#229 神々の怒りフェア
いつまでも目を背けているわけにはいかない。この3連休でケリをつけてやるという強い意志でもって、私は重い腰を上げて確定申告に乗り出した。
いつもなら、2日もあれば終わる。
昨晩、2丁目でのバイトで夜遅くに帰ったため、今朝起きたのは少し遅かったが、まず終わらせようと考えていた年間支出表の作成はとりあえず終わったので上々だ。しかも、洗濯と掃除までやっつけているのだから、表彰状を貰ってもおかしくない。
しかし初動で気が重いのは変わらない。
過去1年分のレシートと睨めっこするたびに、過去の自分への苛立ちが募る。
「消耗品費が雑費のフォルダに入ってる!」
「なんでこれまとめてないんだよ!」
「小刻みに買い物に行くな!」
と、どつき回したい気持ちがあっても、過去の自分はここに存在しない。なんて後ろ向きな時間なんだろう。
しかし、レシートの整理をしている中でふと目に留まったものがあった。それは、去年の夏頃に新宿伊勢丹で購入したもので、品目にはこう書かれていた。
「ポセイドンの怒り 1点」
どうも私は、去年の夏頃に新宿伊勢丹でポセイドンの怒りを買っているらしい。過去の私がどんなにアホだとしても、ここまで大それたものを買っているならあっぱれだ。
さすが天下の伊勢丹、何でも売ってるなぁ。
そんなことを思ってしまうが、種明かしをするとこれはおそらくワインの名前だろう。世界のワイン展で買ったものと思われるその中に、そういう変わった名前のものがあったのだろう。
しかし、これだけ見るとまるで伊勢丹で「神々の怒りフェア」が開催されていたようにも見える。「退屈な日々に刺激的な試練を!」そんなキャッチコピーで購入した神々の怒りがあれば、一夏の間、心踊る大冒険が確約されそうだ。
ずっと過去の自分に腹を立て続ける時間だったが、こういうものに出会えるならまぁ悪くない。明日、申請まですべて終わらせてやろう。
すべて終わったら、お出かけして美味しいものでも食べようじゃないか。
でも海岸沿いはダメだろうな。
ポセイドンの怒りで大変な目に合いそうだから。