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S君と5円チョコ

将棋のネタばっかりで飽きたので、
全く関係ない昔の話を書こうと思う。

小学校4年生の頃、近所に仲の悪いS君という男の子がいた。色黒で、体格も大きく、いつも不衛生な身なりをしていて、他人から何かを指摘されるとすぐに暴れはじめる彼は、周りから嫌われていた。

運が悪い事に同じクラスになってしまい、
家が近所ということから、集団下校の班まで同じにさせられた。猛(たけしじゃない)抗議をしたが、担任の教師は聞く耳をもってはくれなかったが、毎日のように下校中にトラブルになり、同じ班のクラスメイトからもクレームが殺到した事により、班が分けられた。

『彼』か『彼以外か』
彼の班は、もうこれは集団下校ではない。
ただ、帰る方向がほぼ一致している為、
必然的に彼と遭遇してしまうのだ。
時間をいくらズラしても、
彼から逃れる事はできなかった。

彼は普段から非常識な行動が多く、
何の前触れもなく、私の自宅に突然現れて、
無言で家に上がり込んできたり、冷蔵庫を
勝手に開けて何かを食べようとしたり、
他人の物を堂々と盗もうとしたり、
何かあるとすぐに体液を飛ばしてきたりと、
『個性的』という言葉では片付けられない、
何とも扱いづらいクラスメイトだった。

そんなある日、クラスの遠足があった。
親からお小遣いを貰い、ウキウキとした気分で、友達とお菓子を買いに行った。
『300円以内』という制約の中、いかにコスパの高いラインナップにカスタマイズするかが私の課題だった。その当時は『コスパ』という言葉は知らなかったけど。

何軒も何軒も駄菓子屋をはしごして、
何時間もかけて吟味に吟味を重ねた。
門限になっても妥協を許さず、
ついに完成した『私の考えた最強のデッキ』
もちろん帰宅後、親にすごく怒られた。
翌日に作ってもらう予定のお弁当に
影響が出ないよう、とにかく謝った。

そして迎えた遠足当日、真夏というほどではないが、気温がかなり高かった事は覚えている。
目的地は忘れてしまったが、何処に行くのかはさほど大きな問題ではない。求めているのは
『非日常』なのである。

午前中に目的地に着き、ウォーミングアップを兼ねて、(本気モードは午後から)友達としばらく戯れた後、しばらくして昼食の時間になった。仲の良い友達同士で自然とグループになり、各々家から持参したお弁当を取り出す。
ワイワイしながら昼食を終えた後、ついにお待ちかねの時間がやってくる。

そう、『おやつタイム』である。
私が選抜チームの先鋒を発表しようとした
その時、思いもしなかった出来事が起こった。
担任教師に呼び出されたのである。
心配そうに見守る友達に聞こえないよう、
小さな声で担任教師が私に囁きかけてきた。

「悪いんだけど…S君にお弁当か、
お菓子を分けてあげてもらえない?」

「は???」

私は耳を疑った。

「S君、お母さんにお弁当とお菓子を買うように1000円札を渡されたらしいんだけど…」

1000円もあれば、弁当次第では予算以上のお菓子を買う事も可能じゃないか!!!

今思えば、S君の非常識さには家庭環境がかなり影響していたように思える。詳しい事情は知らないが、基本的に家に両親がおらず、毎日お金だけ渡されて、コンビニ弁当で食事を済ませていたことを後から聞かされた。そしてさら担任教師から衝撃の真実を告げられた。

「S君ね、その1000円で5円チョコを
買ったらしいの…」

5円チョコには消費税がかからないはず。
残り995円もあるじゃないか。

「全部…」

少し前に学校で習った割り算が役に立った。
200個…??も、あの5円チョコを…???
脳内が疑問符で埋め尽くされた。その直後、
理解した。いや、心の底から同情した。
いくら普段は仲が悪いとはいえ、
どういう理由があるにしろ、
その思考に陥った精神状態が不憫で仕方ない。

私は折れた。
弁当はすでに食べ終わっていたので、
選りすぐりの精鋭の中から
いくつかを彼に分けてあげる事にした。
代わりに彼は五円チョコをくれた。

全部溶けて、五円玉の原型をとどめていない
茶色い塊に変わり果てていた。

その直後に私は転校したので、
今はS君とのご縁はない。

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