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傘を片手に検証!? 使いやすさを追求した「雨雲レーダー」の生みの親にお礼を伝えたい

■これ、誰にお礼言ったらいいですか

民間の宇宙旅行が可能になって、そこかしこでAIが一生懸命はたらいてくれる時代。これだけテクノロジーが進化しても未だに私たちにはどうすることもできないこと。
 
それが……「お天気」。
 
明日が運動会でも、大切な人とのデートでも、雨は降るときは降る。そして、どれだけ雨乞いをしても、降らないときは降らない。
 
変えられないにしても、せめて明日のお天気が知りたい! 「天気予報」は、そんな太古からの人類のニーズより生まれた、超ロングヒットコンテンツだ。
昔は占い師の予言や経験則に頼ることも多かった天候の予測も、現代ではテレビやインターネットなど、さまざまなメディアで、高精度な天気予報を見ることができる。


「#これ誰にお礼言ったらいいですか」プロジェクトに、そんな天気予報に関するお礼が寄せられた。

Yahoo!天気・災害の「雨雲レーダー」は、天気予報界のヒットコンテンツ。特定の場所の雨の状況をリアルタイムに知ることができる。
 
「今日の天気」という1日単位の天気予想の場合、降水確率◯%と書かれていても、雨が30分後に降っているのか止んでいるのはわからない。
 
しかし、雨雲レーダーであれば先々の自分がいる場所の天気がピンポイントにわかるため、細かな行動の参考にできるのだ。

この後の天気はどうかな……。

うわー、1時間後は雨だ!
という、具合。
 
近年頻発するゲリラ豪雨も、出先で少し雲行きが怪しいと思ったら雨雲レーダーを見て、どこか雨宿りできる場所を探すべきか、それとも雨が降るまでは時間があるから家まで急いで帰るかなど、判断することができる。
 
また、自分の現在地や、事前に設定しておいた地域に雨が降りそうな場合は、プッシュ通知でそれを知ることもできる。
 
天気をこと細かに予測することができる雨雲レーダー。その開発者はいったい、どんな人なんだろう……。
 
我々は早速、Yahoo!天気・災害の気象予報士さんにお礼を言うべく、千代田区紀尾井町のLINEヤフー株式会社を訪れた。


■Yahoo!天気・災害の「雨雲レーダー」の生みの親、田中さんと対面

©Adobe Stock

高層オフィスビルが建ち並ぶ、大都会 紀尾井町。目まぐるしく人と車が行き交う、その上にはビルの谷間から晴れ間がのぞく。せわしない街の様子とゆっくりと流れる雲のコントラストが、空の存在感を際立たせる。
 
Yahoo!天気・災害の気象予報士さんもこうしていつも空を見上げているんだろうか……。

受付を済ませて、通された会議室で待つこと数分。1人の男性がドアを開けて入ってきた。
 
「こんにちは、よろしくおねがいします」
 
チャーミングな笑顔でにこやかに挨拶をしてくださったこの男性が、Yahoo!天気・災害のサービス責任者であり気象予報士の田中真司さん。雨雲レーダー開発の中心人物だ。

親しみやすそうな雰囲気は、なんとなくニュース番組で見る気象予報士のイメージと合致する。
 
兄も気象予報士だという田中さんは、難関の気象予報士の資格を取得後、民間の気象会社、気象庁の外郭団体というキャリアを歩んできた。
 
ヤフーにも、天気事業を担うエキスパート人材として鳴り物入りで入社しただろうと思いきや、田中さんのヤフーへの入社理由は意外なものだった。


■本当は「天気」ではなくて「映画」を担当したかった?

田中さん:私は採用面接では、Yahoo!映画(現在は終了し、Yahoo!検索と統合)がやりたいと言っていたんです、実は。映画が好きだから(笑)。
 
そしたら、たまたまYahoo!天気・災害に配属されたんです。もちろん会社からすれば、天気の部門を担当してほしくて採用したところもあると思うのですが。

だから、私はたまたま気象予報士なだけであって、気象予報士でなくてはできない仕事はあまりないんです。
 
ただ、気象に関する知識はあるので、いただいた情報をどうすればわかりやすく伝えられるか、どういうことに注意しなければならないかはわかります。そこらへんは重宝されているかもしれませんね。


■業界初!雨雲レーダーはどうやって生まれた?

