注目の物流スタートアップ: データ型ハブ&スポークを提供する「Baton Trucking」
直近で資金調達及び話題のスタートアップの中から、物流業界に関連するものを厳選して、このブログで紹介します。
なぜその事業を創業したのか? どんな課題を解決するのか? 何故その課題は今まで解決されてこなかったのか? 他のスタートアップと比べて何がすごいのか? 今後どうやって成長していくのか? など好奇心の赴くままに、サクッと書いてみたいと思います。
記念すべき第1弾は、Baton Truckingです。陸上競技のリレーのバトン(Baton)の様に、長距離ドライバーが遠方からトラックの荷台に載せて輸送してきたトレイラー(上図の左側=CUSTOMER)を「24時間ドロップでき」、Batonが契約するローカルの中小トラック会社・ドライバー(上図の右側)へとトレイラーをバトンのように引き継ぐ「ドロップゾーン(中継点)」を提供するスタートアップです。長距離ドライバーがトレイラーをドロップする拠点となる「ハブ」、ハブから各拠点(スポーク)に長距離ドライバーが運んできたトレイラーをローカルドライバーが分散させるモデルです。
1.企業概要
共同創業者のAndrew BerberickとNate Robertは、8VCのEIR(Entrepreneur In Residence)で1年ほど様々な業種を調査。そして、物流業界の長距離・ローカル運送会社200名以上にインタビューした結果、課題が大きいことが把握できたため、このセグメントで起業する ことにしたようです。
創業年:2019年
本社:San Francisco
創業者:Andrew Berberick, Nate Robert
累計調達金額:$13.8M, Series A
Post-Valuation:$50M
主な投資家:8VC, Maersk, Prologis, Ryder, Lineage Logistics
2.ミッションは?
ミッションは、長距離トラック輸送のファースト&ラストマイルの無駄な時間を削減すること。
3.誰の、どんな課題を対象にしているのか?
誰の:大都市圏の拠点間を幹線輸送する、長距離運送会社やドライバー
どんな課題を対象にしている:
2-1. 大都市圏の市街地にある目的地の道中、渋滞に巻き込まれている時間
2-2. 物流・倉庫拠点における、荷降ろし時の待ち時間
2-3. 復路用の貨物が決まるまでの待ち時間、それの積込み時間
上記2-1の大都市圏の市街地への目的地は交通量がそもそも多いため渋滞に巻き込まれやすく、慣れていないドライバーならWazeアプリと格闘しながら目的地を探す面倒が発生する。目的地に到着しすぎた場合は荷降ろしが開始できず、遅れたら荷降ろしが出来ず、オンタイムで到着しても物流・倉庫側のオペが理由でタイムリーに荷降ろしができないこともある(上記2-2) また、復路を空トレイラーで走るとDeadheadになってしまうため、復路の貨物が決まるまで待ちぼうけをくらうことがある(上記2-3)
4.どんな解決策を提供しているのか?
Long-Haul-Carrier/Driverと呼ばれる、長距離運送会社やドライバーの課題に対して、Batonはどんな解決策を提供しているのか? BatonのHPの絵がわかりやすいので、Batonの提供サービスの流れに沿って、絵とともに説明したいと思います。
図②の真ん中に"Baton"と書いてありますが、これが前述の"ドロップゾーン"です。長距離ドライバーが荷が積まれた緑色のトレイラーをBatonが保有する(正確には他社からサブリースしている) "ドロップゾーン(中継点)"でドロップし、 (下に続く)
緑色のトレイラーをドロップした後は、Batonの"ドロップゾーン(中継点)"で既に荷が積まれているオレンジ色のトレイラーをフックして、次の目的地に向けてすぐ出発します。
これらの取り組みにより、トレイラーをドロップするだけなので、物流・倉庫拠点における荷降ろし時の待ち時間を削減(課題2-2)でき、復路用の貨物が決まるまでの待ち時間やそれの積込み時間(課題2-3)も削減できるようです。
また、実際にBatonのドロップゾーン(中継点)が設けてある拠点を赤い旗でGoogle Mappingしてみると、オンタリオ・フォンタナ・サンバーナーディーノ・モレノバレーなどロサンゼルス西部の郊外に拠点があることがわかるので、課題2-1の渋滞に巻き込まれる時間もとても少なくなりそうですね。
ちなみに、図2で長距離ドライバーがドロップした緑色のトレイラーは、Batonが契約している地場輸送に強いローカルドライバーがピックアップし、最終目的地に輸送し(図4)、
ローカルドライバーは緑色のトレイラーを目的地でドロップした後、図5のオレンジ色の貨物がある拠点に向かい、
オレンジ色の貨物をトレイラーへ積み込み、Batonのドロップゾーンまで牽引します(図6)。Batonが契約しているローカルドライバーがドロップゾーンとローカル倉庫の間をシャトル運行します。
結果として、Without Baton(上)とWith Baton(下)で、Batonのドロップゾーンを活用することで、長距離ドライバーはドロップ&フックを30分で完了するとあります。それにより、Driving hours recouped(Batonを利用することで創出された走行時間)が12.5時間生みだすことが出来る とあります。今まではUnload/Wait/Load時間など売上を生み出さない時間にドライバーが拘束されていたのが、12.5時間分貨物を載せて走れることにより会社・ドライバーの売上が新規創出できる とあります。
