Twitterリクエスト小説 その1「B.B.」

 月面基地での生活が一年を超えようという時。大好きな先輩が一足先に地球に帰ることになった。なんでも年配の父親が危篤らしく、すぐに帰らないと間に合わないかもしれないのだそうだ。化学技術の発展は目覚ましく、今では高速ロケットを使えば一日で日本まで帰れるのだから、つくづくすごいことだと思う。残されたボクは、メンバーの中で一番若い。しかし、他の数人の先輩達も付き添いで帰ることになったので、ここからは遠い月の裏で作業をやっているメンバーを除けば、基地でシステム管理をするのは実質ボク一人だけになる。
 心配に思うかもしれないがそんなことはない。心強い味方がいる。『B.B.』だ。彼は、月面基地のシステム管理のほとんどを行っている人工知能で、月面で生活しているメンバー全員の体調、食事の管理から、基地内の衛生状態、ライフライン、物資、通信、その他様々なことを一手に担っている。人間とコミュニケーションを取ることも可能で、良き遊び相手にもなってくれる。
 ボクは『B.B.』が開発される前からこのプロジェクトに参加しており、彼とは長い付き合いだ。A.I.相手に思うことじゃないかもしれないが、本当に良いパートナーだ。心からそう思う。
 先輩が出発したのを見送ってから基地に戻ると、B.B.の無機質なカメラ付きモニターが近寄り、声をかけてきた。
「おかえりなさい、タクヤ」
「ただいま、B.B.」
 B.B.はモニターからアームを伸ばしてボクの宇宙服を外した。
「タクヤ、ミズキから伝言が入っている」
「先輩が?早いな。なんだって? 」
「再生する」
 作業服に着替えてる間に、B.B.が受信した音声データの準備を完了させ、スピーカーから流した。
「ごめーん、タクヤ! 作業机に眼鏡置いてきちゃった! 明日朝一のダスト便で送って! じゃ、よろしく! ごめんね」
 先輩の作業机に目をやると、確かに眼鏡が置いてあった。いつも仕事中つけてる紫の眼鏡。クリアタイプで、すごくシンプルなやつだ。
「タクヤ、ダスト便の準備をするか? 」
「あぁ、頼むよ」
 そう言って、手に取ると眼鏡のつるの部分が抜けて床に落ち、中の細長い針のような金属がむき出しになった。思わず、声を上げる。
「どうした、タクヤ? 」
「眼鏡が壊れているみたいなんだ。直してから包むよ」
「じゃあ、工具を出しておく」
 ボクの作業机の壁から工具セットがせり出してくる。それを手に取って直そうと、机に向かった。
 しかし、ボクの手はそこで止まってしまった。長い針を見ていると、あるものに類似していることに気づいてしまったのだ。胸に湧いた良からぬアイデアが拭い去れない。
「B.B.」
「どうした、タクヤ? 」
「すまないが、一時的にボクの体調管理システムを切ってくれないか? 」
「分かった」
そう言うとB.B.はその場に立ち止まった。ボクはそのまま自分の寝室に向かい、背後で鍵を閉めた。手には、あの眼鏡を握りしめたままだ。先輩の、色の薄い瞳がいつもこのレンズ越しに見えていた。光をも透かしそうな色白の皮膚で彩られた瞼には、高級な刺繍糸のような長い睫毛が綺麗に並べられており、それが瞬きするたびに羽音のような音さえさせそうなほどであるのを思い出した。あの瞳に見つめられる度に、眼鏡を直す美しい指先を見る度に……心臓が跳ねあがる思いをさせられる。
 今、そんな先輩と一緒にいれないのは残念だが、これは同時にチャンスだ。壊れた眼鏡のつるは前からやってみたかったコトに使える。ベッドに座り、金属の部分がむき出しになったつるを消毒し、ハンドクリームを塗り付けた。ベッドに腰掛け、ズボンと下着を一気に降ろすと手に持ったものをまじまじと眺めながら、右手で自分を扱った。クリームでテラテラと艶めく眼鏡を見ていると、先輩を汚したような気分になり、異様に興奮した。自分のしていることがいかに最低な事かなんて重々承知だったが、共同生活が長いせいでこういう処理をしてこなかったこともあり、もう止められなかった。
 硬度と質量を増す自身の感触を確かめながら、右手を必死に上下に動かす。先端から透明の液体が漏れだしてくるのを見て、先ほどの眼鏡をゆっくりその入口へあてがう。初めての感触に流石に体が強張るがゆっくりと先端を押し込む。僅かに冷たいものが中に入った感覚がし、それが中へ進む。が、