─ではYahoo!天気・災害の雨雲レーダーも、気象情報をユーザーにわかりやすく、役に立つ形で伝えようとした結果生まれたのですか?
田中さん:はい。実は雨雲レーダー自体は昔からテレビでも扱っていた情報でした。私が入社した2008年時点でもYahoo!天気・災害ですでに雨雲レーダーのコーナーはありました。ただ当時は都道府県単位で画像が1枚あるといったコンテンツ。ピンポイントで今自分がいる場所だったり数分後の天気だったりを知ることはできませんでした。
 
─そこからどのように今のようなピンポイントかつリアルタイムの雨雲の動きがわかるコンテンツを着想したのでしょうか。
田中さん:東京の人なら知っている人も多いですが『東京アメッシュ』という東京水道局が運営しているサイトがありまして、そのサイトでの雨雲レーダーは東京都をすごく拡大して見ることができて、雨が降ると非常にアクセスが多くなるサイトでした。
 
ただ、『東京アメッシュ』には東京の情報しかない。だから、全国版をやろうと考えたのが、きっかけでした。
 
そこからもっとピンポイントで全国どこでも好きな場所の情報を見られるようにするなど、さまざまな工夫と改良の結果行き着いたのが、今のYahoo!天気・災害の雨雲レーダーです。
 
気象会社の中や限られたところでは似たような形で雨雲レーダーがあったかもしれませんが、おそらく今のYahoo!天気・災害のような形で雨雲レーダーを提供したのは業界初ではないでしょうか。

─なぜYahoo!天気・災害は「業界初」を実現できたのでしょうか。
田中さん:画面をズームイン・ズームアウトするなどして、好きな場所の好きな時間の天気を知れるようにするには、技術的な難しさがあるんです。だからおそらく他社は、発想はあっても実現が難しかったのだと思います。
 
─LINEヤフー社の社内にはそれを実現できるだけの技術力があった、と?
田中さん:そうですね、一番大きかったのはYahoo!マップというサービスが社内にあり、さらに内部に地図のスペシャリストがいて地図上にデータを表示する最適な方法を熟知していたことだと思います。
 
実はたまたま当時のYahoo!マップの担当者と社内でばったり会ったんです。そのときに雨雲レーダーの全国版をYahoo!マップの技術を利用して実現したい、という話を持ちかけました。
 
─それで、相手は話に乗ってきたのですか?
田中さん:その場で「おもしろいね、じゃあやりましょうか」と(笑)。そこで社内におもしろがってくれる人がいたのは大きかったですね。


■使いやすさを追求するため、傘を片手に検証作業

─おお、まさに運命の出会い。開発にあたってこだわったのはどのような点ですか?
田中さん:ひたすら使い勝手の良さを追求しました。たとえばスマートフォンから利用するのであれば、必ず親指1本で操作できるようにしよう、と。なぜだかわかりますか?
 
─えっと……、なぜですか?
田中さん:雨の日は片手に傘を持っているからです。だから片手で操作できることは絶対だと考えていました。
 
─あ〜、なるほど!
田中さん:だからサービスを検証するときも、「ちょっと傘持ってやって」とエンジニアやデザイナーにお願いしていました。室内なのに(笑)。
 
2012年頃に今のような形で雨雲レーダーを提供するようになったのですが、それがちょうどスマートフォンの普及するタイミングでした。
 
外出中に自分の現在地を地図で見ながら、雨雲が見られるというスマートフォンならではの体験はこれまで世の中になかったものです。だからこそ、細かいところまでこだわりました。


■「使いやすい」を追求して進化を続ける雨雲レーダー

─リリース後の反響はいかがでしたか?
田中さん:リリース後に爆発的に伸びた、という感じではなかったですね。じわじわ、でした。
 
でも私たちには「これは絶対に使いやすい」という確信がありました。私たち自身も使っていて、本当に便利だったので。
 
外出中に雨雲レーダーでゲリラ豪雨が近づいてくるのを見て、ダッシュで家まで帰って。ドアを開けた瞬間に雨が降り出すと、「ドヤ」と(笑)。
 
だから、もっと使われるためにはどうすれば良いか、試行錯誤していった結果、多くの方に利用していただけるようになっていった感じですね。
 
機能も、1時間後までの予想だったのが6時間後まで見られるようになり、1kmメッシュだったのが250mメッシュまで細かく見られるようになり。さらに雨雲だけでなく台風や雷、風や雪などの動きもわかるようになりました。


