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No.59 2006年 米国映画「グッドナイト&グッドラック」鑑賞から現在の日本でのメディアを考える

 2005年に米国で公開された映画「Good Night,and Good Luck」(グッドナイト&グッドラック)を2006年に映画館で鑑賞しました。どのような映画だったのでしょうか。
 Wikipediaでは次のように書かれています。

1958年10月15日、シカゴ。テレビ、ラジオの報道担当者協会(RTNDA) 年次総会に集まった報道番組の責任者たちを前にジャーナリストであるエドワード・R・マローの記念講演がはじまる。舞台は過去へ遡る。1950年代の冷戦下のアメリカ。ジョセフ・マッカーシー上院議員が中心になって推し進める赤狩り(「マッカーシズム」)が吹き荒れるなか、法的な手続きを無視して「共産主義者」の排除を推し進めようとするだけでなく、自分の意にそぐわないものを「共産主義者」と決めつけ攻撃するマッカーシーの手法に対して疑問をもつ良識的なアメリカ人も多かったが、誰もが自分自身が標的にされることを恐れ、マッカーシーの手法を表面だって批判する者はいなかった。しかしそのような風潮の中で、エドワード・R・マローとそのスタッフ達は、マロー自らがホストを務める「See it Now」の番組中で、ミシガン州空軍予備役のマイロ・ラドゥロヴィッチ中尉が、「父親と妹が共産主義者だという内部告発があった」というだけの理由で、空軍からの除隊勧告を受けたことに対し異議を申し立てる。さらに次々とマッカーシー上院議員を批判する材料を取り上げる一同に対し、新聞記事もその姿勢に賛否両論を示す。政府やスポンサー、視聴率の問題など、経営者側は政治的・時事的な番組制作に懸念を持つが、番組は1954年のマッカーシー上院議員に対する議会の譴責決議採択の引き金となった。最後は再び1958年に場面が戻る。後々まで語り継がれる有名なスピーチを、マローはテレビを配線と真空管の詰まった箱にしてはいけないと結び、グッドナイト&グッドラック、でスピーチを終える。

  映画を鑑賞した時に購入した「Good Night,and Good Luck」のパンフレットには「言葉の力で権力に挑んだニュースキャスター、エド・マロ―の熱き戦いを描く真実の物語」「放送の指名を信じ、ジャーナリストとしての良心を貫いた男」の見出しで次のように書かれています。「誰が支持率50%を超える政治家に真っ向から異を唱える危険を進んで冒せるだろうか?1950年代、アメリカ-東西冷戦の緊張が高まり、国民は確固たる根拠もない疑惑で共産主義者を告発する“赤狩り”の恐怖に怯えていた。その先頭に立ち、共産主義者の見えざる恐怖を掲げるマッカーシー上院議員を批判することは反逆罪にも問われかねない行為だ。マッカーシーの力は大統領さえ止めることができないほど強いといわれ、マスメディアも報復を恐れて見てみぬふりをしていた。全米が委縮するなかジャーナリストとしての良心を貫き、マッカーシーの暴挙に敢然と立ち向かったニュースキャスターがエド・マロ―だ。彼は“放送ジャーナリズムの父”“アメリカを変えた男”として、今もアメリカ人の心に生き続けている。」

 この映画でマッカーシー上院議員が自分の意をそぐわない者を攻撃していた時代は1954年でした。1954年3月9日、4月6日の出来事が出てきます。エドワード・R・マローとそのスタッフたちが作り上げた番組は「1954年のマッカーシー上院議員に対する議会の譴責決議採択の引き金となった。」(前記)とされます。1954年は私が生まれた年でもあります。その年にこのような米国での権力とメディアの闘いが展開されていたことを映画鑑賞して初めて知りました。2006年当時、教育に新聞を生かすNIEにおよそ25年取り組み、2005年に設立された日本NIE学会の常任理事に就任し、テレビやインターネットなどのメディアにも関心をもっていた時期ですから、特にこの映画に注目をしました。
 その後、映画を小説化したノベライゼーション東理夫氏著『グッドナイト&グッドラック』(ハヤカワ文庫、2006年。)を読みました。


 さらに、エド・マロ―とはどのようなニュースキャスターなのかもっと知りたいという気持ちで、エドワード・R・マロ―の生涯を綴った田草川弘氏著『ニュースキャスター エド・マロ―が報道した現代史』(中公新書、1991年。)を読みました。

 田草川弘氏は本書の「あとがき」で「アメリカからすべてを学んだはずの日本のテレビは最も肝心なものを学びそこねたのではないだろうか。手法や技術にばかり目を奪われて、その奥にあるもっと内なるもの、アメリカの放送ジャーナリズムに秘められているクロンカイト以前の巨人エド・マロ―の伝統に注目することを怠ったのではないか。」と書かれています。クロンカイトはアメリカのジャーナリストです。1991年段階での日本のテレビへの提言でした。
 最近ほとんど映画はアマゾンプライムで観るのですが、この映画を2023年2月にもう一度、アマゾンプライムにある有料のスターチャンネルで鑑賞しました。それは、2010年代から現在まで日本の新聞やテレビなどのメディアがその時々の政権に対して的確な批判ができていたのかという疑問があったからです。自由民主党の政権であっても民主党(当時)の政権であってもどの政権でも権力への批判はメディアの最も重要な役割です。それで、あの映画をもう一度観てみようという気持ちになったのです。
 全く偶然なことですが、「グッドナイト&グッドラック」の映画をスターチャンネルで再び観た数日後の2023年3月2日に立憲民主党の小西洋之議員が国会内で次のような記者会見を開きました。


