#122 発熱知育ビデオ

私の父はビデオやCDなどを作る仕事を昔していた。私が幼稚園に入るよりも前の頃だ。

主にアイドルのCDやイメージビデオなんかが多かったが、ある時子どもの教育向けコンテンツの企画に携わっていたことがあった。

ある時、制作費もそこまで無い中で、2〜4歳くらいの子どもたちとその母親を呼びあつめる必要があったようだ。当然、その年頃だった私と母も現場に駆り出されることになる。

撮影現場でのことは、もちろん物心つく前の話なので記憶はないが、後々母から聞いた話を今日は話していく。

撮影スタジオで、子どもの知能を育成するため(?)のお遊戯を母親と共に行うのが今回撮影する大まかな内容だった。

特にセットや小道具のない、カラフルな照明に照らされたシンプルなスタジオで数組の親子が音楽に合わせて手を叩いたり、踊ったりするそうだ。

しかし、当時の私はとにかく病気がちで何かあるとすぐ熱を出し、風邪をひくことが多かった。2歳の頃には川崎病というやっかいな大病も罹患している。

こういう病弱な子どもは不思議なもので、何か大きなイベントごとや用事がある日に限って体調を崩すことが多い。

そして悪い予感は当たり、私は撮影現場で風邪を引き、高熱を出した。

しかし、今更子ども一人が倒れたからと言って、撮影をキャンセルすることはできない。高熱でふらつきながら、母親に手を引かれてスタジオでお遊戯をさせられる。

撮影スタジオというのは行ったことある人なら分かると思うが、家庭用とは比べ物にならないほど強い照明のせいで灼熱の暑さになる。
ましてや20年以上前のスタジオなんて、今と違って白熱球がほとんどなので余計に暑い。普通にいても熱中症になりそうなくらいだ。

その中で高熱の子どもがどれだけ動けるか。
想像に容易いだろう。

お遊戯をするごとに体調はどんどん悪化していく。休憩すると嘔吐することもあり、お遊戯も足元のおぼつかない動きで、制作陣の思うような仕上がりにならない。

「こんなのあんまりだ!」と母はその時にいたく父に怒ったらしいが、どうにか撮影は終わり、ビデオは無事に完成した。

物心ついた頃にそのビデオを見たことがあるが、他の子に混じって明らかに顔色が悪く、動きにキレのない子どもがいた。私だ。

父も仕事だから仕方ないとはいえ、しかしひでぇ話だとたまに思い返す。ちなみに、今でも探せばそのビデオはあるらしい。

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