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僕が英語とマグロを好きになるまでの話
■プロローグ〜What one likes, one will do well.(好きこそものの上手なれ)〜
恥ずかしい話です。
僕は中高生のとき「得意科目は?」と問われれば即答で「英語」だと答えていました。明確な目的も持たずに、大学も英文学科を専攻しました。井の中の蛙状態に気づき打ちのめされながらも、無事に卒業できたのです。
しかし、英語を話せません。海外に行ったこともありません。仕事で英語が使えなくても怒られません。(話せるのなら当然重宝されます)
なぜ、英語(を勉強すること)が得意だと錯覚していたのか、今でもときどき、ふと考えることがあります。
ルーツは2つあるように思うのです。
ひとつ、幼児の頃から中学校を卒業するまで英会話スクールに通っていたこと。ふたつ、中学の恩師の存在です。
今回は、英語教師のお話です。
■A good beginning makes a good ending?(始めが肝心?)
あなたは初めて受けた英語の授業を覚えていますか。
おそらく「ABCDEFG〜♪」というリズムでアルファベットを覚える歌を歌うことが始まりだったのではないでしょうか。
僕も同じです。
しかし、そこからは地獄の始まりでした。
僕らはそのあと、「発音」を叩き込まれます。英語を発する「口」を作ることに集中することが永遠に続くのです。いわゆるカタカナ発音ではなく、ネイティブの発音を徹底する訓練です。管楽器でいうところのアンブシュアの矯正に似ているでしょうか。
「A」の発音が「ə(ア)、éi(エイ)、ǽ(アとエの中間音)」であることを区別し、ひたすら教師の後に続いて発音を繰り返すのです。(確か、26字全てにおいてやらされました。)
そしてそして、なんとその先生は教科書の1ページ目に入るまでにこの発音の練習を繰り返すだけの授業で中学1年生の1学期いっぱいを使い切ったのです。
本当です。
さらに、筆記はブロック体ではなく筆記体を推奨。(テストも原則は筆記体を使わないといけないという半ば強制的に覚えさせられました。)卒業する頃には筆記体をほぼマスターし、高校、大学ではノートをさも当然のごとく筆記体で取るのですが、周囲を見渡しても誰一人として筆記体を使う生徒、学生はいません。
自分は一体何をやらされていたのだろう、と。
そんな先生が、夏休みにこんな宿題を出してきたのです。
■Practice makes perfect.(習うより慣れろ)
「以下の英語で書かれたことわざを和訳せよ」
確か、ことわざのリストは20個くらいでした。
「俺らはABCの歌を歌うことしかできないんだぞ!!!!!!?」
どうやら先生は辞書の使い方を教えたかったようです。Spare the rod and spoil the child.(鞭を惜しめば子供はだめになる=可愛い子には旅をさせよ)とはよく言ったものですが、もっと惜しめよ!可愛い生徒たちに!
しかし、この課題が僕に英語の面白さを教えることになろうとは思いもよらなかったのです。
it is easier to do something than worry about it.(案ずるより産むが易し)
早速、英和辞典を引きます。(その頃、まだまだ一家に一台PCが普及しているような時代ではありませんでした。伝家の宝刀「ググる」が使えないのです。)
辞典には「用例」というものがあるじゃないですか。
用例には、ことわざが紹介されている場合があることに賢い中学生だった僕は気がつきました。
そこで、ことわざのキーワードとなりそうな単語を片っ端から引いていきます。結果は惨敗。20個中5〜6個くらいしか用例として紹介されていませんでした。
中学生の僕は詰みました、完全に。
残された手段は一つしかありません。本来の正攻法です。
和訳すること。しかし、そこには大きな壁が。
英語でも日本語と同じことを言っているとは限らない!
例えば、
(例題)Speech is silver, silence is golden.(雄弁は銀、沈黙は金)
のように、ストレートに日本語表現と同じ意味で作られている言い回しは簡単です。しかし、
(例題)A bad workman always blames his tools.(弘法筆を選ばず)
のように、直訳「下手な職人はいつも道具のせいにする」から意味を推測する必要がある問題は中学生の僕らには大人の力が必要でした。しかし、辞典という剣を手に、僕は解くことを諦めなかったのです。
いくつか覚えている宿題の問題の中から例を挙げてみます。それぞれ日本語のことわざに変換してみてください。「ググる」前にトライしてみてください。
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1、It is no use crying over spilt milk.(こぼれたミルクを嘆いても無駄)
ミルクじゃなくても良い感があります。
2、Too many cooks spoil the broth.(料理人が多すぎるとスープがダメになる)
むしろ、安易な闇鍋に対する警鐘を鳴らしているように思えてなりません。
3、When in Rome, do as the Romans do.(ローマではローマ人のするようにせよ)
ローマといえば、All the roads lead to Rome.という言い回しもありますね。
4、Birds of a feather flock together.(同じ羽色の鳥は一箇所に集まる)
マンガ好きの周りにはマンガ好きが集まるものです。
5、Pudding rather than praise.(称賛よりもプディング)
あちらの国ではプリンが定番のようです。
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先生はあの夏、僕らに文化の違いを通して英語という言語のみならず表現力の奥深さを教えてくれていたのかもしれません。
この難題に対していつの間にか火がついてしまった僕は何種類もの辞典にあたり、言葉の魅力に取り憑かれていました。
大人になってから読んだ『舟を編む』に痛く感動したのもこの原体験の影響かもしれません。
きっと僕はこの時、英語(を学ぶこと)が好きになったのです。
たかが宿題、されど宿題。何かに本気で挑戦した者にこそ変化が訪れるのです。
Every man is his own worst enemy.(だれにとっても最大の敵は自分自身だ)
■エピローグ〜I love tuna.(わたしはマグロが大好きです。)〜
そして、2学期に入り僕らはようやく教科書を開くのです。
大人になった今でも、初めて目にしたこの一文が忘れられません。
I love tuna.(わたしはマグロが大好きです。)