マルチストリートのAKQゲーム(複数ストリートに渡るbetの機能)

※本記事の前半部分は、以下のGTO Wizard Blog内の動画で触れられているマルチストリートでのAKQゲームを筆者が日本語に噛み砕いたものになります。

(筆者のTombos21氏の記事はどれも内容が濃くて本質的で、ポーカーとは何かが詰まっていて最高なのでぜひご一読ください。)


まえがき

マルチストリートAKQゲームの前提として、単一ストリート(River)のAKQゲームを考える。
AQ側は

A:Q =1:α(=bet/pot+bet)

のバリューブラフ比でベットアクションを構成すると、

相手に押し付ける必要勝率(Pot Odds) = 相手のKのEQ

となり、相手のKをIDに追い込む事ができる。

では、これがマルチストリートのAKQゲームになるとどうだろうか?
つまり、このスポットがTurn(後ろにもう1つストリートがある場合)はどうなるだろうか?
リバーと同じバリューブラフ比=αでベットレンジが構成されている場合、このベットをKは受ける事ができるだろうか?


例題(マルチストリートAKQゲーム)

例えば、以下のようなcase1とcase2を考える。
どちらも
OOP:K
IP:A or Q

のケースを考える。(この場合、OOPのKはベットインセンティブ0であり常にxになる。同様に相手のbetに対してもraiseはなくcall/fold 👉️通常のAKQゲーム参照)

【Case1】
Street : River
Pot : 100
Eff. : 100
Actions :
OOP(K) x
IP(A or Q) bet 100
OOP(K) call/fold?

【Case2】
Street : Turn
Pot : 100
Eff. : 400
Actions :
OOP(K) x
IP(A or Q) bet 100
OOP(K) call/fold?

前提として、Case2においてターンでSPR4での100%pot というベットサイズはジオメトリック(2e)であり、リバーでのAIに相当するマルチストリートにおける最大ベット額である。

この時、
Case1での適正バリューブラフ比 
= α
= 100/100+100
=0.5

でCase2でのターンのbetも行われているとすると、OOP(K)はこのベットにどれくらいコールする事が適切か?

(ア)0%
(イ)Case1より低頻度
(ウ)50%(Case1のMDFと同じ)
(エ)Case1より高頻度
(オ)100%

― 下スクロールで答え ―











→答え:(ア)


※この問題(マルチストリートでのBetの構造)を理解するまでが元動画の内容です


MDFで守る事の問題点

結論として、Turnでは見かけ上のMDFで守る事はできない。なぜなら、後ろのストリート(River)で更なるベットに直面する可能性があるからである。

この現象を直感的に理解するには以下の2パターンで考えると分かりやすい

【説明1】
前提として、適切なバリューブラフ比でBetアクションを受けた場合のブラフキャッチャー(K)のEVは0である。

ターンでコールする場合、その時点では100を出すので、将来的に100返ってくる見込みがあってようやくID。つまりRiverでのEV=+100にならなければならない。

しかし、リバーでBetを受けるとEV=0となるので、リバーでbetを受けた瞬間この目論見は破綻してしまい、ターン時点でのEV(call) = -100 となってしまう。

つまり、ターンでリバーでのベットを考えずに、リバーと同じ頻度で守ってしまうという行為は、相手のQがリバー100%で諦めx(つまり、ブラフしてこない)を選択してショーダウン→pot獲得 という皮算用をしてしまっている事になる。

【説明2】
仮に、相手がTurnでブラフしたQ(Aの半分のコンボ)がRiverも止まらず全コンボ打ち続けるとした場合、K側はTurn → Riverの2ストリートで合計 1+3=4 のbetを受ける事になる。

AKQゲームにおいて、EQはStaticなので、これはつまり1のPotに4打たれている事になりα=4/5
実際にはCase1ではバリューブラフ比=1/2で打ってきており、全くブラフが足りていない(K側が必要勝率を満たさない)のでfold。

2つの説明どちらからも分かることとして、AQ側のQはTurnでブラフを多めにbetレンジに持ち込み、その一部をRiverで捨てる(諦めチェック)という事してくれないとK側はコールが割に合わない(IDにならずpure fold)。

では、実際にどれくらいブラフコンボが増えるとKはIDになるのだろうか?


