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ひとつのライトが世界中の人々の心を灯す。「CARRY THE SUN」の生みの親にお礼を言いたい!

■これ、誰にお礼言ったらいいですか


「明かり」は、その時々で私たちをいろいろな気持ちにしてくれる。
 
例えば……、
家族団らんの食卓を照らしてくれる白熱灯、
クリスマスシーズンに大通りの街路樹を彩る、数万個のLEDライト、
船での遭難中に遠くに小さく見えた灯台の光。

ホッとさせてくれたり、わくわくさせてくれたり。
身近すぎて忘れてしまいそうだけど、私たちの暮らしに欠かせないものだ。

山登りのようなアウトドアシーンでは、なおさら「明かり」のありがたみが増すのかもしれない。「#これ誰にお礼言ったらいいですか」プロジェクトで、東京都御岳山で開催した「迷子のお礼預かり所」カフェに、こんな投稿が寄せられた。

はて、「CARRY THE SUN(キャリー・ザ・サン)」とは??
 
ライトひとつに、ここまで「!」がいっぱい付いた熱狂的コメントが寄せられたことに興味を持ち、ネットで調べてみる。

ライトって、プラスチックやガラスでできている印象だったけれど、「CARRY THE SUN」は丈夫そうな生地でできた箱型のライト。
 
ヨットの帆に使われる特殊な生地で作られたというこのライトは、太陽光で充電でき、一度の充電で最大72時間点灯可能。3段階の明るさ調節と点滅機能を備えているそうだ。
 
さらに調べてみると、「CARRY THE SUN」は被災地や電気の通っていない地域にも寄付され、明かりのなかった場所で人々を照らす灯になっているとのこと。


……なんか、この子偉すぎない?

 
調査を進めるべく、「CARRY THE SUN」の開発元である株式会社ランドポートに電話してみると、開発したのは代表取締役、傳馬綾(でんま・あや)さんだと判明。
 
早速、お礼を直接お届けしたい旨をお伝えすると、副社長の川添さんからまもなく返信が。

傳馬さんたちは東京都の大手町タワーで定期的に開催されている「森の市」というイベントに出店予定とのこと。
 
我々は傳馬さんに直接お礼を届けるため、約束の時刻に「森の市」の会場へ向かった。


■「CARRY THE SUN」の生みの親、傳馬さんと対面

「森の市」が開催されていたのは、大手町タワーの敷地内、約3,600m²におよぶ「大手町の森」。
 
夕暮れの薄明かりの中、ぼんやりと光る提灯に鬱蒼と茂る木々。都会のど真ん中なのにまるで地元のお祭りのようなノスタルジックな雰囲気だ。

軒を連ねているお店に目をやると……「CARRY THE SUN」が置かれたブースを発見。
 
おそらく、お客さんと話し込んでいるのが傳馬さん。お客さんがブースを離れたタイミングを見計らって、声をかける。
 
「すいません、『#これ誰にお礼言ったらいいですか』の者ですが──」
 
少し戸惑いながらも、快く応対してくださる傳馬さん。初対面の傳馬さんは溌剌としていて、そこはかとない優しさと強さが滲み出ていた。傳馬さんから、どのようにして「CARRY THE SUN」が生まれたのか、あらためて興味が掻き立てられる。
  
早速、イベント会場の一角をお借りしてお話を伺った。


●阪神・淡路大震災で感じた「明かり」のチカラ

─ 「CARRY THE SUN」の開発のきっかけについて教えていただけますか?
傳馬さん:私は神戸の出身で、阪神・淡路大震災のときに実家が被災し、停電の中で生活をする経験をしました。そこで明かりの大切さを身に染みて感じたのです。ちなみに、明かりのない生活を経験したことはありますか? 

─えっ、ありません。
傳馬さん:真っ暗な状態が続くと、今まで感じたことのないような嫌な気分になるんです。お腹が空いているとか、寒いとか、そういう感情とはまったく別の恐怖を感じます。
 
そんなときに小さな明かりでもあると本当にホッとするんです。明かりって、ものを見るためだけのものではなくて、心を温かくするものなのだと、そのとき感じたんですよね。
 
でも「CARRY THE SUN」を開発したのはそのずっと後のこと。大学生のときに環境について勉強していたとかいろいろな理由があるけれど、このときの原体験が「CARRY THE SUN」の開発につながっているのは間違いありません。


●パソコン周辺機器の販売事業からの大転換

 ─「CARRY THE SUN」の開発前は、何をされていたんですか?
傳馬さん:もともとランドポートの創業には、そこまできちんとした理由・背景があったわけではないんです。バブルがはじけて、当時はたらいていた会社からお給料をもらうのも何か悪い気がして。何か自分で事業をはじめようかな、みたいな。
 
