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古都シーラーズで薔薇色に染まるモスク(前編)


今日はペルシアの古都シーラーズから。シーラーズというと聞いたことのない人でも、ワインの銘柄の「シラーズ」はきっとどこかで目にしたことがあるかもしれません。シラーズ(Shiraz)はワインの産地として有名だったシーラーズの葡萄を植えてつくったワインで、知る人ぞ知る手頃で美味しい銘柄ですね。40年前のイラン・イスラム革命でシーア派イスラム色が前面に出てくる前の王政イラン(当時の国名はペルシア)では、昔から伝統のあったシーラーズ産のワインが有名で、この古都の葡萄は今も所を変えて美味しいワインを生み出しているという訳です。

そんな訳でシーラーズは昔からワインの街としても知られてきた華麗な街です。ペルシア古典詩人の最高峰に数えられるハーフェズやサアディーを輩出したこの古都は、至るところにだいだいの花(オレンジに似ただいだいが咲かせる、ジャスミンに似た白く可憐な花)が咲き乱れ、ペルシアの花園を写し取ったようなカラフルなタイル細工の古典建築が点在し、町の人々は誰もがロマンチックで陽気な詩人といった風の、とても楽しげな雰囲気に溢れています。ペルシア語を解する人なら誰もが愛する神秘主義詩人ハーフェズはワインを歌う詩人としても有名で、彼が葡萄酒の杯を掲げてミステリアスに崇高に歌う神秘主義詩は、前にもご紹介したように、多くの人の心を打つハーフェズ占いでも親しまれています。

イスファハーンのイメージが、王の広場の一角にある大モスクの青いタイル細工や黄金色のアラベスク模様の丸天井なら、シーラーズのイメージは、色とりどりの花が咲き乱れたようなカラフルで華麗な宮殿やモスクかもしれません。

そんな中でひときわ存在感が際だっているのが、別名ピンク・モスクで知られるナスィーロル・モルク・モスク。明治時代とほぼ同時代のカージャール朝の王族が建てたこのモスクは、美しいデザインにカットされた色彩鮮やかなステンドグラスや、ピンク色や七色のタイル細工で有名です。とりわけ朝日の昇る時刻にこのモスクに佇むと、ステンドグラスを通して射し込む光線でモスク中がピンク色や七色の光に包まれ、この世のものとは思われない色とりどりの光の大洪水に目が眩んでしまうような空間です。それは、朝日を受けて早朝の祈りに佇んでいる人たちの姿もすっかり光の大洪水の中に溶けてしまう異次元の世界…

でも、そもそも全ての建築様式がその土地独特の気候に合わせたつくりになっているのと同じで、実はこのピンク・モスクのステンドグラスやタイル細工にも美しいだけでなく、とっても実用的な側面があるのです。シーラーズの人に言わせれば、ピンクを中心としたこの美しい色彩は色によるクーラー効果があって、色鮮やかなステンドグラスは蚊避けや蝿避けなのだとか(!)なるほど、そう聞いてみると、シーラーズの伝統家屋にも色鮮やかなステンドグラスが多用されているのも頷けます。

イラン南部の砂漠気候に属するシーラーズの夏はとても暑いことで有名ですが、シーラーズ出身の友人の思い出話では、その昔(たぶん革命前のこと)うちはクーラーがなかったから、ナスィーロル・モルクに涼みに来て勉強して礼拝もして帰ったものだった、とか。

旅先で早起きして、ペルシアのモスクに朝日が射して万華鏡のように七色に染まる様を見に行く旅なんて、とっても幻想的です。女性なら、モスクに置いてある白地に小花柄のチャドルを纏ってみたら、きっと全身に光の万華鏡が映った鏡みたいになれるかもしれません。

🌹ちなみに最後の写真はシーラーズ近郊のノマド(遊牧民)のカシュガーイーたちの女性です。(続く)

(Copyright Tomoko Shimoyama 2019)

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