Turnで追加で必要なブラフコンボ

Riverから逆算して考える。
また、後から%で考えやすいようにAを100コンボとする。
(単一のAKQゲームと同じく、Aは純粋戦略でbetなので全ストリートで100コンボ全て打つ)


Aに対しQをα(=1/2)の割合で打つ時、betレンジ全体の中でのQの割合は1/3になるので、K視点で見ると勝率1/3(33.3%)。
というシンプルなAKQゲームである。

前章までの話でいうと、これがTurnになるとRiver単体での50より多くのブラフ(Q)コンボが必要になるという話だった。
では、実際どれだけ多く必要になるかというと

このように、125コンボものブラフが必要になる。
これは、α=bet/pot+betのように公式でパッと求まる数字ではなく、以下のように考えると分かりやすい。

TurnのK視点で見て、

勝つ確率
=ブラフ(Q)キャッチに成功する確率
=「Turnで相手がブラフ(Q)」でかつ「そのブラフ(Q)がRiver諦めcheck」の確率

のため、Riverでのbetレンジ全体(100+50=150コンボ)に対してα=1/2分だけQがcheckしてくれてやっとEQ(K)=1/3(33.3%)となりPot100%Betが与えるPot Oddsに合うようになる(つまりID)

これは、構造的にはマトリョーシカ構造でαがかかっているような形になっている。

なので、Turn時点では
・Riverのブラフbetコンボ : 50
・Riverの諦めcheckQコンボ : 75
の合計125コンボものブラフコンボが必要になる。

【個人的感想】
こんなにブラフコンボ必要なんかい。
と、言う事は実質必要EQに換算してみたら相当K側のEQ削られてるのでは?


【考察】どれだけEQが削られているか

※ここから元動画範囲外

調子にのって、River -> Turn -> Flop -> PreFlopと遡ってマトリョーシカ構造を解いていき、4ストリートでのAKQゲームを考える。
結果は以下の表の通り。

【余談】
これを考えるうえで、PreFlopで33.3%のオッズを与えるアクションってなんぞやって事を考える事になり、丁度HUのSB(IP)3x openがこれにあたる(BB視点で上に2のriskで6のrewardなので)事に気づく。Poker is 美。

実質EQ(K)を33.3%に持っていくために、AQ側は前のストリートになればなるほど必死でブラフコンボを搭載しないといけなくなる。

PreFlopにおいては、あたかも
「後ろのストリートあるとはいえ、400コンボ以上もブラフ用意しております!お買い得にしてあります!なんとかコールお願いします!」
というAQ側の心の叫びが聞こえてきそうな勢いである。
後のストリートで捨てる分のQを豊富にbetレンジに搭載し、AQ側はマルチストリートの旅を開始する。

しかし、これは逆に言えばK側は(早いストリートでは)ここまでお安くしてもらわないとコールできないほどbetされると厳しい(EQを削られている)という事である。

ここで、逆転の発想でブラフコンボ割合から、betされた時のKの実質必要EQ(単一ストリート)を求めるとその結果は以下の表の通り。

例えば、Turnにおいてはbetレンジ100+125=225コンボ中の125コンボがQなので、

実質必要EQ(K)
=125/225
=22.2%


追加で必要なEQを見ていただければ分かる通り、バカほどEQが削られている事が判明。
特に、betが1回→2回以上の影響が大きい。

つまり、betにはEQを奪う効果があるが、特にマルチストリートでのbetはこれだけその影響が顕著だという事である。

Flopでの広いCBは基本的にこの原理に依存していそう。(※安くなりがちな件については別に良い記事がるのでそちらを紹介の上で考察します。)

【補足】
CB含め、ベット額に関してはナッツアドバンテージを考える必要があり(つまりAKQJゲームを考える必要があり)、これについても冒頭に紹介の記事内でTombos21氏が単一ストリートでのAKQJゲームについて、自作の可動式グラフを作って可視化してくれているのでこちらも引用します。
自分で

(グラフ引用)
IPのKJ側の選定サイズとレンジEVの関係
[t : 相手のxに残るナッツ(A)の割合]
→相手のレンジにナッツ0%(AKQJゲームのAが存在しない)時、 KQJゲーム(つまりノーマルなAKQゲーム)となる。


また、反対にCBを打たれた時に
「この相手はブラフ止まらずにマルチストリートで打ってきがちだから、Flopからキワいとこだけど降りとくかー」
という判断をすることがあるが、これはマルチストリートでのEQが追加で削られる効果を直感的に計算している行為と言える。

もっと言ってしまえば、そもそもPreFlopでOpenするという行為もこの目線で捉えると面白いかもしれない。


補足&注意

raiseも含めた、全てのbetアクションにはこの原理が働いている。
しかし、現実のNLHではAKQゲームと比べて以下の点で異なっている。
・EQがStaticではなくDynamic
・完全にPolar vs Bluff Catcherのレンジ関係になる事もない
なのでAKQゲームの前提をそのまま適応できないスポットも多い。

これは、そもそもToyGameを考える事全てに当てはまる。
言ってしまえばWizardや各種ソルバーで見られるあらゆるソリューションというのもベットサイズやレイズの回数など縮小したゲームスペース内の限定的な解を解き、そこから複雑すぎるゲームであるポーカーに役立つ原理を取り出そうとしているだけに過ぎないので注意。







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