指す順6th 自戦記(第4回戦)〜終盤編〜
〜序中盤編はこちら〜
ここからは心臓が弱い人と、終盤にうるさい人は
読まない方が無難だ。とても正常な精神状態で読むことができない内容になるだろう。
初めにこれだけは言っておきたい。
『私の終盤力はまるでシャボン玉だ』
意味がわからないかもしれないが、書いている
本人もよくわかっていないから問題ない。
〜そして混沌へ〜
【89手目〜90手目】
▲3七桂△2二角
悪夢の△5五角を回避するには、何かの駒で
『王手』を遮断するか、玉を逃げるしか道はないが、どこかのタイミングで相手玉を追い詰める助けになる可能性を考えて、桂馬を跳ねて角の睨みを遮断する道を選んだが、やはり勝利の鍵である
金を奪われてしまった。ここまでこちらの優勢を信じていたが、劣勢、もしくは敗勢くらいに転じたように感じていた。
ここでまず頭に浮かんだのは、さんざん練習対局に付き合ってもらった『地獄研』のことだった。
私がここで簡単に諦めてしまっては、申し訳が立たない。何か手を考えるしかないが、いつの間にか残り時間のアドバンテージがほとんどなくなっていた。
〜端玉には端歩ってよく言うよね〜
【91手目〜100手目】
▲1五歩△同歩▲1四歩△同銀▲3二金△5五角▲4三飛成△2三金▲6三龍△9九角成
自慢じゃないが、私は『端攻め』が下手だ。
攻めるのも、攻められるのも苦手だ。
有名な格言に『端玉には端歩』とあるが、
されて困ったことは何度もあるが、
して成功した試しはほとんど記憶にない。
しかしながら、他に有効そうな手がない。
同歩で取られて玉頭を歩で叩くまでは予定通り。
同銀で取られるのも読んではいた。が、そこからどうして良いのか、さっぱりわからない。
角取りに金を入ってみたが、そりゃ逃げるよね。
とりあえず王手しながら、銀取りを狙ってみた。
金で合駒されたので、銀を補充したが、角成りで香車を取り返されたところで、こちらも1分将棋になった。
〜時は金なり、銀は悪手ナリ〜
【101手目〜106手目】
▲2二銀△2二馬▲2二金
△2二玉▲6二龍△3二金
正直、短い時間の将棋はとても苦手だ。
15分あるのは心強いが、1分将棋になった瞬間、
私の棋力は著しく低下する。アンパンマンで例えるならば、顔が汚れた状態だ。この将棋にバタコさんが介入する余地はない。この状態で戦う以外に選択肢はないのだ。
戦意が喪失した訳ではないが、全く指す手が思い浮かばず、あわよくばの王手を選んでしまった。
龍で隣の桂馬を取る手も考えたが、何故か焦った。具体的に何を恐れていたのかわからないが、
相手玉に迫らなければ負けてしまう気がした。
王手に打った銀が馬で取られることは当然わかっている。3万回確認するまでもなく、馬が利いていることには気づいていた。それなのに打ってしまった。時間に追われていたとは言え、これは酷い。銀を取った馬を金で取り返し、これを守りの金で取ってくれれば話は早い。終局だ。
だが、玉で取る。知っていた。私は知っていた。
これは玉で取る一手だ。取らない手もあるのかもしれないが、きっと取るだろう。そしてまた芸のない王手。せめて少しだけでも期待を残して、
桂馬に当てたままの王手。逃げる手もありそうだったが、玉の腹に金を打って固めた。
〜王手は追う手だが、追えてもない〜
【107手目〜112手目】
▲5三歩成△4七龍▲6六角△3三香
▲4七金△6五歩
とにかく攻め駒を増やすことを考えた時、
5四で待機している歩が目についた。コイツが
間に合うのかは1分では読み切れないが、賭けるしかない。『5三のと金に負けなし』という格言があるが、割と負けている気がしなくもない。
と金を作った瞬間、龍をズバーン!!!とされてかなりビビった。一瞬、受けなしかと錯覚した。金で取るのはダメそうな予感がしていたが、よく見ると王手ではない。ならばこちらから!!!
