[Preflop] あなたのハンドのEVはどこから来ているのか? ①

今回のゴール

・Preflopのオープンハンドそれぞれにおいて以下を明確にイメージできるようにする。

①どれだけのEVを持っているのか
②その内訳はどういった性質のEVから構成されているか

特に、②については以下の三要素を理解することに集約される。
・レーキ/ポジション/オープンサイズなどの変数が変わった際のEV増減
・相手のプレイ傾向によるEVの増減
・特定のノード(3betされるなど)に入った時のEVの増減


まえおき

・ポーカーにおいてGTOの理解が学習の中心として重宝されている。しかし、ソルバーで求められる「正解」は互いのレンジが丸見えの状態でEVが最大になるように(既に設定されているベットサイズ毎のノードに対して)互いにアクション配分をし直し続けた収束先でしかない。

・EQというのは感覚的に計算・暗記ができる。一方で、EVというのは仮に単体のストリートであっても計算や直感的イメージをする事が困難である。ましてや、例えばプリフロップであれば後のストリートを重ねるほどノードがジオメトリックに増加していくので、容易に人間の認知を超えた複雑さに到達してしまう。

・なので人間はここで「boardカバレッジのため」「ナッツはトラップとしてコールに残す」など、人間的なストーリー立てをして理解するアプローチを好みがちである。ソルバーが気にしているのは兎にも角にもEVだが、人間はそれをEQやストーリーといった要素に置き換えてしか理解できない、というギャップこそが人間がGTO的な力学を学ぶ際の全般的問題であり、逆にこれを直観できれば均衡理解だけでなく均衡から外れるセンスが磨かれるのではないか。

・以下、ソルバーがそもそも何をやってるかの仕組みやEVの話についてのまとめ。(※とくにThe Three Laws of Indifferenceで取り上げられているSelfish EVの法則は興味深く、ともすればGTOは「全体の利益を最大化する」全体主義的なアプローチとしてイメージされがちなところ、実際は「個の利益を最大化しようとしていくと、勝手に全体のEVが最大化される」という個人主義のアルゴリズムである事が指摘されていて、ここは良く勘違いされているように思う。)

経済学の分野から出てきているゲーム理論が小さな政府的世界観を提示しているのは当然なのか皮肉なのか



オープンサイズによるEV変化

・はじめに、「ルースな卓なので、オープンサイズを上げたい」ような場面を想定し①オープンサイズ②BBのコールのルースさ を変数に取り比較する。

・設定は全て次の通り。

・solution : Ruse AI (Preflop) automatic
・rake : 10%2bb
・リンプ : なし
・eff : 100bb

・受けの想定レンジを変化させた時の変化を見たかったので、Ruse AIのノードロック機能を活用した。(そのため、SBがいないHU形式な事とBunching Effectの影響については注意。)

BTN open 3x against BB(GTO)                                                   BTN open 5x against BB(GTO)
BB(GTO) against BTN 3x open                                                   BB(GTO) against BTN 5x open

IPの3xオープン、5xオープンのEVは前者の写真のように、それぞれに対するBBの受けは後者のようになっている。レーキ10%のパワーは恐ろしく、5xに対してはcall頻度0で対抗する

(余談)
オープン側のEQチャートが上の方でカクっとなっているが、これは77を境にしてカクッとなっている。相手の全レンジに対し、77まではAKsなどのハイカードとどっこいのEQだが、88以上のポケットは全てのハイカードをまくり(⚠️相手レンジのハイカードへのEQが高くなるという事ではない)EQ上昇率が高い事がわかる。
ポストフロップでレンジ全体でドローが伸びているかどうかでbet/xを決める事があるが、その点でいうとPreflopでポケットをメイドハンド、残りをドローとみてFlopを捉えるのは原理的にわりと妥当そう

これをEVだけまとめるとこんな感じ。EVが相対的に高い順に緑→黄色→赤で表示。

EV(IP) open 3x against BB(GTO)

同じく、5xオープンのEVをまとめるとこんな感じ。

EV(IP) open 5x against BB(GTO)

その差分(3x -> 5xとした戦略変更した時の、各ハンドのEVの変化)を取るとこんな感じ。

【変化量】EV(IP) 3x->5x  against BB(GTO)

【結果】
・全体的にEV毀損する(レンジ全体で0.51bb->0.42bb)

・特に、ハイポケットやブロードウェイまわりなどもともとEVが高いハンドの削れ方が大きい。
→AAでさえEVマイナスになっているが、彼の段違いのEVの大部分がポットメイドされた時(特に3bet+のノードに突入した時)から来ている事が分かる。
→KKとAAで見るとKKの方がEV毀損が激しくなっているが、これは3bet+のノードのEVが複雑に絡んだ結果だと思われる。(例えば、5xに対するBB3betにAAはpure callをする。AAがワンペアでありながら他のポケットとは違いレンジが狭まってもそのEQが保持されるrobustな性質を持つ事が表れていると思う。)

・ポケットでEVが高いのはそもそも元のEVが大きいという理由もあるので、元の3x open 時のEVに対する変化率に直してみると結果は以下のような感じ。単純に5xオープンのEQに見合わない部分で特に毀損が大きい事がわかる。

【変化率】EV(IP) 3x->5x  against BB(GTO) 

※エラーが出ているところは元のEV=0で、0で割る式になってしまっているため
※変化率-1未満のハンドは色付けから除外(トラッシュ群でマイナス率が極端に大きく見づらいので)

