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幻想と青春 ハヌマーン

今日6月9日。ロックの日にハヌマーンのサブスクが解禁された。


高校1年生の時、例に漏れず中二病のマインドだった自分は、クラスの皆がバンプやRAD、アジカンを聴いている中で、どれだけマイナーなバンドを探し自らのセンスを誇示出来るかに固執していた。
NUMBER GIRL」が世界で一番のバンドだと思っていた。

その頃はまだサブスクも普及しておらず、youtubeを漁り次に来るであろうバンドを探す日々。
そんな中で体中を刺される様な曲と出会った。

「猿の学生」 ハヌマーン

ナイフの様に鋭く切り裂くギター。
ピック弾きの固くゴリゴリとした重低音で前に出てくるベース。
手数で押しながらも3ピースの厚みをカバーする強いドラム。

一瞬聴いただけで分かった。

「自分と同じくこいつらはNUMBER GIRLが好きだ」


クラスの奴らは誰も聴いてなかった。
薦めて聴いてもらっても皆ピンと来てなかった。
今この時代にNUMBER GIRLは自分しか聴いてないんじゃないかと思っていた。

自分が最も好きなバンド「NUMBER GIRL」

その影をこの曲から感じた。

NUMBER GIRLよりもキャッチーで、それでいてジャキジャキのギター。
BIG MUFFのわざとらしくそれでいて突き抜けるファズがかかったギターソロ。
殴りつけるようなベースだけで始まるイントロ。

もうNUMBER GIRLは解散してるのに。
解散する前にNUMBER GIRLを見つけた様な、自分にとってのNUMBER GIRLが今現れた様な。
そんな感情になった。

サウンドと同じく歌詞も共感しか出来なかった。


呆けた顔して若者が行く 夜の学生街は賑わう
彼奴の吐瀉物 軍手の片方 鼓膜を裂くかまいたちの夜
冬の淀川を流れる死体 猿の学生さん

俺の知らない遊びを知ってそうで
嗚呼なんか急に虚しくなる
猿の学生が悪い事をしている
雰囲気の大蛇に呑まれて笑う
猿の学生さん

高校生の時大学生はクソだと思っていた。
どうせテニサー入って馬鹿みたいに酒を飲んで、馬鹿みたいに騒いで、虚しい奴らだと。

でも自分の知らない事を知っていて、今の自分より少しだけ自由なんじゃないかと思っていた。

山田亮一は大学生を「猿」と揶揄しながら何故だか羨ましく思う自分を
虚しい」と言った。


ああ、自分と同じだと思った。
この歌詞は自分だと思った。


歌詞をちゃんと見た時、小説を読んだ様な感覚に襲われ、自分の中の自尊心や自意識を抉りだされているみたいだった。

自分の好きなものを全部詰め込んだバンド。
それがハヌマーンだった。



そこから狂った様にこのバンドを聴いた。
ライブに行きたかったけど、彼らは大阪で活動していて福岡に住んでいた高校生の自分には行く事が出来なかった。

高校2年生の時に2枚目のアルバム「RE DISTORTION」が出た。
多分彼らの楽曲の中で最も有名な曲もこのアルバムに収録されていた。

「Fever Believer Feedback」 ハヌマーン

ショートディレイのかかったキンキンするようなギター。
動きまくるゴリゴリのベース。
これでもかと手数が多く、それでいてパワフルなドラム。

どう聴いたってパチンコの歌だ。
当時パチンコ何て打ったこともないしどういったものかも知らなかった。


あくまで自分はモラリストみたいな顔して
話は騒音で、聞こえもしないのに頷いて笑う

それでもこの歌詞を見て、浅ましさや人間の欲を本当に良く表していて天才だと思った。


売れると思った。
このバンドが売れなきゃ嘘だろと思った。
いるだろ、NUMBER GIRLの亡霊を未だに追ってる奴ら。
いるだろ、最近のバンドは四つ打ちばっかでつまんねーって言ってる奴ら。
いるだろ、愛だの恋だのうるせーって思ってる奴ら。

だったらハヌマーン聴けよって思っていた。



東京の大学に行った自分はライブに行ける様になった。
大阪まで遠征してnanoで初めてハヌマーンを生で観た。

音がデカくて、ギターがキンキンして、ベースはやっぱりゴリゴリで、ドラムは超上手くて。
山田亮一は大阪でカリスマなんだな、て事も分かった。

ファンの熱量を間近で見て、ハヌマーンを好きな人間がこれだけいるんだって事に嬉しくなった。
ライブに来てる人間は自分も含めてハヌマーンの演奏を見に来ているのと同時に、「売れていくバンド」の熱量に加わりたいという気持ちを持っていた。

自分が音楽を聴き始めた時、既にNUMBER GIRLは解散していた。
曲は聴けるしライブ映像も見れる。
でも、あの時バンドとして大きくなっていく過程を一緒に体験していない。
だから、どれだけNUMBER GIRLが好きでもあの頃の熱量を知っている人間と同じにはなれない。

でもハヌマーンは今活動している。
今のハヌマーンを追う事が出来る。
ハヌマーンは必ず大きくなる。
自分の信じた才能が羽ばたく。
そう確信していた。





2012年 ハヌマーンは突然解散を発表した。

これといった解散理由は語られず、突然ライブがキャンセルとなり、そして1本の動画が公開された。

ネットではボーカル山田亮一の女性問題があったとか、お金の問題だとか、憶測だけが飛び交い、納得出来るような理由を見つける事は出来なかった。


ハヌマーンは前年の年末にCDJに新人枠として出演し、大阪のインディーズバンドから、メジャーバンドになっていく過程を見せてくれていると思っていた。
CDJに出た特典で新しいアルバムを出す事も決まっていた。

これからなのに、これからだったのに、ハヌマーンは解散した。


本当にあっけなく私の青春は終わりを告げた。

どんなバンドも解散すれば、そのファンは解散と言う事実に対して納得する事は出来ないだろう。

自分も同じで未だに納得していなし、未だに再結成してくれと思っている。

解散後3人はそれぞれ新しいバンドを結成した。

ボーカルの山田亮一は「バズマザーズ」を結成し、新しいメンバーと曲を出している。
ハヌマーンは山田亮一が作詞作曲をしていた。
だから新しいバンドを聴けばまたハヌマーンを感じられると思った。

でも、何度聴いても、かっこいいけど、ハヌマーンを聴いていた頃の熱量を感じる事は出来なかった。

ハヌマーンが大きくなっていく過程も一緒にハヌマーンを聴いていたんだと思う。


未だにハヌマーンを聴くし、ハヌマーンと同じ熱量で聴けるバンドには出会っていない。
青春を失い、未だ亡霊を追いかけている自分に突然舞い込んできたハヌマーンのサブスク解禁。


もしかしたら再結成するかもしれない。しないかもしれない。

それでも山田亮一が弾き語りライブでハヌマーンの曲をやったり、ハヌマーンについて話したりする度に再結成するかもと淡い期待を抱いてしまう。


サブスクが何かの契機かもしれないと勝手に思い込んで死んでいくのも悪くない。


何が言いたかったのか忘れてしまったけど、取り敢えずハヌマーンを聴いて欲しい。
最高に皮肉れてて、最高に尖っていて、最高に虚しいバンド。




#ハヌマーン


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