と角を打った。
また打算のない時間稼ぎの王手だ。3九の地点を
守る意味もあったが、自玉がどの程度、危険なのか全くわかっていなかった。香車で合駒され、
持ち駒を使わせることはできたが、崩すべき守りを堅くしてしまった。と金を玉側に寄りたかったが、龍が利いている。ならばと思い切って龍を取ってみた。自玉が安全なのか読み切っていない。
というより、読もうとすらしていなかった。
ただの無謀な賭けだ。そして角が狙われた。
〜もはやただの心理戦〜
【113手目〜118手目】
▲4三と△3一金▲3二と△同金
▲5二飛△4二歩
もちろん角を逃げる手も考えた。ぶっこんで香車を取る手も考えた。逃げるにしても何処に逃げるべきなのか非常に悩ましい。ここで私が考えたのは何か?それは、何故この角は狙われたのか?ということだった。
仮説その1…後手玉を睨んでいるのが嫌
仮説その2…角の守りがなければ先手玉が寄る
仮説その3…特に意味はない嫌がらせ
私の読みは『仮説2』だったが、どちらにしろ
この角が取られる間に一手こちらが攻めることができると踏んで、賭けの『と金寄り』をかましてみたところ、守りの金が追加された。
これは賭けに勝ったか?とりあえず金をゲット。
だがしかしたかし、囲いは修復されてしまった。
自玉に迫る成銀に当てるように飛車を重ねた。
それに意味があるかと聞かれると、あまり自信はない。そして飛車筋を遮断された。
〜どんとしんくふぃーる〜
【119手目〜122手目】
▲3三角成△同金寄▲4五桂△3九角
もう何もわからない。ついに取られそうな角を
香取り王手にぶっ込んだ。正直、どの駒で取り返してくるのかさえ、考える余裕がなかった。
あまり読んでいなかったが、金寄りで取ってきた。その金を目掛けて自陣の桂馬を跳ねた。
玉の逃げ道を開けるという目的もあったが、
良し悪しは何とも言えない。逃げるかと思いきや、取られた角で自玉に王手をかけられた。
〜混沌から地獄へ〜
【123手目〜130手目】
▲3七玉△6六角成▲7三龍△4三銀
▲3三桂△同馬▲4五桂△4四馬
この角を取っていいものか悩んだが、
これは罠に決まっている!!!無料は恐い。
だいたいのうまい話には裏があるものだ。
私は何度も騙されたことがある。将棋でも、
仕事でも、私生活でも、何事も簡単に信じてはいけない…ということで逃げることにした。
できるだけ遠くに逃げてしまいたかった。
『入玉』できるくらいに…
とか思ってたら、角2号を引いて馬を作られた。
恐らく自玉に即詰みはない…ような雰囲気。
こちらは桂馬を補充してみたはいいが、イマイチ相手玉に迫れるビジョンが浮かばなかった。
龍筋を遮断しながら、飛車取りに△4三銀とされたが、△4八銀で王手されるのもマズかったかもしれない。ここで私は桂馬をダイブして金を取ったが、馬で取り返されたことでさらに囲いが堅くなってしまった。
何とか少しでも守備を弱めようと、馬取りに桂馬を打ったが、桂頭に逃げられ、完全に失敗した。
3手すら読めていない行き当たりばったりな手を
反省する暇もなく、またもやノープランの一着。
打った桂馬と玉のコビンをケアする香車打ち…と言ったら聞こえは良いが、この時、完全に忘れていたことがある。
〜飛車取られるよね〜
【131手目〜137手目】
▲4六香△5二銀▲3三金△同桂
▲同桂成△同馬▲4四桂
ヤケクソの王手。数が足りていないのは理解している。それでもやらなきゃいけない時が男にはあるのだ。どんどん戦力が削られていく。龍で馬を取りながら王手を続ける選択肢はあったが、金で取られた場合、それ以上の王手が続かないと判断し、馬筋を遮断しながら、『ふんどしの桂』を打ってみた。偉そうに書くことではないが、もちろんこれも明確な狙いがあったわけではない。
『たられば』なやつだ。
〜死のルート その1〜
【138手目から】即詰みがあったらしいよ
△2五桂▲同歩△2六金▲同玉△2五銀
▲1七玉 △1六銀 ▲同銀△同角成▲2八玉
△3八飛▲2九玉△2八銀打▲1八玉△2六桂
手数はかなり長いが、これで私は一度死んだことになる。本譜は以下のように進んだ。
【138手目〜146手目】
△4三銀▲3二桂成△同馬▲4三香成
