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運転の資質(後編)
【前回までのあらすじ】
反応はいつもに増して良くなかったが、
前編でやめるのもアレなので書くことにした。
と言っても、大して面白い話でもない。
単純に運転の資質に欠けた者が、自身の運命に
抗って『自動車』の運転免許を取得するまでの
涙なしでは語れない感動のストーリーになれば
いいな…という気持ちで書こうと思う。
私が20歳の時、とある職人をやっていた。
事務所から現場まで、車での移動も多く、
いつも私の先輩にあたるTが運転していた。
下っ端の私が助手席に座っていることが
気に入らないのか、毎日嫌味を言っていた。
そんな日々が耐えられなくなり、ついに大金を
費やして教習所に通うことにした。免許を取ったからといって生活が変わるわけではないと思うが、このクソみたいな先輩Tがいる会社を辞め、
転職する時に有利になるのではないかと考えた。
教習が始まる一番最初に『運転適正検査』という名の心理テストみたいなものをやらされた。
結果がすぐに発表されるわけではなく、合否があるわけでもないらしいが、何となく試されるのは気持ちが良いものではない。
言うまでもないかもしれないが、私はレース系のゲームも苦手だ。家庭用ゲーム機でコントーラーで操作するやつも、ゲームセンターとかにあるアクセル踏んだり、ハンドル回したりするやつも全部ダメだ。そんな私が車を運転する日がくるなんて思いもしなかった。
実はその昔、中学生だったか、高校生だったかの頃、友達の家でハマった車の免許を取得する系のゲームがあった。どんなゲームだったかはほとんど覚えていないが、割とリアルに近い感じの
シミュレーションが行えたような記憶がある。
ちゃんと『学科試験』もあり、実際に出題される交通ルール的な問題もあった気がする。
さて、そのアドバンテージが生かせたかというと、全く生かせなかったが、雰囲気は近しい感じだったので、初めてなのに少し懐かしい感じがした。『学科教習』はとにかく眠かった。
内容はほとんど頭に入っていない。
唯一覚えている交通ルールはこれくらいだ。
ついに『実技教習』が始まったが、思いの外、
センスがないながらにも、教官の言いなりでそれなりの運転をする事ができた。と言っても、各教習で一つずつミッションをこなしていくだけなので、大したことはしていない。問題は今まで学んだことが本当に習得できているのかを総合的に判断される『仮免試験』だ。
3人1組くらいのグループで、試験官が助手席、
残りの2人が後部座席に座って、教習所内をグルグルしながら、チェックポイントを巡る感じの
スタンプラリーのような形式の試験だった。
個人的には悪くない走行で合格間違いなしだと
慢心した刹那、事件は起こった。
『次を右に左折して』
え?間違いなく『右』に『左折』しろという
矛盾した指令が下った。これは試されている。
さすが『仮免試験』だ。あくまで『仮』であっても、そう簡単に『免許』を取得させてはくれないということか。数秒という短い時間しかなかったが、私は脳みそをフル回転して考えた。
『右』に『左折』なるほど…
『直進』だ!!!
