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その夜、私は恐らくマコーレーカルキンになった

「ちょっと、友達と飲みに行ってこようかな〜。」

先週の土曜日のことだ。時計は19時前を指していた。

恋人はずっと生まれた街に住み続けている。小中学生の頃から仲の良い同級生達もまた、そのような人が多いらしい。

気持ちは痛いほど分かる。だってこの街住みやすいもの。出る必要なんて無い。私がこの街に生まれたとしても、家族との関係が拗れない限り出ることはないと思う。

そんな恋人の親友たち。『類は友を呼ぶ』という言葉は嘘ではないようで、恋人と同じくお酒好きな人が多い。飲み出すとお開きは深夜だったり、朝だったり。

「帰ってくるのは朝になりそうかな?」

「遅くなるのも嫌だし、なるべく早く帰ってくるよ。」

なるべく、、、ね。

アテにならない言葉だけれども、自分の心の満ち足りなさを恋人で埋めるのも良くないし、なにより彼の楽しみを私の存在で狭めてはいけないと思い、行ってきな!と背中を押した。

「そんな寂しそうな顔してるけど、俺が居なくなったらベッドで飛び跳ねちゃったりするんでしょ?」

そんなわけないじゃない。私はホームアローンのマコーレーカルキンじゃないんだから。もうアラサーの女なのよ。

7つの年の差がある私たち。恋人は私のことを未だに子供扱いしてくるのだ。
それが嬉しくもあり、悲しくもあり、時には憎くもある。

そんな冗談を交わしながら、私は恋人の背中を見送った。




さて、これから何をしよう。

お昼が遅かったせいかお腹もさほど空いていない。

日中、久しぶりにショッピングモールに行って心身共に疲れ果てたのでアウトプットをする余裕もない。

でも、一人の時にしか出来ないことを何かしらしたい。

とりあえず久しぶりにゆっくりお風呂にでも浸かってみよう。

思い立つや否や、バスタブを洗いそこにお湯を溜めはじめた。待っている間に入浴剤を選ぶ。今日は女である自分をたっぷりと労わる日にしたい。
私はお湯を乙女なピンクに変えるローズの入浴剤をチョイスした。

iPhoneとストレートのアイスティーをお風呂の中に持ち込む用意をして、長風呂への気合を入れる。

お湯が溜まったらそこへ入浴剤を投入。
ドボン!という音を立てながらお湯の中へゆらゆらと落ちていく入浴剤。

シュワシュワと泡が立ち、ローズの香りがほんわかと温かい湯気と共に香り立つ。

先ほど準備したiPhoneとアイスティーを持ち込みお風呂へ入った。

いつもよりゆっくりとシャンプーをし、モコモコと生クリームのような泡を立て身体も洗った。

お風呂中に漂うローズと石鹸たちの香りにうっとりしながら湯船に浸かる。

最近寒くなってきたので身体の芯までじわっと温まる感じがとても心地いい。
ピンクのお湯に浸かりながら、最近のマイブームであるタロット占いの動画を見る。

結果に感情を揺さぶられながら、ふと見た足元。禿げかけのペディキュアが目に入る。
明日塗ろう、明日塗ろうと思いつつずっと放置してた。
塗るなら今日しかない!

長風呂を終えた私は、意を決してグレーのネイルを手に取りゆっくりと丁寧に足の爪を装飾した。

うん。秋っぽくていい感じだ。

ツンとしたネイルポリッシュの匂いが部屋中を包むことに耐えきれなくなって、大きな窓を開けた。

秋の夜風がゆっくりと部屋の中に入ってくる。
熱った身体が冷たい夜風に包まれて、とても心地いい。

続きが気になっていた本をそっと手に取り、夜風を受けながら読んだ。

あれ、一人で何しよう?なんて迷っていたけれど意外と私、一人を楽しめてるじゃない。
ベッドの上で飛び跳ねたりはしないけれど、もしかして乙女版マコーレーカルキンだったりするかしら?

そんなことを考えながら、本を読んでいたら彼が帰ってきた。

時刻は0時前。今日は早く帰ってきてくれたんだ!

「おかえりなさい!」

玄関まで小走りで迎えに行く。少しタバコの臭いがする彼の胸に抱きついた。

ああ、やっぱりここが一番居心地がいい。
一人が楽しく感じるのは一緒に過ごす時間が何よりも愛おしくて大切だからなんだなぁ。

「一人は楽しかった?何してたの?」

「なかなか楽しかったよ。特に何もしてないけど!」

そんな事を言って、私たちは笑い合った。



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夏沢 ぺろみ
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