△同歩▲4四歩△4一香▲7二龍△4四歩
桂頭に銀が上がってきたところを、金を取りながらの王手で迫った。上がってきた銀で取り返されるかと思っていたが、馬だったので香車を走り、銀を取った。これも馬で取ると予想したが、
歩で取り返された。どれもこれも行き当たりばったりの読みと応手で形勢判断も一切できていなかった。言い方は悪いが、私にとっては運任せの
終盤戦だった。闇雲に攻めても勝ちは遠ざかるだけだが、根拠のない受けで自滅するくらいなら、
攻め続ける手を選んだ。
香車を取った歩に持ち駒の歩を合わせた。
取られたら歩の裏から金駒を打って馬を攻撃する予定だった。もちろん手抜けば歩成りで勝ちに近づく。しかし、現実はそこまで甘くない。
下段に香車を設置した手は受けだけではなく、
こちらの玉を守る金に直射している。
迂闊に歩を成ることができない。
迷った末、龍を入って相手玉を守る馬を狙った。
それに対して何をしてくるかは読み切れていなかったが、香車の頭に何かを埋めて、龍筋を遮断する手も考えたが、ぶつかっている歩を取り込まれた。これはこちらに少し都合が良い気がした。
〜死のルート その2〜
【147手目〜148手目】
▲1一銀△3三玉
『起死回生の一発』のつもりで、『送りの手筋』っぽい意味ありげな銀を打った。明確な詰み筋が見えているわけではなかったが、これを玉で取れば龍で馬を取りながら迫ることができると考えていた。実際は取られたらこちらが負けだったらしいが、馬の頭に玉が逃げた。この瞬間に実は、
逃してしまった勝ちがあった。
【149手目から】即詰みがあったらしいよ
▲3二龍 △同玉 ▲2一角△3三玉▲4三金
△同香▲3二金△2三玉▲2二銀成△1三玉
▲1二角成
もちろん何一つ見えていなかった。龍を切る選択肢が何故か浮かばなかった。本譜は王手をかけて合駒をされて龍を入ったが、これは『詰めろ』になってない。(多分)しかも自玉はだいぶ前から『詰めろ』がかかっていたらしい。
【149手目〜152手目】
▲6三龍△4三桂▲5二龍△4五桂
この桂打ちに対して、どう応じても敗勢だったが、上に逃げる方が延命できたらしい。この時の私には、下に逃げる方が安全な気がしていた。
〜やっててよかった駒サプリ〜
【153手目〜156手目】
▲2八玉△2九飛▲2九玉△2七角成
下段に落ちた自玉を待っていたのは、さらに下段に落とそうとする飛車打ちだった。これは非常に危険な香りがプンプンする。かと言って、逃げる手はどれも『詰み』であることが私のポンコツな頭でも読み切れた。取るしかない。
そこで角を成って玉頭に馬を作られた。
これは教科書でよく見る詰み形の一歩手前だ。
珍しく私はこの手を読んでいた。というよりも、
この手しか読めなかった。もうこちらには受ける手が思いつかない。あとは相手玉が寄るのかどうかだが、敵陣を見て、真っ先に頭に浮かんだのは、駒サプリに登場する3匹の謎の生物だった。
こんな詰み筋が本当にあったのかは自信がないが、1ヶ月毎日700問以上やった実績はある。
相手玉の配置と、敵陣に配置されたこちらの龍と銀、持ち駒の飛車、金があれば、詰将棋にありそうな手で詰ませられる気がした。
【157手目〜159手まで】投了
▲3二龍△3二玉▲2二飛
結果としては、私の勝ちだったが、納得のいく
内容では決してなかったので、素直には喜べなかった。執念と運だけで拾った一勝ではあるが、この一勝はとてつもなく価値があると思っている。
私が勝てたのは連日、練習対局に付き合ってくれ、当日は対局中にTwitterのスペースで応援してくれた『地獄研』のみなさんのお陰だと思う。
その中で一部、過激な発言があったという噂を小耳に挟んだ。それについては申し訳ないという
気持ちもあるが、それだけの熱量で観戦、応援してくれる仲間ができたことが心から嬉しい。
ちなみに『地獄研』では『冷静パスタ』という
ワードが流行っているが、仲間の対局を観戦している時はあまり冷静でいられなくなることは仕方のないことかもしれない。そして、『その手があったかハイム』というワードもジワジワきているので、ぜひ使ってみてほしい。私の発案ではないけれど。