往復チケットになっていた。
「おいイマノワ。これは幾らなんでも経費過多じゃないのか?
今の相場価格でも300~350万位の金を運ぶだけだぞ」
「シャンカールからは、怪しまれず悠然と渡航してもらうには 経費は惜しまないと言われて手配されています。金相場は今後上昇していくので 心配せず、久しぶりの移動を楽しんできて下さいとの事です。」
俺は釈然とはしないものの、彼らが練り上げたプランに口を挟む立場ではない。ここは旅を楽しむつもりでチケットを手にした。