「痛っ……」
 さすがにしんどい。細めの先端部分から少しずつ太さを増す中腹辺りに差し掛かるともう腰が引けてどうしようもない。引き抜こうとすると、それはそれで変な鈍痛のようなものが響く。もうどちらにも進めない。完全に困った。上気する息を整えながらどうしようか考えあぐねていると、突然部屋の鍵が開いた。
「タクヤ、異常はないか? 」
 最悪だ。完全に忘れてた。体調管理システムは初期設定だと長くても三十分で切断を終了してしまうから、デスクトップで設定をいじらなければならないのだった。モニターの上部にあるカメラはしっかりと俺の醜態を捕らえている。
「B.B.!カメラを切るんだ! 」
「現在、生体データ番号070721 堀越タクヤの体調スキャン中……データを転送中…… 」
「畜生! 」
 手動で電源を落とそうとしたかったが、体は動かない。相手はカメラで捕らえた生体データのスキャニングをやめない。おそらく、スキャンされたデータはサーバーに保存される。早急に削除しないと他のメンバーの目にも晒されることになる。そうなったらいよいよ最悪だ。預かった眼鏡はとんでもないことに使われているし、これが見られようもんなら、もうどんな言い訳もできない。
「スキャニング終了。病的異常なし。体温高め……心拍数高め……既存のデータに無い生理反応あり。身体内へ異物の侵入あり。これより状況の解析を行います」
「え……? 」
 B.B.のアームが伸びて、下半身へ近づく。下手に動けないので片手でそれを払おうとする。
「やめろ!早くカメラを切ってくれ! 」
「タクヤ、今は無理だ。ケガさせてしまう」
「お前は何もしなくていい!いいから部屋から出てくれ! 」
 アームはそっと股間を掴み、眼鏡のつるを掴もうとする。
「やめるんだ、B.B.!痛いんだ!ボクが一人でやる!だからお前はもう出て行ってくれ! 」
「タクヤ、痛いのか? 」
「そうだよ! 」
「なら、治さないといけない」
「必要ないんだ!帰ってくれ! 」
「タクヤの体調が悪い時に治すのは私の役目だ。それに、今で見たことない生理反応がある。これが何なのか解析してデータとして蓄積させないと、次同じことが起こった時に対処できなくなってしまう」
「必要ないんだってば! 」
「すぐ終わらせる」
 B.B.に性的興奮状態時の人間の生体データを入れておかなかったことに後悔する日が来るだなんて思ってもみなかった。アームは針を掴むと、ゆっくりと後退していった。自分でやるよりも変な感覚が下半身を襲う。腰が震える。
「どうした、タクヤ? 」
「動かすなよ……」
「動かさない?」
「そうだよ、元の状態に戻せっ」
「元の状態……」
 すると、B.B.が針を持ったまま奥へ進ませる。自分でも信じられない声が喉から発せられる。
「今の処理ではダメだったのか、タクヤ? 」
「もう……」
「タクヤ、どうしたらいい?指示をくれ」
「やめ……」
 人工知能のくせに戸惑うのか。B.B.はどうしていいか分からずにおずおずと針を前後に動かす。その度に「取ればいいのか? 」「現状維持なのか? 」と聞いてくる。与えられる刺激がより甘さを増し、ジンジンとそれが脳内を犯す。
 思わず、B.B.のモニターにしがみつく。まばゆい光が目の中で、脳内で炸裂する。心配そうに声をかけるB.B.の人工音声が不思議な程チクチクと刺さる。最終的にB.B.は自発的に「異物除去」を選択し、アームが握った針を抜く。それと同時にたまらず達してしまい、白濁をモニターとカメラに盛大に吹きかけてしまった。
「タクヤ、前が見えなくなってしまった。ふき取ってくれないか? 」
 B.B.の言葉に応えられなくなる。
「タクヤ?大丈夫か? 」
 ひっきりなしにかけられるB.B.の声を聞きながら、こんなにも彼の声で乱される理由を思い出した。
 彼の声は、先輩の声をベースにして作られていたことを……



for 美可ちゃま
お題「紫の眼鏡で官能小説」
  「人外×男の子」
  「眼鏡を性具として用いたアブノーマルセックス」

2014年1月15日
<本作はpixivより引っ越ししてきた作品です>

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