#34 プリンセス式ご近所付き合い

この令和の時代に珍しく、一人暮らしを始めてからご近所付き合いが盛んなことが多かった。

別に自らご近所へ付き合いを求めたわけではない。しれっと引っ越しては、しれっと暮らし、そしてしかる日が来ればしれっと去ってきた。

まぁ、今の時代においてはセキュリティ上を考慮しても普通のことだろう。世間から見れば私は「女性の一人暮らし」なので、わざわざ引越し先の近隣に蕎麦を配って「どうも!あなたの近くにカモが越してきました!」とアピールするリスクの大きさは承知している。

これまで私は今のエリアを含めて3つのエリアで一人暮らしをして来たが、そのうち2箇所でご近所付き合いが発生していた。

エリアBのマンションに住んでいた頃、私の部屋の2軒隣に韓国人の家族が住んでいた。ある日、私が夕方の散歩に出掛けて帰ってくると、その家のお母さんが玄関の外に出てこちらを見ていた。

「何だろう?」

と思ってそのお母さんに目をやると、お母さんは慌てた様子で言った。

「ごめんなさい、違うんです!子供が帰ってこないか待っていただけで!」

私はそれに納得して「お気になさらずー」と言って部屋に引っ込んだ。

その日の夜、私は珍しく夕飯作りに大失敗した。というか、夕飯が作れなかった。

家にあるモノでシチューを作ろうと思っていたのに、頼みの綱の玉ねぎがダメになっていたのだ。食べるべき夕飯プランの崩壊に、キッチンを前にして途方に暮れていた。

すると、インターホンが鳴る。
ドアを開けると先程のオムニだ。

「先程は変な感じになってごめんなさい。これ、チヂミを焼いたのでお裾分けです。お詫びに良ければ食べてください」

アルミホイルに包まれたチヂミは天からの贈り物だ。私はありがたくそれを受け取り、無事に満足のゆく夕飯を頂くことができた。
そのチヂミのなんと美味しかったことか!
薄くて周りはカリカリ、でも中はモッチリ。イカとニラが沢山入った、本当に美味しいチヂミだった。

お詫びにしては過ぎた品だと思い、その後私の得意料理であるカレーを作った時にお裾分けでお返しした。その家の子供たち共々、喜んで貰えたので嬉しかった。

その後、今のエリアCに越してからのことだ。
ペット可の物件なので、お隣さんも猫を飼っており、よく共有廊下に面した窓に白い猫が顔を覗かして「ニャー」と言われることがあった。

ある日の夜、外から猫の大きな鳴き声が聞こえてきたので、出窓を開けるとウチのベランダの柵の上に白い猫がいた。

「あら!どうしたの?!」

と私が声をかけると、隣のベランダから飼い主の声が聞こえた。

「ごめんなさい!ウチの猫に猫草を食べさせていたら、防護柵を飛び越えてそっちに行ってしまいました……ウチの猫どんな様子ですか?」

私は猫により近い出窓に移動した。

「柵の上にいます。落ち着いていますが、抱っこ出来るか……もし良ければ、こっちに来ていただけますか?」
「そうします!」

お隣の飼い主が移動する間、私は猫に話しかけながら少しずつ距離を詰めて、とうとう猫を捕まえた。当の猫は落ち着いており、部屋の中に入ると一瞬手を離れようと暴れたものの、グッと抱え込むと大人しくなった。

タイミング良く、お隣さんがインターホンを鳴らしたので猫を抱えたまま玄関に行き、猫を引き渡した。飼い主さんはいたく喜んだ。

「ありがとうございます!この子、人見知りするから触るのだって難しいのに、初対面で抱っこ出来る人がいるなんて、助かりました!」

元々、私は動物や子供に好かれやすい体質なので、自分で自分のことをディズニープリンセスだと思い込んでいる。まぁ、主に好かれるのはドバトとカラスと野良猫ばかりなんだが。
だから

「お気づきですか。これはすべて私がディズニープリンセスだから成し得たことなのです!」

と返事したいのをグッと堪えて

「ウチも猫飼ってるんでー」

と答えた。オトナとはこういうものだと学んでいるから見事に擬態してやったぜ。

翌日、お隣さんがお礼に美味しいリンゴジュースを沢山くれて、それ以降外で顔を合わせれば挨拶したり、軽く世間話したりする。この間は玄関のドアに梨のお裾分けが掛けられていた。

自ら求めずとも、こうした付き合いが広がるのってとても不思議だと思うが、考えてみれば国内・海外旅行に行ったときも、こちらからアプローチしなくても声をかけられたり、友達ができることが多かったなぁと気付いた。

何故か分かりますか?
私がディズニープリンセスだからですよ!

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