世界最古のワインとビール
シーラーズのワインの話が出たところで、今日は世界最古のワインとビールについて。
今までに見つかった世界最古のワインの痕跡は、イランのウルミエで出土された7000年前のワイン造りの壺やグルジアで発見された8000年前のワイン製造場跡だそうです。また世界最古のビールについては、イラン西部のザグロス山脈にあるゴディン・テペ遺跡で5000年以上前にビール醸造に使った壺(写真)やビール造りを図解した素焼きレンガ(写真)などが見つかっています。
ウルミエやゴディン・テペの発掘については90年代の当時New York Times やNature などで取り上げられ、ワインやビールをめぐる考古学ロマンとして非常に話題を呼び、とうとうオランダで「ゴディン・テペ」というビールの銘柄が誕生してしまった経緯までも(!) 発掘で見つかったワインやビールづくりの壺は、壺にこびりついていた残留物の化学組成の検査を経て、カナダのロイヤルオンタリオ博物館などで展示されているそうです。
さて、グルジア(ジョージア)の世界最古のワイン製造場跡というのは、それまでの世界最古ワインのイラン説を覆す新たな発見として2017年に話題を呼んでいたもので、グルジアワインブームなども巻き起こしていましたよね。でも歴史的にみれば、現在のイランもグルジアも歴史を遡ると広大な古代ペルシア文化圏の一部だったし、現在の国境線が数千年前のこの地域に引かれていたはずもないので、イランが先かグルジアが先かというようなお国争いはまるで意味がない訳です。
ちなみにブドウという語は中世ペルシア語のバーダウから中国語を介して日本語に入った語だそうです。メソポタミアをはじめとして古代ペルシア文化圏に生まれた数々の文明で農業が発達し、様々な果樹や小麦・大麦などの栽培が営まれたことは考古学でも明らかになっていますが、ブドウがペルシア語だというのは、言語学的にも農業の歴史がペルシア文化圏に辿れる面白い事例のひとつです。
そんな訳で、ワインもビールも古代ペルシア文明が人類のために生み出してくれた美味しい賜物ということになるでしょうか。数千年前に苦労して葡萄園や大麦畑を耕し、素焼きの壺で世界最古のワインやビールをつくってくれた働き者の発明家たちに乾杯したいところです。「乾杯!」の代わりに、ペルシア語式に「健康を祈って!」で。
さて、何故「健康を祈って!」かというと、古来ペルシア文化ではワインやビールに健康に素晴らしい効能があることが伝えられているからで、四行詩人で天文学者だったハイヤームもワインの効能について名著を残しているほどです。
ワインはミトライズムやゾロアスター教をはじめとするペルシアの諸宗教で聖なる飲み物で、ハイヤームやハーフェズをはじめとするペルシア詩人がワインについて数多くの詩を歌い、ミニアチュールでも様々に描かれ、ペルシア絨毯でも葡萄のモチーフが多用されています。今も多くの家庭で自家製のワインを作っていることもこんな歴史があるからです。
ペルシア文学のなかのワインや、古来ペルシアで伝えられるワインの効能などについては、また今度。
🌹写真の黄金の器はワインを飲むリュトン
🌹写真の素焼きの壷は無地のものがイランのウルミエで見つかった7000年前のワイン壷、模様入りのものがイランのゴディン•テペで見つかった5000年以上前のビール壷
(Copyright Tomoko Shimoyama 2019)