5. So what's so great?
実際に、インターモーダル輸送の米国最大手 J.B.Huntは、2019年にBatonの様なトレイラーをプールして、ドロップ&フックできるようなサービスを提供開始しています。しかも、Batonと同様に、このサービスを米国の83%を占める中小や個人事業主のドライバーにも開放するという大手としては画期的なビジネスモデルの取り組みを開始しています。
BatonのSeries Aですが、8VCがリードし、他にも物流会社のCVCであるMaersk Growth(世界最大規模のコンテナ船会社)、Prologis Ventures(物流不動産大手)、RyderVentures(米物流ソリューション大手)が出資している。また、Seed投資家として絶対的な存在であるSV Angelも投資家として名を連ねています。そのため、従来大手運送会社だけが保有していた"ドロップゾーン"を提供するというビジネスモデルだけが投資理由 では、これほどの投資家を集めることは出来ないでしょう。
では、何がすごいのか? 投資家は何を目論んでいるのか? ここからはあくまでも私の仮説なので、ご参考までに。
仮説1. 他のデータ・システムとのデータ連携がすごい!
Batonのドロップゾーンの運営を最適化するためには、長距離ドライバー・トラック情報、ドロップゾーンの運営現状、ローカルデリバリー先の倉庫の状況や近辺の道路交通情報、ローカルドライバーの位置情報、など、貨物とトラックのリアルタイムなデータや道路交通情報などデリバリーに影響を与える交通情報など外部データを連携させる必要がある。
↑の動画から、既にローカルデリバリーを最適化するためにBatonの社内オペレータ向けスケジューリングダッシュボードを開発済みのようです。ドライバーの自己位置情報やWarehouse Management Systemが保有する積み込み・荷降ろしなど貨物・トレイラーのリアルタイムの状況が把握できるAPIでのデータ連携が進んでおり、長距離ドライバーやローカルドライバーの待機時間を極限まで減らせるスケジュール最適化ダッシュボードを既に保有していること=技術的な優位性を持っていることが、ドロップゾーンでのオペ生産性におけるJ.B.Huntなど従来プレイヤーとの競争優位性の1つになる と評価しているのではないでしょうか。
仮説2. 長距離自動運転トラックとの連携による期待値が大きい
幹線輸送用の自動トラックがバンバン走る世界が実現されたとしても、自家用車の何倍もの大きさのトラックが町中を走る姿はあまり想像できない!となると、幹線輸送の大都市圏の郊外に位置するBatonのドロップゾーンが拠点間を行き来する方が、Waymo Viaなど長距離用自動運転トラックにとっても都合が良さそう。まだニュースリリースには出ていないものの、既にWaymo Via(Alphabet傘下)やAuroraとの水面下での実証実験をしているのではないでしょうか。
幹線を走る長距離輸送用の自動運転トラックとBatonのドロップゾーンのデータがシームレスに繋がるようになれば、長距離輸送のドライバの無駄な時間が削減されるのはもちろん、待機時間や空トレイラーを運ぶことによるCO2排出量の削減にも貢献できる。
仮説3. デジタルブローカとのデータ連携で最適化がより進む
これまでに、デジタルブローカの新興勢力であるUberFreightやTransfixを紹介致しましたが、こういった荷主と運送会社をマッチングさせるデジタルブローカのデータ と Batonのドロップゾーンのデータが連携されると、発地と着地の輸送がさらに最適化されていきそうですね。
例えば、UberFreightに加盟しているドライバーに対して、Batonが荷主として発注をかけて、UberFreightに加盟しているローカルドライバーにBatonのドロップゾーンにあるトレイラをピックアップ&目的地までデリバリーさせた方が、Baton自らローカルドライバを契約や自社で抱え込むよりトータルコストが下がる可能性はないのか? などコスト観点での最適化が進むかもしれません。
また、現在Batonは、CRST Expedited、Bison Transportなど幹線輸送に強い大手運送会社と提携を結んでいる。今後幹線輸送に自動運転トラックが導入され始めると、UberFreightのドライバーネットワークにWaymo Viaなど無人の長距離トラック会社が加盟し、Batonの長距離輸送の貨物のドロップ&フックはWaymo Viaが入札してきて、ローカルデリバリーはNuroやStarshipなど、長距離輸送はWaymo ViaやAurora、ローカルのラストワンマイルデリバリーは自動運転ロボットが請け負うになるようになる時代が来るかもしれません!
6.編集後記
調べながら書いていたら、4000文字以上になってしまいました。Freightwavesのインタビュー動画(↓)も見ましたが、テクノロジーでどのように課題を解決できるかを1丁目1番地で考えており、今後の成長が楽しみです。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。今後も物流関連の面白スタートアップを紹介できればと思います。気に入ってくださった方は、↓から「スキ」「フォロー」をお願いします!
Fin