「立憲民主党の小西洋之参院議員が2日、国会内で記者会見し、放送法の政治的公平性をめぐる解釈などについて、安倍政権下で首相官邸側と総務省側でやりとりした内容を示す政府の内部文書とされる資料を公表した。2014年から15年にかけ、当時の官邸幹部らが安倍晋三首相から聞き取ったとされる発言や、高市早苗総務相、礒崎陽輔首相補佐官らの発言とされる内容が記載されている。」

(「朝日新聞」2023年3月3日朝刊より)

 その後、総務省大臣松本剛明は7日午前に次のような会見を開きました。
「松本剛明総務相は7日午前の閣議後会見で、安倍政権下で放送法の政治的公平性について首相官邸側と総務省側とのやりとりを記した内部文書とされる資料について、すべて同省の行政文書だと認めた。記載された内容については、一部に正確性が確認できないものがあるなどとして、引き続き精査するとした。文書は立憲民主党の小西洋之参院議員が2日、総務省の職員から提供されたとして公表。A4で計約80枚に及ぶ。」(「朝日新聞」2023年3月7日夕刊より)この文書は次のページで読むことができます。 https://www.asahicom.jp/pdf/bunho_20230307.pdf
 今回問題にされているのは、放送法4条で放送事業者は番組編集に当たり政治的に公平であることが求められており、政治的公平とは政治的な問題を取り扱う放送番組の編集に当たっては、不偏不党の立場から特定の政治的見解に偏ることなく、放送番組全体としてバランスのとれたものであること。その判断にあたっては、一つの番組ではなく、放送事業者の番組全体を見て判断することとしています。現在でもこの放送法4条は施行されています。
 公開された文書によると2014年から15年にかけて、礒崎陽輔首相補佐官(当時参議院議員、現在非議員)は番組全体ではなく、一つの番組でも政治的公平かどうかで判断すべきだと主張していました。一つの番組で判断され放送免許が停止されることは放送局にとって無言の圧力になります。TBSの「サンデーモーニング」、テレビ朝日の「報道ステーション」が批判の対象になっていました。放送法4条は現在もそのままですが、放送局にとっては引き続き無言の圧力になっていることでしょう。テレビにニュースなどの報道番組が少なくなり娯楽番組が多いように感じます。今回の総務省の内部文書の噴出によりメディアの復権を期待します。
 また、この文書で指摘されている高市早苗氏(経済安全保障大臣、当時の総務大臣)が自分に関する箇所は捏造であり、捏造でなければ大臣も国会議員もやめると国会で述べています。3月11日から13日にかけて行われた共同通信の世論調査では、高市氏の一連の「(行政文書が)不正確で捏造」という説明に対し、「納得できない」という回答が73%に達しました。
この公開された文書の背景を新聞やテレビなどのメディアがどこまで追求できるのか見守っていきたい意向です。
 世界報道重要度ランキング(国境なき記者団が2002年より毎年1回発表している指数)で2022年日本は71位で、先進国と言われる国では最下位です。日本には報道の自由が欠けているという評価です。次のホームページを参照して下さい。
 https://ecodb.net/ranking/pfi.html
 
 このような日本の報道状況に対して、既存のマスメディではなくネットでの情報発信に期待していることもあります。例えばYouTubeでの発信です。中身は玉石混交ですが自分で判断して選択して情報を得ることができます。いくつかチャンネル登録をしていますが、今回の公開された公文書の背景について、ジャーナリストで元朝日新聞記者の鮫島浩氏が発信している   「SAMEJIMA TIMES」の構成は大変参考になりました。関心がある方はご覧になって下さい。
 https://www.youtube.com/watch?v=ojtHQ6QTfag&t=1s


「SAMEJIMA TIMES」より


「SAMEJIMA TIMES」より

 鮫島浩氏は元朝日新聞政治部記者です。最近の著書『朝日新聞政治部』(講談社、2022年)では「池上コラム掲載拒否」「吉田調書問題」「慰安婦記事取り消し」「政治部出身の経営陣はどこで何を間違えたのか?」の視点から「崩壊する大新聞の中枢」を内部告発したノンフィクションです。


 新聞の購読率は大きく低下し、テレビの視聴率も大きく低下しています。ネットの影響力が高まる中で、今後新聞やテレビなどのメディアの復興はあるのでしょうか。
 
 今回のエッセーを出稿したころには、総務省の問題は十分に解明されていません。2014年から15年の8年から9年前の出来事ですが真実はどこにあるのでしょうか。古代の出来事は謎でいっぱいですが、現代の出来事も謎でいっぱいなのです。どこに真実があるかいろいろな角度から考察する力を身に付けていきたいと改めて感じました。

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