【BL漫画感想&紹介】東京心中
分類でいうと『お仕事BL』になるのだろうか。
この漫画は…面白い。
冒頭からの語彙力を手放してしまった。
完
いや、伝える努力をしなくては。
とにかく登場人物が個性豊かで、彼らの会話、話の流れが面白い。
映像を見てる感じというか。
そして女性キャラがまたいい。
面白く、みんな…強い!
こちらの作品も前回紹介したIN THESE WORDS同様同人誌からの始まりだ。
手に取りやすい商業に来てくださり感謝。
2013年から始まり、2021年に11巻にてめでたく完結。(一応完結となっているが、まだふたりの話は続きそうなあとがきあり。喜)
ただし、最初の2冊が上下巻で、3冊目は2巻と表記されているので東京心中は全10巻だけど総冊数11巻。分かりづらいけれど、つまりこう。
1巻 東京心中・上
2巻 東京心中・下
3巻 愛してるって言わなきゃ殺す 東京心中2
4巻 君も人生を棒に振ってみないか? 東京心中3
5巻 アンタのドレイのママでイイ 東京心中4
6巻 生誕祭 東京心中5
7巻 はるのしんぞう 東京心中6
8巻 ブラックドッグノービスケッツ 東京心中7
9巻 いつだってそうだ正気でいられない 東京心中8
10巻 東京家族 東京心中9
11巻 寿 東京心中10
という具合。タイトルもスキ。表紙も素敵です。
とあるテレビ番組のスタッフ募集の面接から始まる冒頭。
茶髪ピアスばちばち指輪ゴロゴロでスーツの宮坂。
「バラエティ番組とか結構見たりするんだ」
「はい 一応好きです」
一応っっっ
海老反るあまり華麗なイナバウワー(懐)をかましつつ、0点の札を上げたくなる。
この時点でわたしにとって萌え要素ゼロ。もしくは氷点下。
私の中の小百合が白目で歌ってる。
私は帰りますぅー。
けれど、そんな宮坂に面接官は言う。
「君真面目でしょ?この仕事長く続けられるかなぁ」
うっそぉ!カワウッソォ!
対する氷点下宮坂。
「俺「真面目そう」って言われだの初めてっス」
正直。はぁん…さてはいい子だな?
とまあ、岩手弁で答えるこんなシーンが冒頭。
だが、この面接官何気に的を得ていて、一体なにを基準に人間みてるのかなと不思議であるが、どんどんやめるから適当に言ってる説が濃厚?
でもね、そう。人は見た目じゃない。
とはいえ、この時点で宮坂にこれといった熱意もなく、面接だってなんとなく受けた感じ。
そうしてADの面接に晴れて受かった宮坂に待っていたのは地獄のような現場と下働きの過酷さだった。
配置されたのはバラエティ制作部。
一応スーツで初出社をした宮坂に唐突に片栗粉を溶かした巨大水槽で沈まないよう走ってみせろと指示を出す先輩ディレクターの矢野。
ひどい。
けど、ちょっとならやってみたい。
混乱のまま仕事を終えた宮坂に、次からはもっと動ける格好で来いと言い捨てる矢野。
ひどい。新入りには優しく!
