[Preflop]あなたのハンドのEVはどこから来ているのか?②
前回の続き↓
本記事のゴール
・Preflopのオープンハンドそれぞれにおいて以下を明確にイメージできるようにする。
①どれだけのEVを持っているのか
②その内訳はどういった性質のEVから構成されているか
②はEVを扱っており、これは全てのエンドノードまで追わなくてはいけない関係上、EQと違い直感的にイメージできない。
そこで前回はRuseAIを使って各変数をいじり、それぞれのハンドのEV変化を見る事で、各ハンドが持つEVの構成要素をイメージしやすくする事を目指した。
※前回のおさらい
①オープンサイズ
②BBのルースさ
の2つを変数に取りIPのオープンハンドのEVがどう変化するかを調査した。

今回はこれに加え
③サイズ分割
④後ろに人がいる場合の話(8max)
についていじってみる事にする。
※変数をいじって各ハンドのEVやレンジ全体の戦略を見ていくが、それ自体が目的ではなく常に「人間の認知で捉えがたいEVの源泉というか原理自体を掴む」事が主目的である事を忘れないように気をつける。
出発点 (前回の振り返り)
・前回、自分のハンドだけを気にしてPreflopのアクションを決定するルースなBBに対し、オープンサイズを上げる事の有効性を確認した。
・しかし、相手がこちらのオープン額によらず固定戦略を取ってくる場合、各ハンドでそれぞれ都合の良いサイズに分割してオープンレイズ戦略を構築したいシチュエーションの方が現実問題として多いのでは? またその方がレンジ全体のEVも高いのでは?
・そのような複数サイズ分割戦略を取った場合、どういったハンドがどういったオープンサイズに割当てられるのだろうか? またその時のそれぞれのハンドが持つEVはどうなっているだろうか?
サイズ分割によるEV変化
と、いうわけで実際に[2x, 3x, 5x, 8x, 12x] と5種類のオープンサイズを用意し、それぞれのオープンサイズにおいて全く反応を変えないBBを設定。
相当頑固な人である。
※現実的にそんな人間はいないかと思いますが、あくまでオープンサイズを変数に取った時の戦略やEVの変化を見る事を目指し変数固定しています。
【設定 (前回と同じ)】
・solution : Ruse AI (Preflop) automatic
・rake : 10%2bb
・リンプ : なし
・eff : 100bb

※画像では、5x Openを受けた場合の反応を表示しているが、2x ~ 12xまで全サイズのOpenに対して反応を統一している。
※※また、BBの3betサイズについてはRuseAIのautomatic機能(ベットサイズを自動で最もEVの高いサイズに決定してくれる)に任せている。
【突然のQuiz】
では、このような設定にした場合のBTNのオープン戦略はどのようになるだろうか?(リンプなし)
①2x Open / Fold
②5x Open / Fold
③12x Open / Fold
④2x Open / 12x Open / Fold
⑤01game ライク(各ハンドのEQに応じてオープンサイズを分割して複数サイズのOpenレンジを作り、ナッツ群とトラッシュ群で各レンジを補う)
▶01gameについては以下の記事を参照
(下スクロールで答え)
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答え:④2x Open / 12x Open / Fold

【各レンジカラーの説明】
・濃ブルー:12x Open
・オレンジ:2x Open
・薄ブルー:Fold
パッキリ2つのサイズにOpenを分割したソリューションを提示してきた。
(第一感)
個人的にはなんとなく⑤01 game のようになるかと予想していたので意外だった。
しかし、改めて考えてみれば、そもそも01gameでは「ぼちぼち群をxで回して安くショーダウンし、バリューハンドをそのEQに応じてサイズ分割」という事をしているわけで、今回のブラインド「レイズ」を受けている状況とはxの選択肢が無い時点で大きく状況が異なる。
※今回はリンプなしの設定にしているが、リンプレンジを作ればまた違ったソリューションが出てくる気もする。しかし、こちらの検証はやや本筋と離れるので一旦棚上げとし、今回の設定でなぜこのようなソリューションとなったのかを考察した。
ここで、BTNのレンジ全体の中で2つのサイズ間でIDとなっているT9oのEVを覗いてみると

EV(Raise12) = EV(Raise2) = 0.65
と、2サイズ間でのEVが完全一致しており混合戦略になっている事が分かる。
これに対し、Kickerが一つ下のT8oでは

EV(Raise2) = 0.48でこれが他のどの選択肢よりEVが高いため、純粋戦略で2x openとなっている。
面白いのは、この間となるようなハンドが存在しない事である!
(もし5x openが最高EVを叩き出すようなハンドがあれば、そのハンドは5x openの純粋戦略となる)
しかし、これは当たり前の事なのだろうか?
2xでも12xでもなく、例えばEV(Raise5)が最大となるハンドがあっても良さそうなものではないだろか・・・?
T9oなど、「完全にEVが一緒なので2xも12xもどちらも混ぜて採用します。」という意味での「間」のハンドは存在しても、「2つのサイズの間のサイズがちょうど良く最大EVなので中間サイズを選択します。」という意味での「間」のハンドは存在しないのだ。
この結果にイマイチ納得感が得られなかったので、RuseAIのベットサイズ設定を ”固定” に変更し、他の条件は変えずに再度解析を敢行。(Ruse AIのベットサイズ 設定"オートマティック" が影響していると睨んでいた。)
しかし、結果として同様のソリューションが吐き出された!
また、「結局は各ハンドの持つEV次第なので、BB側の反応を色々と変えてみれば例えば5xのEVが最大となるような場合もありそうだ」という事で様々にBB側の反応を操作したが、ついに2サイズ分割の城は崩れなかった。
考察 (なぜこうなるのか?)
結論、このように2サイズ分割になる事が逆にポーカーにおけるベットの原理をよく示していると考えた。
どのような原理で2つのサイズに分割されるのか、考察してみる。
ここで、EV比較タブでそれぞれのハンドのEV(Raise12)とEV(Raise2)を比較してみるとこのような感じ。

