『Wall,Window』で一番好きな曲。
それに、一番優しい曲だと思う。
静謐なピアノの音は、真夜中に差し込む月の光みたいだ。
前半はピアノと歌声だけで進行する。
こういうのは、バラードと言っていいんだっけ?
<今日も誰かを蝕む悲しみを ひとは食べておとなになる>
ふさわしい言葉が見つからないのが悔しいが、この歌詞がとても優しく感じる。
忘れられなかった、癒せなかった、眠りも妨げる"悲しみ"を、忘れさす訳でもなく、癒すわけでもなく、眠りを助長するでもなく、ただ「食べておとなになる」と諭す。
"悲しみ"を受け入れる姿勢が自分にとっては新鮮だったし、上っ面だけの慰めよりもっと深くに届いた。
響くのは呼吸と同じように強弱を繰り返すピアノの旋律だけ。
だからこそ歌が、言葉がよりクリアに聴こえる。
中盤、ドラムが入って音に動きが増える。
<通じ合わない言葉に意味は無いね やめよう ドライフラワーに水をあげるのは>
この歌詞がね・・・一番好きダァ・・・。
「話が通じない」という現象を最も詩的に表現した日本語ナンバーワンだと思う。
家族、友人、恋人、同僚、上司。
衝突した事は多く、納得できないまま身を引いた事も少なくない。
その"悲しみ"を解消してくれたのはこの一文だと間違いなく言える。
新しい視点を教えてくれる曲が好きだ。
『月』はその類の曲だった。
だから大事だ。
ベースの出番はほとんど無い。
3分37秒ごろ、アクセント程度につまびかれる。
それゆえの驚きというか、存在感を前面に押し出す演奏も、引き算の演奏も、どちらもこなせるのが改めて凄い。
<甘いお菓子でみんな逆上せあがってしまったんだ>
<あの口調にはなにかおかしいところがあった>
<たとえ優しさに返答は無くても>
<胸をはれよ>
この、「見ている人は見ているよ」と言ってくれるような視点が好きだ。
『さまよう』で<きみにわからないはずはない 利用された誰かの孤独を>と歌った視点も、同じ所にあると思う。
甘い言葉で騙されて傷ついた人の姿が、見える。
優しさから良かれと思って行動し、裏切られたいつかの自分に、重なる。
でも、優しさを躊躇して誰かが傷ついたままより、自分の傷なんかどうでもいいから他人に優しくする方がマシだ。と思って生きて来た。
たとえ裏切られても、そっちの方が後悔が無い。
手の届く範囲で人に優しく。
それは祖母の教えにも則っていて、祖母は「気づかれない事が本当の気遣いよ」と教えてくれた。
"褒められたい"というモチベーションで行動する事は、気遣いではない。
それを理念に"気遣って"来た。
それゆえに伝わらない事も沢山あった。
いや、今でも毎日伝わらない。
けど、それでいいのだ。
祖母の言葉を信じてる。
その上、そういう人を見てくれている歌がある事も知っている。
十分すぎるほど満足だ。
後半も、靜かなピアノ、控え目なドラム、子守唄のような歌声でゆったりと進んでいく。
<今日も誰かを蝕む悲しみを きみはのみこんだ>
<おおきなくちをあけて>
<のみこんだ>
月の満ち欠けを「悲しみを飲み込む」と表現するのは、あまりに優しい。
それも不特定多数の誰かの悲しみで、月という巨大な自然でないと包括できないスケールなのも素晴らしい。
お得意の多展開構成は封印し、緩やかなバラードのまま後奏へ向かう。
その穏やかさは子守唄のようでもあり、悲しみを飲み込まれた我々はとろとろと眠りに引き込まれる。
「癒すわけでもなく」と序盤で書いてしまったが、そういう意図が無くても、聴者は自然と癒されていくのかもしれない。
目を閉じれば、優しい月光に包まれているような気持ちになる。
よく眠れそうだ。
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イラストの話。
『月』というタイトルのロックといえば、ELLEGARDENが外せない。
学生時代に、家族が寝静まった夜中に一人で聴いていた。
<町の音が聞こえるように 窓を少しだけ開けておいた>
<どこどこいう機械の音 今は少しだけ止んでほしい>
周りは田んぼだったから、実際に聴こえるのはカエルの鳴き声だった。
都会的なこの歌詞に惹かれ、この曲の主人公が見ている空には、どんな月が上がっているんだろう?とよく空想していた。
その空想をイラストで出力し続けている。
月を機械っぽく描きたくなるのは、ELLEGARDENの『月』の影響だ。
People In The Boxの『月』の要素は十分出力したと思うが、別の要素も実は入れてしまった。
メカっぽい月、夜景、花と好きなモチーフしか描いていない。
凄く楽しかった。