・suitedとoff suitedに着目すると、相対的にsuitedの方がサイズを上げた時の毀損率が高い事がわかる。これは、Robust EQ寄りのハンドほど長いSPRで戦いたいという直感と一致する。


ルースなBBに対するEV変化

同じ要領で、BBの受けをルースパッシブに変更してみる。

【想定キャラクター】
額に応じて多少の弾性はあるものの、基本的には自分のハンド次第でアクションを決定し、かつBBを降りるのはもったいない気がする、というアメリカのカジノ(低レート)で遊ぶおじちゃん。

BB(loose) against BTN 3x open                                             BB(loose) against BTN 5x open
【変化量】EV(IP) open 3x   against GTO->Loose     【変化量】EV(IP) open 5x   against GTO->Loose                              

【結果】
・どちらのオープンサイズの場合でも、ポケットの強いところとブロードウェイ2枚などもともとEV高いところでEV毀損大
・5xの方が、3xよりは強いハンドのEV毀損がマシ
→先ほどと同じ、3bp+のそれぞれのノードでポットメイクされた時のEVが大きいが、BBの3bet頻度が下がっているのでそのノードに入る事が少なくなっている事が原因か。

・ハイカードsuited、AhiぼちぼちKicker、Thi/9hiのoff suitedなどがEV+
→3betが返ってくるとIDラインになる厳しめのハンド群が、BBの3bet率が大幅に下がった事で得している。

・残りの部分は、相手のコールレンジに対してそのオープン額に見合ったEQがあるハンドは+、無いハンドは- になっている。
→ -になっている部分はそもそもEV0以下で、オープン時点で開けないようなハンドなのであまり関係ない。
→ルースな相手にはオープンサイズを上げ、その額の相手のコンテニューレンジよりちょい広くらいのレンジ構築が◯という事が可視化

・Middle~LowのスーコネはややEV+。だが伸びは控えめ。
→スーコネは、スチールでもぼちぼち嬉しい、コールされて2bpでポットメイクされてもぼちぼち嬉しい、3bet返ってきてもまだ戦える、というバランス型悪く言えばどっちつかずなEV構成になっている(?)
→3betハンドの中でドミられにくいので4betを受けれる。というノードから来るEVが大きそう。ポーカー知らない人が見て直感でワクワクする見た目をしていながら、その実 均衡では渋いEVの稼ぎ方をしているといういぶし銀である。

・おまけ
”相手がルースパッシブと分かっている時に3x->5xとした時の各ハンドのEV変化量”

【変化量】EV(IP) 3x->5x  against BB(loose)


【変化率】EV(IP) 3x->5x  against BB(loose)

※変化率-1未満のハンドは色付けから除外(どうせオープンしないトラッシュ群でマイナス率が極端に大きかったので)

統合

最後に、先ほどのこの2つの表の差を取って変化量を見てみる。

これは、「相手がルースパッシブと分かっている時、それに対しオープンサイズ3x->5xに上げた時のEVの増減量」の差である。

(備考)
「オープンサイズ3x->5xと上げた場合に、相手がGTOであった場合とルースパッシブであった場合のEVの増減量」の差とも記述できるが、現実的な局面として前者の方が多いし、理解しやすいと考えたので前者で表現した。

ルースパッシブなBBに対して、3x->5xにオープンサイズ上げた時のEV変化量

相手looseでデカく開けると・・・
・つえーハンドは+
・キワいハンドは-
・ロバストEQの割合が高いハンドは+傾向だが、スーコネは曖昧なところ

という超あたり前の結果が可視化された。

【感想】
ライブキャッシュでの実戦では、今持っているバンドが
・スチールが通ると嬉しい
・コールされると嬉しい
・3bet返ってくると嬉しい
をざっくり考えているプレイヤーが多いかと思います。それはつまりそのハンドのEVの主要構成要素がどこかというのを感覚で測っている行為ですが、都度都度wizardでの EVと見比べて自分の相場感とのギャップを埋めていく反復練習が肝要だと感じました。

[ 例 UTG 3xオープン(8max 10% 2bb 100bb) ]
EV(QQ) = 0.38bbEV(AKs) = 1.03bb→どちらもスチールが通った方が(+1.5bb)「嬉しい」
※ただ実際は人間のプリフロでのev流出はひどく、ポストはその乖離が拡大していくので実収支についてはなんとも言えない

【備考:GTOの動的な部分に対する時の注意点】
プリフロレンジを丸暗記するように向き合うのではなく、色々と変数をいじって遊びながら相場感を掴んだ上で、実戦ではあくまでノリで戦略構築。相場感が手に馴染んでいた事で、その「ノリ」のセンスがだんだん良くなっていく。

くらいのおおらかさで臨むのが👍だと思っています。


今回の限界と、次回予告

・ポストフロップの EVの影響が大きいハンドに関しては、結局ノードの分岐と計算量の問題を解決できなかった
→3bet食らった場合とEV比較するなど、プリフロ内のノード比較はもう少し詰めれそう

・ノードロックを使いたかったので、RuseAIのHUでしかやりようがなかった。

・間にプレイヤーがいて3bet/横コールの危険性があると話がまた変わってくるので、8max ライブレーキ(10%bb)でオープンサイズとポジションを変えてオープンハンドのEVの源泉と構成を分析する。

・「完全に自分のハンドだけでアクションを決める人」に対するオープンレンジとサイズも考えたい
→オープンサイズを変数とし、各オープンサイズへのBBのコンテニューレンジを固定した時にオープン側どのような戦略構築をするか。それぞれのハンドがどのようにEV変化するかを分析。

いいなと思ったら応援しよう!