ここからは補習です
【妄想劇場~~~もっと、教えてよ②】
学校から自転車をこいで20分、
駅からすぐの商店街で、アーケード口の八百屋と言ったらうちの事だ。
活気だけはある父の声は、この商店街の名物になっているらしく、家に着いた私をみつけるやいなや、
「朱音!、二丁目のルマンドまで配達ヨロシク!!!」
と、用事を言いつけてくる。
私は頼まれるのがいやで、毎度裏口から入り2階へと音を立てずに向かおうとするが、360度目がついているであろう父はすぐにみつけて私を使いっ走りにしていた。
「今、忙しいからムリゲー」
気だるく返すが階段脇にはすでにダンボールが置いてあり、メロンやパイナップル、滅多にお目にかかれないマンゴーがひとつひとつ丁寧にネットに覆われてふわりと甘い香りが漂っていた。
部屋へ戻り無視を決め込むが、先程のフルーツが頭をよぎる。
制服から着慣れたパーカーにゆったりデニムを履き毎日同じような服に身を包み、正直かわいい格好なんて似合わないから結局これが最強と思ってる。
「配達行ったら1000円ね!!!」
『店のことなんだから文句言わずに行ってこい。』
ダンボールの口をとめ、入らない原付のカゴ上へ載せてヒモでカゴへくくった。
大通りから路地裏へと原チャを走らせると夕暮れの乾いた風が気持ちよかった。
となり町に着く頃、店先の看板に明かりがつき始めた。
ルマンドには小さい頃父の車に載せられついてきたことがあるけど、久しぶりにこの辺も通るな、、、。
昔出入りしていた記憶を頼りに、肩巾ほどの脇道をダンボールを抱えカニ歩きをしながら店の裏へとたどり着いた。
コンコンコン
「八百屋の青木でーす。フルーツの配達に来ましたー。」
『開いてるから持ってきてくれる〜』
ママらしき女性の声がする方へ、ダンボールをぶつけないよう気をつけながらカウンターの上へと荷物を置いた。
すでに店内は薄暗く、テーブル席のほかにいち段高くなっているステージがある。
小さい頃はスナックへ配達と聞くと、キレイなお姉さんがいるお店なのだと、幼ごころにわくわくして夜の繁華街への憧れを抱いていた。
『ご苦労さま。お嬢さんが来てくれたのね。
今日は早くからお客さん見えたから手が離せなくて』
「あ、はい!いつもありがとうございます。」
慌ててヘルメットをはずした。
ママらしき人が何やら慌ただしく飲み物の準備をしていた。
そこに裏口から宅配の人の声が聞こえてきた。ママはグラスをそこへ置き裏へと行ってしまった。
奥にはお客さんが2人座っていて、そのうちの手前の席の横には大きな黒いケースが置かれていた。
ママが戻るまで、何かしなくてはと周りを見渡し冷蔵庫の上にある保温機からおしぼりをふたつ取り出してはみたものの、やはりママが来るまで待とうと、カウンターのお酒を眺めながらお客さんの様子を伺っていた。
手前に座っていた人が、黒くて大きな荷物をゆっくりと床に横たわらせ、
膝をついて蝶番をはずしながら、向かいの席で一方的に話す男の話に相づちをうっている
少し間を置いて、ゆっくりとそれを開いた。
そこには真っ赤なベルベットの裏地に包まれた、赤茶の木目模様にツヤのある丸いフォルムのギターが見えた。
向かいの男が
『特別な日には特別なのを奏でるんだな』
手前の人は何も言わず、それを片手で持ちあげ、すっと立ち上がるとこちらの視線に気づきこちらを見た。
そこにはサラリとなびく黒髪に、幅の狭いメガネ男が、目を丸くして、一瞬目を細めて私へ焦点を合わせた。
『朱音、さん、?』
急に我に返り、慌ててごまかそうとするがこうゆう時に何もでてこない。
「なんでこんな所にサスケがいるの」
責めてるのではなく、
大人の世界だと思っていたこの場所にいることが、ふしだらだと思ってしまった。
サスケはこうゆう所に、、、
来ない人だと思ってた。
『朱音さん、何か誤解しているみたいなのでちゃんと聞いて欲しいのですが。』
『まず、こんな所、ではありません。』
『わたしはここで演奏をしています。
わたしのもうひとつの場所なんです。』
『朱音さんはどうしてここへ』
「手伝い、、、。」
首にかかったヘルメットに手をかける私の姿も、
八百屋の娘だってのもサスケには知られたくない。
『朱音さん、ここでわたしに会ったことを秘密にして欲しいのですが。』
よく分からないことが多すぎて、そのあとどうやってうちに戻ったのか覚えていない。
ただ、サスケがギターをやってることもあの店にいたことも、秘密にして欲しいといった意味も、私が子どもだからわからないのかな、って思ってた。
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