■あまり褒められない?でも、世のため人のため

 ─今回は田中さんをはじめYahoo!天気・災害のみなさんにお礼を届けるために伺ったのですが、そういったユーザーの声はよく届くのでしょうか。
田中さん:天気予報は身近な情報で、誰もが利用するサービスです。だからこそ、いろいろな方から意見や感想をいただけるので、それはうれしいですね。
 
今回のようにお礼をいただくのは実は稀なので、余計にうれしいです(笑)。
 
ただ、雨雲レーダーは雨雲の動きを見て、自分で予測できるのも特長です。天気予報は100%当たるわけではありません。でも、雨雲レーダーでピンポイント・リアルタイムな情報を提供することで、ご自分でも判断いただく材料になるのではないかと思っています。

─このお仕事のやりがいはどんなところに感じますか?
田中さん:天気予想は誰もが自分ごととして捉えることができ、多くの人に利用いただくサービス。やっぱりそこはやりがいの1つではないかと思います。
 
また、Yahoo!天気・災害では、災害情報もお届けしていて、その部分では少しでも世のため人のためになれればという思いで取り組んでいます。
 
そのためには、まずは自分が納得できるサービスでなければいけない。いつか私がこの会社を去ったとしても、自分の作ったものを自分自身が頼りにできるサービスにしたいですね。
 
──インタビューを終え、「稀だ」というお礼のパネルをお渡しすることに。
 
「雨雲レーダーを提供してくださって、ありがとうございました!」

身近過ぎて、当たり前に感じてしまいがちな天気予報。
 
でも、その裏側にはそれを届けるためにこだわり抜いている人たちがいる。この努力を知れば、もっと田中さんたちのもとに感謝の声が届くかもしれない。
 
取材を終え、薄暗くなりはじめた空を見上げて「明日は晴れるかな」などと予想してみる。

……が、そんなことはわかるはずもない。
 
やっぱり、天気予報を全国の人々に届ける田中さんたちの仕事は尊い、と改めて感じるのだった。


■田中さんにお話を聞いて

田中さんたちの仕事のすごさは、利用者のことを考え抜いているところだ。
 
そして、それを会議室やディスプレイのなかの机上の空論として完結するのではなく、自分たち自身が利用者と同じ状況、同じ目線に立ち、徹底している。
 
エンジニアがオフィスの中で傘を指しながらスマートフォンで検証している姿。そこにYahoo!天気・災害の皆さんのこの仕事への誇りが垣間見える。
 
世の中にはクレーム産業と言われる業種がある。その中の少なくない業種が「標準品質の高さ」ゆえであることが少なくない。飲食店では無料でお茶が提供される。宅配便は絶対に時間指定通りに来る。そんな高品質なサービスに慣れてしまうと、逆にそれができなかったときにマイナスの評価をされるようになるのだ。
 
天気予報も同じような側面があるように感じる。「天気予想が外れた」というクレームが届くというお話があった(そもそも予報しているのは田中さんたちではないが)が、それも逆に言えば天気予報が高品質な情報を提供し続けた結果であり、利用者の天気予報への信頼の証だ。
 
「より多くの人に届けることがやりがい」と話す、田中さん。LINEヤフーに入社した当初は映画に携わりたかったからだと言うが、気象事業者から転職したのはYahoo! JAPANが「より多くの人に届ける」のに大きな可能性を秘めたメディアだったからだろう。
 
これからもYahoo!天気・災害が人々の暮らしに欠かせないインフラになるほどに、さまざまな声が届くようになる。きっと田中さんは称賛もクレームもすべてひっくるめて、次へ進む原動力にするのだろう。
 
最後に、田中さん、日々私たちにわかりやすく天気予報を届けてくれているYahoo!天気・災害の皆さん、そしてお礼の投稿者さん、本当にありがとうございました!



 
文:「#これ誰にお礼言ったらいいですか」プロジェクト事務局メンバー
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