こうして私は怒られた。そして不合格となった。
正解は左折だったらしい。『右に』とハッキリ口にしていたが、それを認めさせることはできなかった。私が半沢直樹なら、その場で土下座させるまで問い詰めるところだが、同乗者2人も味方をしてくれなかった為、折れるしかなかった。
完全に教習所に行く気が失せた私に、
追い討ちをかけるように災難が降りかかった。
私にも非があったのかもしれないが、例のクソみたいな先輩Tから毎日のようにパワハラ(物理攻撃含む)をされ、ついに耐えられなくなり、会社をバックれた。(逃げるは恥だが八手の得)
そしてその夜、信用していた先輩Nに騙され、
クソみたいな先輩Tを引き連れ、私の住んでいた
アパートを襲撃するという割とヘビーな事案が
発生した。顔の原型をとどめないレベルにボッコボコにされて、夜逃げするように引っ越したのだが、それはまた別のお話。
しかし都合が悪かったのが、教習所を紹介してくれたのが、信用していた先輩Nであった為、ここに通っている以上、いつまた襲撃されるかわからないということだった。そこで私は、神奈川にある同系列の教習所への転籍?をすることにした。転籍は『仮免試験』に合格することが必須条件だった。
何やかんやあって、しばらく通っていなかったので、運転スキルが著しく低下している心配があったが、低下するほどのスキルは元からなかったので、2回目の『仮免試験』は特に理不尽な何かを
試されることもなく、無事に合格した。
こっそりと神奈川の教習所に転籍することに
成功した私は、クソ先輩Tや裏切り先輩Nからの
襲撃に怯えながらも、1秒でも早く『本免許』を
取得できるように、短期集中でカリキュラムを
組み直した。ここでさらなる試練が私を待ち構えていた。
教習の一番最初にやらされた『運転適正検査』
これの結果についての『学科教習』があった。
この項目が空欄の人は、こういうことに気をつけて運転した方がいいよ…的な内容だったが、
最後に教官が冗談のようにこう言い放った。
空欄の項目が3つある人は
100万人に1人の運転不適正です
私は返された自分の適正検査結果を見直した。
ん?んん??空欄の項目が4つあるやん…
教習が終わり、さりげなく教官に聞いてみた。
「空欄の項目が4つある場合は…?」
1000万人に1人の運転不適正ですね
あ、そうですか。対戦ありがとうございました。
…とはならなかった。お前は運転の才能が皆無なんだから、他の人よりも1000万倍注意して運転しなきゃダメだよ的な話らしい。
『仮免許』を取得してからは『路上教習』をすることになるが、ここでも私のセンスというか
性格上の欠陥を問われる事案が発生した。
だが、これに限っては私は悪くないと自覚している。何故ならば、『法定速度』をちゃんと守っているのに怒られる意味がわからないからだ。
超えたら違反になるから、抑えているのに、
流れに乗れていないからダメってなんだよ。
『流れ』ってなんだよ。完全に『森内』だよ。
幾多の困難を乗り越え、あとは『卒業試験』を
残すのみとなった。これに合格すれば、最寄りの免許センターで『本免学科試験』を受けるだけだ。『卒業試験』では、普段の『路上教習』で
何回も走った横浜の街並みを懐かしく感じながら、確実に確実に教官の指示通りの走行をして、
無事教習所に帰ってきた。泣いても笑っても、
最後の難関、『縦列駐車』で試験は終わる。
私はシートベルトを外し、後方を見ながら、
ハンドルを回し、ゆっくり、ゆっくりと
車を車庫に入れ、『アクセル』を踏み込んだ。
え?『ブレーキ』じゃなくて?
ブォーン!!!という音と共に危うく、前後の車に衝突しそうになったが、ギリギリで止めることができた。とは言え、完全にやらかした。
最後の最後で大きなミスを犯したので、
今回の合格は諦めていたが、なんか奇跡的に
合格にしてもらえた。仮免の時とは違い、
とても親切な教官だった。
免許センターでの『本免学科試験』
交通ルールはほとんど覚えていないが、
文脈でだいたいわかるだろうから、合格点の
90点は余裕だろうと過信していた。
結果、まさかの89点…不合格。
信じられなかったが、こればかりは仕方ない。
今回は運が悪かっただけだと自分に言い聞かし、
翌日、2回目の『本免学科試験』に臨んだ。
結果、まさかの89点…不合格。
運が悪いことに翌日からゴールデンウイーク、
3回目の試験は連休明けとなってしまった。
もうここまでくると自信がなくなってしまう。
『2度あることは3度ある』という言葉があるが、
このままでは永遠に89点を取り続けるループから抜け出せない。さすがの私も勉強することにした。ここで覚えた知識は少しも残っていないが、
なんとか3回目で合格することができた。
やっとの思いで免許を取得した私だったが、
車を買うわけでも、仕事で使うわけでもなく、
1年以上が経過したある夜、友人Sが購入したばかりの新車の助手席に乗って、横浜の町をドライブしていた。『路上教習』でよく走っていた道だ。
慣れた道なんだから、運転してみろよとSは言った。当然、私は断ったが、あまりにもしつこく言ってくるので渋々、運転を代わることにした。
正直、どっちがアクセルで、どっちかブレーキなのかも怪しかったが、とりあえずエンジンをかけて走行を開始することはできた。5分くらい直進して、何回か左折や右折をした頃、Sが口を開いた。