初日から不安しかないまま社畜な毎日は無情に進んでいく。
見た目は小柄で乙女な矢野(宮坂も初見で女性と勘違いするほど)だが、悪態暴力酒飲み煙草スパスパで中身はかなりのオッサン。
宮坂はその横暴さに当然のように慄き苦手意識を持つこととなる。(正しい)
そんな見た目と中身ジキルとハイドな鬼ディレクターの下、怒涛の数日を送った宮坂はある日、ロケ先で他のスタッフを乗せたバスを見送ったあと、タバコを燻らせながらひとり海を眺め、自らの職業選択に疑問を抱く。
(なんやかんやで宮坂、現場で頑張ってるのよ…っ)
ああ、忙しい時ってこんな風になる瞬間あるよね。
不憫。
温かい豚汁でも炊き出してあげたくなる。
そこに不意に現れた矢野と、仕事を離れた場所での初めての会話を交わす。
タバコの火があるかと矢野に尋ねられた宮坂はライターを取り出すが、緊張のあまり手が滑って海にさらわれてしまう。
慌てる宮坂の咥えたタバコに顔を寄せ貰い火をする矢野。
その仕草に宮坂がぼそりとつぶやく。
この時の破顔した矢野にはっと見入る宮坂(とわたし)。
ここからなんだかこの人に褒められたい、と仕事への見方が徐々に変化し始める。
この矢野の言葉にも宮坂は悩みを深める。
映像の仕事にのめり込んでいる矢野(映画がとにかく大好き)に対し、これまでのやり取りや仕事への姿勢に嘘はないが、軽い気持ちでなんとなくこの世界へ足を踏み入れたことから湧き上がってくる罪悪感。
(面接を受けたのも彼女が見つけてきた求人広告を見せたことがきっかけ…そう、最初宮坂には彼女がいるのです)
うーん、宮坂真面目でいい子やないか…そして単純やないか…。
何かに打ち込むことの楽しさ、やりがいに気づいていく宮坂。
しっかりとした体と(大事)
真面目さ(大事)
気配りできて(貴重)
よく動き(貴重)
腰が低く(貴重)
天性の優しさ(最高)
を兼ね備えており、わたしの中で好感度が急上昇。
出逢った頃はー
こんな日がー
来るとは思わずにいたー
とにかく読み進めていくうちどっぷりと内容にハマってしまう。
みんながいいっ、人々が愛おしい、抱きしめたいっ。
宮坂の家の周囲をうろついている野良黒猫の矢野さん(仮)や先輩ADのユカさんなど彼を取り巻く登場人?物のキャラがぴちぴちキラキラ生きてる。ほんとこれ。
宮坂だってただのいい子なワンコではない。
途中矢野を思うあまりブラック宮坂が誕生したり、矢野不足でクール宮坂になったり、三日風呂に入れず異臭を漂わせたり、ヒゲボーボーになったり(髭が生えない矢野はここに憧れとコンプレックスがある)人間こうして生きてるんだって感じ。
宮坂は岩手出身(矢野さんは大阪)で、すぐ標準語に馴染んでいくものの特に前半は岩手弁がよく登場する。特に興奮したらこんな風だ。
矢野になに言うてんのかさっぱり分からんと言われていたが、わたしも岩手弁に触れたことがなかったので、まぁ分からん。
が、ニュアンスはわかるし十分である。
気持ちが大事。
矢野の転勤で物理的に距離がきたり、矢野チームと別チームで映像を競って撮影したり、矢野の元を離れ、想像を絶する過酷な出向先(普段連絡なんか全く必要としない矢野が必ずメールでもなんでもいいから連絡を入れろと宮坂に言ったほどのブラックな現場)へユカと共に赴くことになったり…試練は次々起こるものの、コミカルで軽快なストーリー展開が読み手を掴んで離さない。
業界事情も分かって楽しいし。
人間、こうやっていきているんだ!
徐々に明らかになっていくが、宮坂はこれまで温かみのある関係(家族的な意味で)にあまり縁のなかった子だ。
なにかに情熱を捧げることもなく、さらに器用貧乏な感じだったから、なんとなくで何とかなっていた感じ。
いいように使われてきた部分もあるし、それでもいいと感じていた。
それが、矢野との出会いでぐいっと引き上げられていく。
パンパーンと両頬張られて目が覚めていく。
本人の世界の中心はあくまで矢野なのだが、そこから波紋のように宮坂の世界も可能性も広がっていくのだ。
エロもあります。ちゃんとBがLしてるんですけど、その枠だけに収めるには勿体無い作品だなーって思う。
そうだ、これはヒューマンドラマ。であり、コメディであり、成長記であり、ロマンスであり、ファミリーヒストリー。
若草物語であり、ザ・マジックアワーであり、きっとうまくいくであり…プロフェッショナル仕事の流儀っ(全然違うし、もう訳がわからん)
ともかく。楽しい話が読みたい、内容のしっかり詰まった漫画が読みたい、ラブももちろん欲しいって時にはぜひ手に取ってみてほしい。
仕事をなさってる方はそこでもささる部分はあるとも思う。
読んだ後、元気が湧いてくるお話。後悔はしないと思います!