それでパソコンの周辺機器やソフトウェアの販売事業をはじめたら、一気に伸びました。当時(ランドポートの創業は1990年)はパソコンがちょうど普及し始めた黎明期だったのです。
 
でも、あの業界は新しく作ったものがすぐに古くなって、また新しいものを作るというサイクルの繰り返し。そうするとがんばって作ったものがゴミになって捨てなきゃいけなくなる。
 
なんか、「大量生産」「大量消費」みたいなことに、疲れてしまったんですよね。
 
正直、私自身あまりパソコンに詳しくないから、自分たちの会社で作った商品を使ったことがなかったし(笑)。
 
それで徐々に、もっと環境のことを考えたものづくりがしたい、人の心に寄り添った事業をしたいと思うようになったんですね。


●泊まり込みで「72時間」の検証を繰り返し

 ─なるほど。そこからどのように「CARRY THE SUN」の開発に至ったのですか?
傳馬さん:海外でさまざまな太陽光発電の技術を目の当たりにして、そこから少しずつ太陽光発電の商品を開発・販売していったんです。
 
太陽光発電のライトを作りたいという考えは元々自分の中にあって、そんなときにたまたまアメリカの大学で「折り畳めるライト」のワークショップをしているのを目にしたんです。
 
「ああ、こういうのを作りたい」って思って。そこから、試行錯誤の日々がはじまりました。
 
─どんなご苦労があったのでしょうか?
傳馬さん:「CARRY THE SUN」の生地は、ヨットの帆にも使われている生地を何層にも重ねて使っています。この生地を開発するのにも1年半くらいかかりましたね。
 
あとは明かりを三段階に調節する機能も苦労しました。実は強い明かりほど作りやすくて、弱い明かりはちらつきが出やすくて難しいのです。
 
でも、避難所ではお隣さんに迷惑をかけたくないから弱い明かりが重宝するという話を聞いて、明るければ良いというわけではないのだな、と。それで弱くてホッとできる明かりを作ろうと思ったんです。

─バッテリーも自社開発されたそうですね。
傳馬さん:はい。被災地や電気の通ってない地域にも持っていくから、そこですぐ壊れたり、長持ちしなかったりということは許されません。
 
極端な話、「72時間保たなかったよ」と言われたときに、謝れば済むお客様もいるかもしれません。でも、これを頼りに生きているような人たちに「ごめんなさい」なんて言っても取り返しがつきませんから。
 
72時間きちんと保つように品質を担保するため、実際に私が検証を行いました。そんな過酷な仕事、社員に任せられないから(笑)。
 
工場の近くに泊まり込んで、試作品を4個並べて1時間置きに起きてちゃんとライトが点いているかを確認。もし1個でも消えていたら、工場で作り直してまた72時間の検証。それを繰り返しました。


●自分の幸せをシェアする「Buy One Give One」

 ─そんなご苦労があったのですね。最初に「CARRY THE SUN」の構想を考えていたときは、ここまでいろいろな人に愛される商品になると思っていましたか?
傳馬さん:まさか、まったく(笑)。最初はお客様がどうやって利用してくださるかまでは全然イメージできていなくって、でもいざ販売してみると、アウトドアだったり、防災だったり、インテリアだったり。本当にいろいろな目的で利用いただきました。今では災害医療の現場でも使っていただいているんです。あと、何ならヒマラヤでも使っていただいています。
 
─えっ、ヒマラヤですか?
傳馬さん:はい。ある著名なアルピニストの方がヒマラヤのベースキャンプで使ってくださっているんです。
 
あとは「CARRY THE SUN」のことを夜中に起きた赤ちゃんにミルクをあげるときの授乳ライトと呼んでくださる方もいるし、夜中にトイレに行くときのトイレライトと呼んでくださる方もいます。
 
まぶしすぎない適度な明かりで、壊れる心配もなければ怪我をさせる心配もないから重宝しているようです。
 
─「CARRY THE SUN」が使われているシーンに共通するのは、なにかちょっと優しさや思いやりが必要な場面ですよね。
傳馬さん:そうかもしれないですね。私たちは「Buy One Give One」というプロジェクトで、自社サイトから「CARRY THE SUN」を1個購入いただくと、1個寄付をする取り組みをしています。
 
被災地や電気の通っていないところへ届けるのですが、今はお客様が支援先を選べるようになっています。継続的に届けているのはミャンマー、タイ、ベトナム、ルワンダ、南スーダン、モザンビーク、パキスタン、カンボジア。あと日本だと能登や福島県の双葉町にも、継続的に届けていますね。
 
─すごい、「CARRY THE SUN」を買うことが寄付に直結するのですね。
傳馬さん:支援先に届ける際には私も必ず現地へ行きます。直接届けて、それが現地でどのように役立ったか、きちんとお客様にお伝えするんですね。
 
