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まさか、指さして笑っていたロックバンドに生きる希望をもらうことになるとは。

「なんなんだこのバンドは。」



「よく分かんないけどベースの人は、人生が楽しそうだなぁ。」



それが私の彼らへの第一印象だった。

まさか、そんな彼らに数年後、命を救われるだなんてその時の私は知る由もなかったのだ。




彼らの名前は『UNISON SQUARE GARDEN』というスリーピースのロックバンド。

私が初めて彼らを目にしたのは、当時金曜の夜にテレビ朝日系列でやっていた長寿音楽番組でのことだった。

今じゃ彼らの代表曲ともなった『シュガーソングとビターステップ』をテレビで演奏していたのだ。

当時、新卒の新社会人として入社したての頃のことだった。

普段はあまりテレビを見ない私が、その時たまたまつけたテレビから流れてきたのがこの曲だった。

なんだか言葉の詰まった早口言葉のような曲を歌っている人たちがいるなぁ、、。と思って垂れ流しにしていた画面をふと見た瞬間"暴れ狂う"という文字を体現したらこうなるんだろうな。という、パンチの強いベーシストの姿に釘付けになった。

その釘付けは、かっこいいとか決してそういったプラスの眼差しではなくどちらかと言えば嘲笑うような、そんな冷ややかな意味を込めたものだった。

その時の私はとにかく多忙で、後に心身を壊して辞めることになる職場での先の見えない毎日にすっかり疲弊していたのだ。

自分のことでいっぱいいっぱいで、他人のことを考える余裕なんてなく、とても対応できない世界に毎日この先どうやって生き延びていけばいいのだろう。と頭を悩ませていた。

そんな時に見たベーシストの彼は、私からしたら「人生楽しそうでいいなぁ。」といった自分の世界とは一線を置いた遠い人間でしかなかったのだ。







それから、約3年後のこと。


当たり前のように、頭の中からはあの時見た彼らの存在なんて消え去っていた日々のことだ。

以前の勤め先も辞め、その後の勤め先も合わずに辞めて無職の期間を過ごしていた時期だった。

世間体に縛られている家族にもすっかり見放され冷たい言葉を吐かれ続ける日々。

長く付き合っていた当時の恋人とも上手くいかずに、一度離れていた時期で、本当に孤独な日々を過ごしていた。

何をするでもなく、ただただ流れゆく時間をやり過ごし、生きている価値など何もない私なんて早く死んでしまえばいい。と毎日思い続けていた。

かと言って、いざ自分で全ての時を止めてしまう行為には相当の勇気が必要で、実行に移すことができなかった。

先の未来のことなんて何も考えられず、不安をアルコールで誤魔化し続けて、ぼんやりした頭のまま眠りにつく。

翌日目が覚めると、今日も生きてしまった。

そんなことを思い続ける日々だった。



そんな泥のような毎日の中のとある日。

距離を取っていた元恋人に、お前の気に入りそうな曲がある。と勧められたのがUNISON SQUARE GARDENの『春が来てぼくら』という曲だった。

それが、私が彼らと再会を果たすきっかけとなったのだった。


家族より密な時間を過ごした人間の言うことには変に説得力がある。

人が勧めてくれたものに普段は興味関心を持たない私だが、この時は素直に貸してくれた音源を聴いてみることにした。

やわらかなメロディーに、ボーカルの優しく伸びやかで、力強い歌声に聴き入った。

後ろでかき鳴らされる心地いいリズム隊の音色も、身体の奥底を震わされるようだった。

そして何よりも、その歌詞に心を射抜かれたのだった。

長いこと、アイドルなどの煌びやかな世界に惹かれ、そういった音楽を聴いていた。

そんな私にとって、こんなにも歌詞に背中を押されて涙がこぼれるほど魂が震えたのは生まれて初めてのことだった。

その時からもう、私はUNISON SQUARE GARDENの虜だった。

こんなに優しくて、繊細で、時に力強く背中を押してくれる歌詞が書けるなんて。

いったいどんな人が書いているんだろう。

この人のことを、この人たちのことをもっと知りたい。

当時彼らの音楽は、YouTubeやサブスクにはフル音源がアップされていなかった。

検索に引っかかったショートの動画を見てみると、驚くことに画面には"あの時"のベーシストが居るバンドが映し出されていたのだ。

その時の私は、豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしていたに違いない。

しかしながら、音楽に魂を震わされたのは事実。

すぐにレンタルCDショップに行き、手当たり次第彼らのCDを借りた。

それから文字の如くUNISON SQUARE GARDEN漬けの毎日を過ごすことになった。

イヤホンから流れる彼らの音楽はとても力強く、そして、どんな人間からかけられる言葉よりも優しかった。

音楽を聴き、歌詞を読み、涙する日々。

そのうちに段々と「彼らの音楽を生で聴いてみたい。」という想いが芽生え始めた。



UNISON SQUARE GARDENのおかげなのか、ギクシャクしていた当時の恋人との関係も修復に向かっていた。

その時、その恋人と生活を共にしていた家を飛び出して実家の厄介になっていた私は、心を壊され続けた実家と決別することを決心し、また再び大都会東京へと戻ったのだった。


どうにかここから生活を立て直して、UNISON SQUARE GARDENのライブに行ってみたい。


私はすぐに新しいバイトを始め、当時の恋人のお世話になりながらお金を稼ぐことに勤しんだ。

がむしゃらになっていた頃、ちょうどUNISON SQUARE GARDENが15周年の節目のライブを大阪でやることが決まった。

野外ライブなのでキャパが大きく、一般でも難なくチケットを入手することができそうだった。

これを私の初ライブにする!

