#58 暗雲とシチューのサーフィン大会

たとえば、それは煮込んでいる最中のシチューの中身のように、またはこれから豪雨をもたらしそうな暗雲の立ち込める空のようにある。

それはまごう事なき凶兆の予感を匂わせながら、しかし強いエネルギーでもってこちらに迫ってくる。

ややもすれば、その気配に身の毛がよ立ち、鳥肌を掻き立て、冷や汗の濁流すら止めることもできなくなるかもしれない。

だが、それはそこまでして恐るに足らないものでもある。

それはあらゆる人において「モチベーション」という、既に悪用の果てにその持ちうる意味がすっかり形骸化してしまった言葉本来の姿でもある。

それは自分がまだ、あるいはこの先も衰えることなく、常に若者のように振る舞えることを思い出させ、そして千年も生きた仙人のように力を与えてくれるものでもある。

だから恐ろしいと思う。

これは、ややもすれば自分を取り囲むあらゆる人々やそこから構築される社会というもの、常識から逸脱して、落伍者のレッテルを貼られる危険性すらも孕んでいる。

無視しようと思えば無視はできる。
しかし、無視した瞬間から人は自分の人生を捨てて生き始めることになる。

誰かのために生きることと、自分の人生を生きないことは決してイコールではない。

窓の外を見てみる。
少し前までは悪天候続きだった。

突発的なゲリラ豪雨、立て続けにやってくる大きな台風の予報、それらは私から健全な肉体と精神の一部を軽々と奪ってしまう。

だが、今日は一転青い空が広がっている。

身体も心もまだ削られたままだが、しかしあの強力な概念的暗雲、ないしは灼熱のシチューが沸々と迫っている。

楽しそうだと思わないか?

これから始まるのは、暗雲とシチューを乗りこなすサーフィン大会だ。目指すは大技・チューブライディング。

バラバラになった足・腰・頭をかき集めよう。
水際でチャプチャプ遊ぶところから始めるのでも、きっといいから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?