そうすれば、「CARRY THE SUN」を自宅で見たときに「ああ、これがミャンマーの山奥でも使われているのだ」と思いを馳せられるじゃないですか。
 
私たちが目指しているのは“実感できる”寄付。そうするとお客様の心もホッとして、さらにまた良いことがしたくなる。
 
本当は寄付という言葉もあまり使いたくなくて、自分の幸せをシェアするイメージかな。


●「CARRY THE SUN」の明かりで、人の心が灯る

 ─ある意味やりがいを求めて、他の事業を辞めて「CARRY THE SUN」に集中することにしたわけですが、今の傳馬さんにとってのはたらきがいとは?
傳馬さん:うーん。私たちが明かりを届けたときに、喜んでくれる人がいたり、「ありがとう」を言ってくださる人がいたりすること。「CARRY THE SUN」を買ってくださったお客様が喜んでくれるのはもちろんありがたいです。
 
あとは寄付先の人たちが喜んでくれるのもやりがいになりますね。能登半島地震では1月5日のまだ停電中だったときに持っていきました。InstagramのDMから「実家が珠洲にあって、電気が通っていない」など連絡が来るんですね。
 
現地にお届けすると車中泊していた方が「車の電気はバッテリーが上がるから使えない。これがあって本当に良かった」などと言ってくださる。
 
そういうとき、やっぱり明かりって人の心まで明るく、温かくしてくれるものなのだな、と実感します。「CARRY THE SUN」の明かりが届くことで、人の心が灯ること。それが私のはたらきがいだし、生きがいですかね。
 
──傳馬さんのお話に引き込まれて、あっという間に過ぎていく時間。これ以上はお仕事の邪魔になってしまうため、泣く泣くインタビューを切り上げて、お礼のパネルをお渡し。
 
「『CARRY THE SUN』を開発してくれて、ありがとうございました!」

「いえいえ、本当に私がこのお礼を書いてくださった方にお礼を言いたいです」と応じる傳馬さん。一体、どこまで謙虚なんですか……。


■傳馬さんにお話を聞いて

世界各国を飛び回り、自らが開発したライトを届けて回る。自分の仕事に誇りを持って、人の役に立つことに喜びを感じる。正直、傳馬さんをスーパーウーマンだったり、聖人君主のように感じてしまう人もいるかもしれない。
 
でも、傳馬さんも最初からスーパーウーマンだったわけではない。起業をした当時から社会の役に立ちたいと考えていたわけでもなく、パソコンの周辺機器やソフトウェアの販売をしていた頃は、消費されていく感覚に悩んでもいた。
 
そんな傳馬さんに訪れたターニングポイント。それは理由もなく、阪神大震災の記憶、大学での講義、当時の仕事への悩み、自分の中の胸に秘めていた思いの断片がひとつになった日。
 
「はたらく」が変わる瞬間。それはもしかしたら、自分の思いを心の中に大切にしまっていた人だけに、突然何の前触れもなくやってくるものなのかもしれない。
 
ただ、それを自らの転機と捉えてからの傳馬さんの覚悟と行動力は目を見張るものがある。事業として収益をあげていたパソコンの周辺機器・ソフトウェアの事業をきっぱりと辞めて、「CARRY THE SUN」の品質向上のためには労を惜しまなかった。
 
もしも、はたらくことに悩んでいる人がいたら、今そこまで焦る必要はないのかもしれない。きっと悩んでいるというそのことが、新しい変化へのアンテナが立っているということ。あとはその時がやってきたら全力でアクセルを踏むだけだ。
 
最後に、お礼の投稿を寄せてくださった方、世界中の人々の心を灯し続けてくれている傳馬さんとランドポートのみなさんに、心からの感謝を込めて。ありがとうございました!

文:「#これ誰にお礼言ったらいいですか」プロジェクト事務局メンバー

「#これ誰にお礼言ったらいいですか」プロジェクトサイトはこちら


■「#これ誰にお礼言ったらいいですか展」 無事終了しました!

CARRY THE SUNのエピソードはじめ、約600人から集めたお礼とその先の本人のエピソードを集め、展示する「#これ誰にお礼言ったらいいですか展」を開催しました!
勤労感謝の日は、一年でいちばんいい仕事への光が当たる日になりますように。 
 
詳細はこちら▼ 
開催期間:2024年11月22日(金)~24(日) 
開催時間:11/22(金)12:00~19:00 
11/23(土)10:00~19:00 
11/24(日)10:00~17:00 
会場:MIL GALLERY JINGUMAE (ミルギャラリー神宮前) 
住所:東京都渋谷区神宮前4-25-28 Google Map 
アクセス:東京メトロ 明治神宮前駅 徒歩3分/表参道駅 徒歩7分 
JR 原宿駅 徒歩8分 
入場料:無料 
 
(終わり)