一般でチケットを申し込み、無事にチケットを手に入れた私は毎日お守りのように当選画面を眺めながらライブ当日を待った。

しかし、大阪に行くには大きな壁があった。

新幹線に乗らなくてはいけない。

長いことうつ病とパニック障害を併発している私は、その頃かなり病状が深刻で、新幹線はおろか普通電車にも乗ることができなかった。

病院でもらった薬を飲んで、電車に乗る練習をした。

普通の人にはなんてことない事でも、私には難しかったのだ。

でもそこまでしてでも、どうしてもUNISON SQUARE GARDENの音楽を生で聴きたかった。


そして、無事に迎えた当日。


私は新幹線に乗って、はじめての大阪に降り立ったのだった。

初めてのUNISON SQUARE GARDENのライブ日は、台風が近付いていて開演までタライをひっくり返したような大雨だった。

レインコートを着ているのに雨が中まで侵入してびしょ濡れ。靴も対策をしていったがなんの意味もなくぐっしょり濡れていた。

野外だったので防ぐ術もなく、もしかしたら中止になるのではないかとヒヤヒヤした気持ちで過ごしていたが、ライブが始まるころにはすっかり雨も上がり、青空が広がっていた。

初めて生で聴くおなじみの出囃子の曲。

ああ、私は本当にこれからUNISON SQUARE GARDENのライブを見られるんだ。

あの時の体温は今でも忘れられない。

彼らの音楽は私の心の深いところまでズンズンと響いた。

何度も背中を押してくれた、あの曲やこの曲。
やっぱりCDで聴くのとは別物で、何度も涙を流した。


全身びしょ濡れ、地面も雨でぐちゃぐちゃ。

最悪な天候だったけれど本当に素晴らしい日だった。

生きててよかったと心の底から思った。



すぐにファンクラブ会員になり、それから毎回行けるライブには足を運ぶようになった。

その間にも人生が何度も嫌になることがあった。

結局、あの時に関係を戻した恋人とは険悪になり破局もしたし、新しく始めた仕事のせいで落ち着いていたうつ病も再発。また無職になった。

そして、実家を飛び出して以来、一度も会うことのなかった家族が自死を選択。地元にいた間ずっとお世話になっていた親戚も立て続けに亡くなり、もうすっかり生きることに疲れてしまった。


選んでいる道が正しいと信じて進んでいるはずなのに、全てが断崖絶壁に繋がっているようで、何を信じていいかわからなかった。

そして、あんなに好きだったUNISON SQUARE GARDENの音楽すら聴けなくなったのだ。

ライブに行くことはおろか、再生ボタンすら押せなくなった。





家族の自死を経験してすっかり気力を失って引きこもっていたある日、UNISON SQUARE GARDENの新しいアルバムが発売されることが発表された。

そういえば、最近聴いていなかったなぁ。


たまには気分転換に聴いてみてもいいのかな。


暇を持て余し、なんとなく再生ボタンを押したら、私を闇から救ってくれた言葉の数々が蘇ってきた。

自然と涙が止まらなくなる。

それから毎日、聴けなかった日々を取り戻すように夢中で彼らの音楽を聴いた。



彼らの音楽は、手を掴んで道を切り開いてくれるわけではないし、道標を示してくれるわけでもない。

あくまでも自分の力で立ち上がれというスタンス。

近くにいて寄り添ってはくれない。

でも優しく、時に力強く背中を押してくれる。

真っ暗だった道にキャンドルのような明かりを灯してくれるような存在だ。

私はそのかすかな希望を必死に手繰り寄せて、こうして生き延びることができている。




見えるものだけが全てではないし、教科書に載っていることが全てではない。

難しいと思ったら諦めたっていい。

まっすぐ進めなければナナメに進めばいい。

今日だけでもいい、生きろ。



世界に馴染めなかった私に、彼らが音楽で伝えてくれたことが私の生きる道筋になった。

一日、あと一日でいいから生きてみよう。明日にはどうにかなるかもしれない。

そう思って気付いたら立ち上がることができていた。





気が向いたらライブに遊びに来てよ。そこで変わらず音楽を鳴らし続けてるから。


その言葉通り、久しぶりに行ったライブでは、いつものように音楽を鳴らす彼らがいた。

ライブの帰りには心が満ちて、自然と次のライブに行くまで頑張って生きようと思える。

こうやって私はUNISON SQUARE GARDENに生かされ続けているのだ。




生きていてもいいことなんてない。



数年前までそんなことを毎日考えていた私が、今は「生きていてよかった。」と本気で思えるようになった。


あの時、生きる選択ができたから、今こうして毎日大切な人たちと笑い合えている。


もちろん、それはUNISON SQUARE GARDENの力だけではないかもしれない。

けれど、私が「もう全てやめて消えてしまいたい。」と考える時にはいつも彼らの音楽がそばにあった。


もうちょっと生きてみるか、と思える希望を何度ももらった。


私にとって彼らは、かけがえのない存在だということは間違いない。




あの時に地上波で嘲笑うかのように見ていたロックバンドに、まさか命を救われるだなんて思ってなかった。


アニメを全くと言っていいほど見ない私が彼らに出会えたのは本当に奇跡なのかもしれない。(UNISON SQUARE GARDENはアニメのタイアップが非常に多いので。)


ありきたりな言葉だけれど出会えたことに、そして何年経っても変わらず音楽を鳴らし続けてくれていることに感謝しています。



UNISON SQUARE GARDEN 結成20周年の今日2024年7月24日に、祝福を。



おめでとう。



そして、ありがとう。



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