#3 さらば、ポテト
今日は弟が初めての賞与で夕食をご馳走してくれた。場所はTO THE HERBSというイタリアンで、家族でよく行っていた最寄駅にある店で、行くのは実に数年ぶりだ。
今は夏季限定のウニとイクラ、イカ、カラスミの冷製パスタが提供されている時期で、夏に1度は食べたいメニューの1つだ。ちょうど食べたいと思ってた頃なので、タイミングが良い。
しかし、1つ残念なことがある。
実は家族全員大好きなメニューがあるのだが、これが数年前から内容が変わってしまったのだ。
それはフライドポテトだ。
私たちが愛したTO THE HERBSのフライドポテトは、細身でカリカリとした食感の美味しさもさることながら、その味をさらに引き立てるのが2つのソースだ。
一つはトマトソース。そう、ケチャップではなくトマトソースだ。甘味の強いトマトに、ほのかにガーリックが香る、イタリアンらしいソースだ。
もう一つはジェノベーゼソース。他にはない、バジルのソースは香り高く、家族の中ではこのソースにポテトをつけて食べるのが何よりお気に入りだった。それこそ、今日奢ってくれた弟とは、幼い頃にこのポテトを巡って取り合いになってたくらいだ。
そのポテトがすっかり変わってる。
パリコレモデルの足のように細長いポテトはずんぐりと太く、しっかりしたシルエットに変わり、トマトソースはより甘い味になり、大好きなジェノベーゼソースはアリオリソースに変わってしまった。
もちろん味は美味しい。ずんぐりとしててもポテトはカリカリだし、新顔のアリオリソースも中々美味しい。トマトも甘味が強くなったものの、それもいいアクセントだ。
しかし、やはり大好きだったあのポテト、あのジェノベーゼソースがもう食べられないのは少し寂しい。夏季限定の冷製パスタは変わらない美味しさなのは嬉しいが、しかしどこか物足りない。
飲食業界も流行り廃りがある中で、生き残るためにメニューを変えたりするのは戦略として普通のことだし、そういう別れをこれまで経験しなかったワケでもない。
とはいえ、大好きな味がもう食べられないと知ったときの、物悲しさに慣れることはないだろう。少なくとも、私が無事である限りは。
実は、長らく実家暮らしだった弟はとうとう一人暮らしを始めるという。弟も成長のために、新たな変化のときを迎えることになる。
ポテトがより多くの人に喜ばれるために姿を変えたように、弟もより良き人生のために変わる。停滞するより、変化と共に進歩がある方がきっと楽しいと、私も思う。その過程に幾多もの寂寞があったとしてもだ。
さらば弟よ。
さらばポテトよ。
その道が前途洋々であるように!