世界の半分、サファヴィー朝の古都イスファハーン(中編)
イスファハーンで数々のペルシア建築に足を運び、壮麗なドーム型建築やアーチ型の回廊の下に佇んでいる時にふと思い出すのが、子供の頃によく通ったプラネタリウムの大きなドームのこと。プラネタリウムに映し出された星座たちを仰いで見とれているうちに、夜空に飛び込んでしまったような浮遊感に包まれて、たった30分ほどの番組が終わって立ち上がると、足がふらふらしてしまったりしたこととか。繊細なタイル細工が一面に施されたペルシア建築のドームはもちろん、プラネタリウムとは比べものにならない壮麗さなのだけれど、例えばシェイフロトフォッラーモスクの黄金色のアラベスク模様に覆われた美しいドームは、きらびやかな星たちで埋め尽くされて漆黒の夜なんて欠片も残っていない光り輝く天空のように思えてきます。
実は古代ペルシアの伝説でもドーム型をした天空が描かれていて、ペルシア建築特有のドーム型建築は実際に天空を象ったものです。ササン朝時代のペルシア建築に多数のドーム建築が残っているように、天球を象ったドーム建築はイスラム以前から古代ペルシアの建築文化の重要な要素のひとつ。ゾロアスター教の拝火神殿で用いられたドーム建築が、ペルシアがアラブの征服によってイスラム化した時代の後、今度はモスクのドーム建築に引き継がれたという歴史があります。
ヨーロッパの高くそびえる教会建築があたかも剣のように空に突き刺さっているような印象なのと反対に、ペルシアのドーム建築は優しく柔らかな弧を描いて丸い天空にそっと寄り添っているような印象があります。
鉄骨のなかった数千年前の時代からレンガや石だけでドーム型の丸天井やアーチ型の回廊をつくった建築技術はいったいどんなものだったんだろう?と気になるところだし、例えば500年ほど前に遡るイスファハーンのドーム建築も今もしっかりと揺らぐことなく当時のままの壮麗な姿を見せてくれることにも驚きです。レンガを微妙な角度に配置してドーム型やアーチ型に組み合わせていく構造自体からバランスと強度が生まれる、実に職人芸の歴史建築と言えるでしょう。
でもドーム建築は、単に天文学的な正確さでつくられた天球のひな形であるというだけでなく、神秘主義的な視点で天空を見上げるための空間でもあるのです。というのは、ペルシア古来のミトライズムでもイスラム以降のペルシア神秘主義でも、天空には七つの階層があると信じられていて、この七つの天空を上へと飛翔し続けて最高の高みへと至る修行の旅が、地上に生を受けた人間の精神的な成長にとって大事な務めだとされる文化があるからです。ペルシアの壮麗で美しいドーム建築に佇むとなぜか荘厳な気持ちになってしまうのは、きっとこの建築様式に秘められたこうした文化のためかもしれません。
ひとり静かにとめどもなく祈り、夜番の羊飼いの歌声のごとく響かせよ
七層の天のドームが聞き届け、そなたの耳元に囁いてくれるその時まで (ルーミー詩集)
古都イスファハーンで美しいドーム型のペルシア建築で佇んだら、七層の天空を思い浮かべて、そっと心のなかの願い事をささやいてみたらいいかもしれません。心のなかの祈りの声が白いハトのように、七層の天空を通って空の高みへと上っていく様を想像しつつ… (続く)
(Copyright Tomoko Shimoyama 2019)