緑が12xの方がEV+なハンド、赤が12xの方がEV-なハンド、中間色はその間のハンドである。
こうして見ると、ここでのBTNのEVの源泉(BB->BTNにEVが流れ出しているBB側のリーク)は主に2つからなっている事がわかる。
それは
【リーク①】
12xというバカデカいOpen( 550% raise[pot odds :45.8%] ) に対し、OOPでEQRが低いにも関わらず、ただでさえ素のEQが足りていない32o(EQ:29.5%)などのハンドでコールしてしまっている。
【リーク②】
3betが過小で、IPのマージナルなハンドに好き放題スチールの機会やEQの実現の機会を与えてしまっている。
の二つであり、BTNはそれぞれ
【ベット戦略①】
BBのコールレンジに十分EVがあるハンド群(BBのコールレンジより一回り狭いデカOpenレンジ)
→ 緑(12x Open)レンジ
【ベット戦略②】
3betが返ってくるとキツいが、BBの3bet頻度がヌルいため最小リスクでスチールEVを稼ぎにいけるマージナルなハンドによる2x Open
→ 赤レンジ
のOpen戦略により、BB側のリークを自分のEVに転換するシステムを敷いている事がわかる。
逆に言うと、BTN側にはこれ以外にbet(raise)のインセンティブは無い。であれば、そのどちらのEVが高いかで全て一方のアクションに寄せるべきである。
▶参照 Selfish EV, 純粋戦略と混合戦略について
むしろ、2つのサイズにしか分割されない事がpokerにおけるbet actionの機能が2つしかない事を強く推測させる。
この事実は、betの機能を
1. We bet or raise to make the pot bigger in case we win.
→将来獲得できそうなPotを大きくする事
(12xOpenでのpotメイク : コールされた後もこちらのEQが高いレンジ関係で、IPから大きなpotをプレイできる)
2. we bet or raise to deny our oppenet the ability to realize his equity.
→相手のEQを実現させない事
(2xOpenでのSteal : 相手は1.5bbのpotの少なくとも20%ほどの所有権を持っているが、それを放棄させる)
の2つと説明するオレンジ本の視点をシャープに表していると感じる。

この現象を別の角度で捉えてみる。
BTN側には、先に述べた
①高いEQで大きくPotメイクする事がEVの源泉のハンド
②小さいリスクでスチールを通す事がEVの源泉のハンド
の他に
そもそも0.5BB出しているところへの1BBのブラインドレイズ(50%raise)に抵抗するあらゆるアクションが-EVのためFold
のハンドも存在する。
この時、2x, 2x, Foldという3つのインセンティブは平面上のベクトルとしてモデル化できる。

(なので色の切り替わる点線上に落ちれば2つのアクション間でID)
3本の糸と結び目を想像すれば、どう引っ張り合っても糸は平面を形成する事がわかる。
この時、力が釣り合う真ん中の均衡点が
薄ブルーのエリアで釣り合う → Fold
濃ブルーのエリアで釣り合う → 12x
オレンジのエリアで釣り合う → 2x
という事が起きている。
ベクトルのちょうど中間の点線(fold↔2x Openや 2x Open↔12x Openの間でID)に均衡点が落ちる事はあっても、それら3ベクトルが構成する平面から別次元に均衡点が外れる(5xなど、他のアクションが選択される)事はない。
なぜなら、他の方向に引っ張る糸 ( 第4のインセンティブ ) がないからである。
※このモデル化は、仮説をもって仮説を説明しているので、厳密に言えば証明にはなっていない。
しかし、先に述べたように色々と変数をイジっても筆者の環境では反証例が出てこなかったので、「相手の戦略を固定化した場合betのインセンティブが2つしかない」という前提を一旦そういうものとして置いてしまった上で、どういう事が起きているかをイメージするのには役立つと思う。
この問題を更に深堀りするのであれば、逆に01gameではなぜサイズが分割されているのかを考えてみると面白そうである。
またその際には、今回の例と01gameとの相違点
・01gameでは各サイズにおける相手の反応が固定されていない
・RaiseとInitial Betの違い
・EQがDynamicかStaticかの違い(01gameは完全Static)
に着目すると良さそうである。
※おまけ -EQR-
EQタブを見てみると

例えば58.8%のEQを持つA7oがピュアで2xのレンジに組み込まれているのに対し、43.7%のEQしか持っていない75sがピュアで12xのレンジに組み込まれており、Robust EQが如何にEQをover realizeする(EQRが大きい)かがわかる。
※しかし、このover realize分はポストフロップでの膨れたpotでのBluff成功のノードから来るEVが前提となっており、純粋にFlushやStraightなどのメイドハンドからのみ来るわけではない。
なので、ポストでのBluffが有効でない(もしくは必要ない)相手にはこのEVを差し引いた上で多少レンジの重心をずらして考える必要がある。
実践で活かせそうな場面としては、均衡上AXsが弱Kickerまで全てオープンとなっているスポットにおいても、仮にそのEVが0付近なのであればBBをはじめとした後ろのプレイヤーテクスチャ次第でオープンを一考する事などが一例として挙げられる。
▶EQRについては以下を参照
後ろに人がいる場合
真空管での実験を終えて、いざ実際のライブキャッシュに近い8max 10% 2bb環境で色々と変数を変えて見てみようと思っていた。
しかし、思わぬ発見から前半で気力・体力・紙幅の全てを使い果たしてしまったので、このパートは次回分析していきたいと思う。