#239 隠れた満身創痍
数週間前に喉風邪をひいてしまい、しばらくの間しつこい咳に悩まされていた。寝ても覚めても、激しい咳のせいでおちおち喋ることも、寝ることも出来ない。熱がないだけまだマシだったが、なかなか苦労した。
咳自体は比較的今は治ったものの、今度は別の問題が起きている。右脇腹が痛い。少し深く息を吸ったり、軽く咳き込んだだけでも軋むような痛さがある。
昔、くしゃみや咳で肋の骨が折れたりヒビが入ったりすることがあると聞いた。とはいえ、仮にそうなっていたとしても、薬を飲んだり手術で治るとか、ギプスで固定するとかということはできず、せいぜいコルセットを付けるか湿布や痛み止めで対処療法を行いながら、治るまで耐え続けるしかないそうだ。
そういうわけで、しばらくその痛みを無視しながらやりくりしていたものの、痛みは日に日に増すばかりなので、少しでも楽になれるならという思いで病院に行った。
結果として骨にヒビはなく、軟骨が傷ついているだけのようであった。咳さえ治れば2週間くらいで治ると言うが、今でも頻度こそ下がったがたまに咳き込むことがあるし、花粉も飛んできてくしゃみをすることもある。長い戦いになる予感で気が遠のきそうだった。
処方された湿布を貼って、身体の姿勢に気をつけながら過ごしていても、寝るために体を横たえるときは苦労するし、あまり動かさない方がいいと言われて日課のストレッチもできない。そのくせ、見た目にはその痛みも辛さも分からないし、日常生活は普通に過ごせるからいつも通りに生きていくしかない。
去年、とある寺の宿坊に泊まった際、大きな寺の敷地内で行われていたエクストリームマラソンを走る一人の男性を指差し、宿坊の住職が「あの人、ここから見える山の上の寺で住職をしているんですが、今肋の骨が折れてるみたいですよ」と言われて、驚いたことがある。
肋骨の骨が折れても、険しい山道を走り抜く長い長いマラソンを走れるなんてもはやスーパーマンだ。御仏のパワーかもしれないが、自分もあれだけ頑丈に生きられたらなぁとその時に思ったのを覚えている。
しかし現実問題。骨どころか軟骨を痛めただけでこんなに辛いのに、このままマラソンなんて誰が出来るのかと思う。ましてや、昨日から急激に冷え込んできたのも手伝って、全身が痛い。でも誰にもそれは知られない。
人生の中で、私の内部で起こったことが人に分かってもらえず、仕方なくそれを耐えて過ごすことが多かったし、それにやや慣れているところもある。見えないところで満身創痍だったりするのだ。
そういう弱音を言えるのは、こういう場所だけだろうけど、あるだけマシ。そう考えて、また明日生きていくしかないのだ。身体が弱いなら、せめて心だけは強くなくては。